本物の魔王が、魔王と名乗る信長の配下となる

るい

序章

ある合戦にて

 天を突き抜けるかのような火縄銃の銃声と共に、倒れていくリザードマン。


 剣や槍、矢などを弾き返すほどの硬い鱗に覆われたリザードマンが、弾丸に倒れて行くのを目の当たりにした。


「ロイ。戦場の常識が変わるぞ」


 魔王の息子である俺は、右腕であるロイに、火縄銃の脅威を伝える。


「はい。勇者と魔王の戦争に火縄銃があったら、戦争が数年早く終わっていたかもしれません」


 ロイの顔には、冷や汗が流れていた。それほど、火縄銃の恐ろしさを、痛感しているのだ。


 俺は、視線を隣にある旗へ目を向けた。


「織田信長、なんて物を量産していたのだ」


 その旗には、織田家の家紋であるいつ木瓜もっこう、花形の家紋が描かれていた。初めて、見た時は美しさを感じた家紋だった。しかし、今は恐ろしい家紋に見える。


 兄のアルによって、人間の姿へ変えられてしまったことに最初は恨んでいた。しかし、今となれば、織田軍の一員として戦場に立てることができたので、感謝している。火縄銃の製法を習得し、魔王領に持ち帰れば、魔王軍の大きな戦力アップにつながると確信しただけでも、収穫が大きい。


「火矢を放て!」


 織田軍は、火縄銃で混乱に陥った、リザードマンの軍団に火矢を放った。放たれた火矢は、リザードマンの足元にある枯草に引火し、リザードマンを燃やし尽くす。


 瞬く間にリザードマンは、火に包まれた。


「接近戦に持ち込めー!」


 おそらく、リザードマンの指揮官であろう男の怒声が聞こえる。確かに、火縄銃の音と威力には、面を食らった。しかし、織田軍が相手しているのは、武闘派としても知られている、もう一人の兄レイが傘下にしているリザードマンだ。これだけでは、士気は折れない。


「もう一度、突撃を仕掛けて来る」


 俺の言った通りに、リザードマンの軍団は火の海を切り抜けて、織田軍の本陣に向かって突撃を開始した。火縄銃の威力は絶大だ。しかし、大魔法と同じように、威力が大きい火縄銃もクールタイムがあるはずだ。


「リン様。敵が来ます」


「今度は、接近戦になるな」


 俺とロイは、腰に差してある刀を抜こうとした。


「鉄砲隊! 構え!」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は耳を疑った。


「もう、発射できるだと?」


 まだ、数分しか経っていないぞ。魔法なら、あの威力の技を放てば、まだ次の発射までに時間がかかる。火縄銃は、魔法よりも優れているってことになるのか。


「おおおお!」


 もう、火縄銃の発射準備ができているとは知らない、リザードマンの軍団は雄叫びをあげて、突撃して来る。


「放て!」


 再び、天を突き抜けるかのような火縄銃の銃声が聞こえた。


「魔王信長……」


 二度目の火縄銃による攻撃で、倒れていくリザードマン。恐れを知らないはずのリザードマンの軍団は、立ちすくんでしまい動けなくなっていた。


 勇者と魔王の戦争では、数々の重要な場面で活躍したリザードマンが、立ちすくんでいる。戦争の常識を書き換える男、織田信長。魔王の息子である俺は、信長が恐ろしい魔王に思えてしまった。

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