軍議
「リン待たせたな」
数時間ぐらい歩き続けただろうか、俺達の前に、大きな城が一つ建っていた。土台は石で積まれ、その上に木造の建物が建っている。外壁の壁を黒色に塗り、黒色の城になっている。美しい城だ。
「
信長は、そう言うと清州城に入城した。
「ロイよ」
「はい。リン様」
「日本の城は美しいな」
「えぇ」
俺が住んでいた城は、石造りの城だ。木造建ての城は、滅多に見ない。木造でしか、表現できない美しさに、目が奪われた。
「おい、早く行こうぜ。信長様、先に入ったぞ」
「あぁ」
利家に言われ、清洲城の中に入る。俺も、いつか木造建ての城に住みたいものだ。
城の中に入ると、使用人と思われる人や、腰に剣を差している兵が慌ただしく動いていた。
「お、勝家さん。お疲れ様です」
「利家か、ご苦労だったな」
無精ひげを生やし、体格が大きい男が利家と話している。利家も槍の使い手で、決して細い体つきをしているわけではない。しかし、そんな利家が小さく見えるほど、男の体格が大きかった。
「そこにいる、変わった服を着た男二人組は何者だ?」
「あれは、新しい俺達の仲間です」
「ほう、また変わったやつを仲間にしたな。信長様は」
男は、俺の方に近づいてくる。
「
「リンです」
「ロイと申します」
勝家は、俺とロイ、交互に握手を交わした。
「ちなみに、二人とも中々の手練れ」
利家は、勝家に告げ口する。
「ほう?」
勝家は、俺とロイのことをまじまじと見る。
「いつか手合わせを願いたいな。がはは!」
勝家は、豪快に笑った。
「勝家様、利家様!」
一人の青年が、走って俺達の所に駆け寄った。
「信長の
「小姓?」
俺のつぶやきに、利家が俺のそばに寄る。
「信長の付き人だよ」
「付き人……執事みたいなものか」
ここでは、執事のことを小姓っていうのか。
「どうした、そんな慌てて」
「信長様が、軍議を開くと申し上げております」
「軍議だと!? さっき、戦が終わったばかりではないか!」
勝家は、その報告を聞き、驚いた声をあげた。
「全員参加せよってことです」
「む、わかった」
「勝家、落ち着け。軍議は開くが、明日、明後日いきなり始める訳ではなかろう。信長様は、そんな無鉄砲の作戦は突然取らない」
利家は、勝家をなだめるように言う。
「そうだな。一回、信長様の所に向かおう」
勝家と利家は、歩き始めた。
「リン様とロイ様も軍議に参加せよとのこと」
「俺達もか」
ロイと目を合わせる。
「リン様、行きましょう」
「わかった」
「おーい、リンー! ロイー! 来るだろー?」
利家は、俺達に聞こえる声で呼びかける。
「今、行くー!」
俺は、返事して、利家達の所へ向かった。
「よく集まった」
利家達と部屋の中に入ると、信長の他に二人の男が座っていた。
「座るか」
勝家と利家は、先に座っていた男の隣に座る。俺とロイも、もう一人の隣に座った。
「リンとロイは、初めて会うな。挨拶してくれ」
「
見る感じ、優しそうな人だ。織田家にも、こんな優しそうな男がいたのだな。
「我は
勝家と同じぐらいの大男だ。至るとこに傷跡がある。前線を戦ってきた男だろう。
「他にも家臣はいるが、みんな各地で仕事に励んでいる。ここにいる俺を含めて七人で軍議をやることにする」
「あれ、政秀さんは?」
信長の教育係をしていたと言っていた、平手政秀がいなかった。
「政秀は、いま兵士に恩賞や、物資の整理など事務処理に追われている。後で、軍議で決まったことを教えることにした」
後で、政秀が『坊ちゃまー!?』って叫ぶところまで予想できた。
「信長様、軍議の内容は?」
「もちろん美濃攻めについてだ」
信長は地図を広げた。
「これは、尾張国と美濃国だけが載っている地図だ」
「城や砦の場所まで書かれているな」
森可成は、そう呟き、じっと地図を眺める。
「斎藤家の当主、
「山城か」
地図上だけでも、見たらわかる。この城は、かなり手強いぞ。
「しかも、この稲葉山城は、同じ山の中に砦が築かれている。山全体が要塞と言っても、おかしくはないだろう」
山城は、生活するには向かないが、戦になると難攻不落と言っていいほどの堅牢な城になる。
「リンよ、もし稲葉山城を落とすとしたら、どう攻める」
信長は、俺の方を見る。試されている気がするな。
「俺なら、この稲葉山城を孤立させます。周りにある、斎藤家に属する城を落とし、支援が来ないようにします」
「なるほど、その後は?」
「稲葉山城は、見る限り山城。守りには真価が出ますが、生活をするとなると不便が出ます。食料や水などの貯蔵庫を襲撃し、敵に動揺を誘うのもありかと」
「良い戦略だ」
信長は、笑顔で頷いた。
「リンが言っていたように、まずは稲葉山城の周りにある城を落とす」
信長の発言に、みんな頷いた。
「長秀、兵士が揃うまでに、どれくらいかかる?」
「正規兵以外も集めて、総力戦をしかけるとするなら、二ヶ月後が最適かと。稲刈りも終わって、兵糧も補充でき、農民の手も空き始める頃です」
「よし、わかった。二ヶ月後に美濃信仰を開始する。皆、それまでに準備をおわらせるようにしてくれ」
「はっ」
「今回の軍議は終わりとする」
利家達は、頭を下げると部屋を出て行った。
「リン」
「はい」
俺もロイを連れて出ようとしたが、信長に呼び止められた。
「連れている従者は、ロイだけだと言ったな」
「ロイだけです」
「リンは、この二ヶ月で仲間を集めて郎党を作れ」
「郎党?」
「自分の手足となる仲間のことだ。郎党がいるだけ、大事な場面の助けとなる」
「わかった。皆は、どうやって郎党を作っているのだ?」
「いろいろな方法がある。戦争で遺児になった者を郎党に迎える者や、山賊や盗賊を仲間に引き抜く者もいる」
「なるほど」
「ちなみにこれは、尾張という国を知るきっかけにもなる。いろんな所に行って尾張国という国を知ってこい」
俺は、信長に頭を下げると、部屋を後にした。
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