襲撃
「熱田神宮内の案内は、こんな感じです」
利水の案内を終えた俺達は、利水の案内で熱田神宮の本殿にある部屋の中にいた。
「これが、神社って建物か」
「珍しいですか?」
「そうだな。俺がいた所は、石造りの建物がほとんどだった」
「木の建物も、なかなかいいでしょ?」
「あぁ。気に入った」
「それは、良かった」
こん、こん。
利水と話していると、扉が叩かれる音が聞こえた。
「利水様、お茶を持って来ました」
透き通った女性の声が、聞こえた。
「ご苦労。入って来てくれ」
巫女服を着た女性が俺達の前に、お茶を置く。
「失礼しました」
女性は、お茶を置き終えると、部屋を出て行く。
「話が変わりますが、私を狙っている暗殺者は熱田を拠点にしているので、間違いないですか?」
利水は、お茶をすすって言う。自分の命が狙われているのに、落ち着いていられるな。
「あぁ、間違いない。津島にいる、闘技場の管理人が言っていた」
「津島にいる闘技場の管理人……あぁ、元々信長の御用商人だった彼ですか」
「知っているのか?」
「何回か、商人時代の彼に会ったことがあります。なるほど、彼が言うなら間違いなさそうですね」
利水の口調を聞くと、闘技場の管理人は、信頼度が高いと見える。それほど、持っている情報が正確ってことなのだろう。
「熱田の暗殺者について利水は知っているのか?」
「噂程度には、聞いたことがあります。姿を現さず、正確に敵を射抜いて暗殺を遂行する暗殺者。熱田にいる有力な商人や地主が、何人かやられています」
「捕まえられないのか?」
「はい。熱田にいる自警団が、必死になって探しているんですか、なかなか尻尾を掴ませてくれないそうです。手に入る情報も、正確さに疑問があり、正直信用ができません。しかし、現場に残っていた矢などの武器から、伊賀出身の人物であるそうです」
暗殺者は伊賀出身、宿場町で言っていた暗殺者の言う通りだ。
「利水」
「なんですか?」
「今日の夜は、もちろん護衛をつけるんだよな?」
「はい。私の使いが、今頃自警団と話している所だと思います」
今は、夕方になった頃だ。日が沈んでいないとはいえ、油断が出来ない。
「利水、これからの予定は?」
「夕方に祈祷して、夜は、この本殿で過ごす予定です」
「わかった。暗殺者がいつ来るか、わからない。警戒をしておく」
「ありがとうございます」
俺達は、いつ暗殺者が来ても、いいように準備をしていたが、結局夕方は襲撃がなかった。
夜になると、自警団も数十人来て、熱田神宮内を警備し始める。
「リン、夜は冷えるな」
汎秀は、手を擦りながら言う。
「ひろ、本殿内にいてもいいぞ。外は、自警団と俺とカグヤもいる」
「ひろさん、私の所に来てください」
本殿内の部屋で座っている利水も顔を覗かせて、汎秀に話しかける。
「うん、わかった」
汎秀は、利水の元に行く。
「カグヤ、敵は来ると思うか?」
「わからない。でも、自警団がいるから、暗殺に気づかれているのは、暗殺者の方もわかっていると思う」
諦めが良ければ、何事もなく終わるが、暗殺者はどう出る。
「そこの自警団の人」
「ん、俺かい?」
とりあえず、情報を共有しとこう。
「変わりはないか?」
「んー、特にないな。平和そのものだ」
「変わりないか、ありがとう」
「あいよ」
自警団の男性と話を終え、元の場所に戻る。
「火事だー!」
遠くから、男性の大声が聞こえた。
「火事だと!?」
叫び声の方を見ると、熱田神宮の近くから、火の手が見えた。敷地内の火事ではない。しかし、このタイミングでの家事。絶対に暗殺者と関係がある。
「リン」
カグヤが、俺に話しかける。
「どうした?」
「今の火事で、熱田神宮内にいた自警団が動揺している。暗殺者が来るなら、今来るよ」
カグヤは、そう言うとなぎなたを構える。
「そうだな」
俺も、警戒のために刀を抜く。
「なんだ?」
近くにいた自警団の男性が、不思議そうに熱田神宮を囲んでいる塀の方を見ている。
「どうした?」
「今、塀の向こうにある木から、光った物が見えた気が……」
自警団の男性は、途中で声を発することもなく倒れた。
「大丈夫か!?」
駆け寄ろうとしたが、男性の胸に矢が見えた。確か、相手の暗殺者が使う武器は、遠距離武器。
「カグヤ! 暗殺者が来るぞ!」
「わかっているわ!」
カグヤは、そう言うと、目の色が黒から赤に変わっていく。
「あれは、魔眼か?」
魔力を目に集中させることで、普段では目が捉えられない情報を手に入れることができる術の一種。俺が、闘技場で使おうとして、できなかった術だ。
「見えたわ」
カグヤは、敷地内にある、木の一つを指さす。
「あの木に、誰か乗っているわ」
「自警団! あの木を取り囲め!」
既に敷地内へ入られていたか。おそらく、自警団の男が倒れた時、目を離した隙に入って来ていたのだろう。
「おう!」
自警団の男達は、カグヤが指さした木に近づいて行く。
「カグヤ、まだ木に暗殺者はいるのか?」
「うん。いるわ」
「その目、ずっと使える訳ではないだろう。あと、どれくらい持つ?」
「妖怪の目に詳しいのね。そうね、後五分ってところかしら」
日本では、魔眼ではなく、『妖怪の目』と呼ばれているのか。
「五分もあれば大丈夫だ」
「全方位から、取り囲め!」
「おう!」
自警団は、木を全方位から囲み、距離を詰めていく。
すると、木から何かが落ちてきた。
「なんだ?」
「この小ささ、木の実か?」
自警団が近づこうとすると、落ちた物から煙が発生し始めた。
「なんだ!?」
自警団達は、煙に包まれていく。
「何も見えない!」
自警団の戸惑った声が聞こえてくる中、煙から何かが飛び出してくる。
「リン! 今出て来たのは、自警団の人じゃない。暗殺者よ!」
「わかっている!」
黒装束に身を包んだ人物が、真っ直ぐこちらに走ってくる。顔も。覆面しており素顔がわからない。
「ここ周辺の自警団は、みんな煙の中だ。俺達で守るしかないか」
刀を抜き、身を構える。
「リン、相手の武器は、遠距離武器よ、気を付けて」
カグヤが言ったのと同時に、矢が飛んでくる。
「これぐらいの矢なら、避けるのは簡単だ」
矢を避けていくと、足元に一本の矢が刺さる。
「なんだ、この矢は?」
矢には、導火線が引かれている。導火線?
「リン、危ない!」
「爆弾か! しま……」
矢が爆発する。直接くらってしまった。体は、無事か?
「あれ、怪我していない?」
俺の周囲は、白い煙に包まれていた。これって、煙幕か?
「リン、大丈夫!?」
カグヤが、慌てて近づいてくる。
「あれ、怪我していない……」
「どうやら、矢に付けていたのは、煙玉のようだ」
「良かった……あれ、暗殺者は?」
「しまった!」
敵の誘導に、まんまとはまってしまった。この、白煙は暗殺者から注意をそらすための罠だ。
「もう、本殿内に入っているかもしれない。急ぐぞ!」
「うん!」
急いで、本殿内に入る。
「うわあああ!?」
本殿の中を走っていると、悲鳴が聞こえた。
「この声、ひろか!?」
やつは、利水のところまで、辿り着いている。俺とカグヤの足は、早まる。
すぐに。利水達がいる部屋が見え、部屋の中に飛び込んだ。
「大丈夫か!?」
利水達がいる部屋の中に入ると、刀を構えている利水に、暗殺者に拘束されている汎秀の姿があった。
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