第17話 幽霊の王子様

「どういう……?」


頭から吹き込む豪雨で身体はずぶ濡れだったけれど、唇は冷えて乾ききっていた。

差し出された手を凝視しながら立ち尽くす私に、金髪の幽霊は優雅に一礼した。


「ああ、失礼。ご挨拶がまだでした。このたびは、ご家族が冥府の神の外套に包まれたこと、まことにお寂しいことと存じます」


今日ひたすらに言われ続けた、お悔やみのご挨拶も耳に入らない。


「だけど、安心して。君は家族を取り戻せるんだ」


固まっている私の前で、幽霊は顔をあげてにっこりと笑った。

蜂蜜のように甘い微笑みだった。


「なにしろ僕は、時間を戻せる。死んだのはこれで三回目なんだから!」


「三回目……」


私より二回多いな、とぼんやり思っていると、幽霊は私の顔をのぞきこんで、透けた真珠のような指を胸元へ向けてきた。


「君は一回死んでいるだろう? 僕とそっくりだからすぐわかったよ」

「な……!」


青ざめて後ずさる私に、幽霊がぱちんと器用に指を鳴らす。

途端に、急に窓がきしんで、ひとりでにバタンと閉じた。

思わず私は振り返り、恐怖と共に窓と幽霊を見比べた。

風があるとはいえ、古い窓だから蝶番は硬かったはずなのに。


「な……何の話か、わかりません」


震える声でしらばっくれる私を気にせず、彼はずぶ濡れの寝台の上に足を組んで腰かけた。


「隠したいの? 無駄なのになぁ。まあ、ひとまず、長話になるから座ってよ」


まるで、そこが自分の書斎にある居心地のいいカウチソファであるかのように、幽霊が気楽に隣をすすめる。


「三回目とはいっても、まだ結構何もわからなくてね。幽霊になったのもこれがはじめて。幽霊って面白いんだね、これはこれで新鮮な体験だと思ってるよ」


幽霊は、私の戸惑いを一切気にせず、茶飲み話のような口ぶりで呑気に話し続ける。

あまりに一度に色んな事が起きるので、私はどんな顔をして、どんな感情になればいいのか分からなくなった。

顔を強ばらせながら突っ立っている私を見て、幽霊は「あ、ごめんね」と言って、またパチンと指を鳴らした。

雨水を吸った毛布は、シーツおばけのように持ち上がると、勝手に部屋の隅へと投げ出されていく。


「どうぞ、レディ」


毛布が身体の下から引き抜かれたのに、当の幽霊は微動だにせず、むき出しになった木箱へゆったりと座っていた。

私は、全身が強ばっているのを感じながら、幽霊となるべく距離をあけて、おそるおそる隣に座る。


「何で幽霊なんだろう、とは思うけどね。でも、いつもは死んだその時から、ちょうど十年戻るから、それの影響じゃないかなあとは思ってるんだ。今回は八歳に死んでしまったから、あと二年経ったら時間が戻るんじゃないかなって……」

「死んで時間が戻る……」


私とは違うパターンだ。彼は、異界から訪れた訳ではないらしい。

幽霊は肩をすくめ、いたずらっぽく流し目をした。


「この国に住んでいるなら、回帰の竜のおとぎ話は知っているよね?」

「あ、はい……」


昔、お母様が話してくれた。

幾度も死して蘇る回帰の竜が、神々に作られた星の娘の心を射止めて地上に降り、共にこの国を作ったという、アウローラ王国の建国神話だ。

冥府の神も光の主神も、回帰の竜と星の娘の友であり、地上に降りた後も守護を約束してくれているからこそ、多くの人々に信仰されているのだ。


反射的に頷いた私に、ふふっと頬杖をついて、幽霊は私の顔を覗き込んだ。

きょろっと大きな金の瞳が、強ばった私の顔を映している。


「僕の名前はウィリアム。アウローラ王国ウィプス王家、正妃の長男。ウィリアム・オーブ・ウィプス・アウローラ」


私は木箱から飛び上がって、ひっくり返った声をあげた。


「王太子殿下!?」

「そう。君がオーブに新年の贈り物を買いに来た日に死んだ、王太子の幽霊さ」


あまりにも途方もない名前に、私は立ち尽くしたままいっそ笑ってしまった。


「何言っているんですか? 王太子様がこんなところにいるわけありません。そもそも、お亡くなりにもなっていないんですから……」


確かに、オーブで妖精の歌をきいた。

不吉な鉄の歌を、妖精達は歌っていた。

でも、王太子が死んだなんてそんな一大事、この平和なアウローラ王国でまだ聞いたこともない。


「そう、これでも?」


自称王子様はくるっと背中を向けて、喪服の上着を素早く脱いだ。

ひ、と私の喉で小さな悲鳴が鳴る。

彼の青白い背中には、ぽっかりと大きくえぐれ、皮膚が皺になった、血の気のない傷跡があった。

この大きさでは、到底助からないに違いない。


「あ、ごめんね。レディに変なもの見せて。もう少し上だよ。傷じゃなくて、肩のところ」


そんな事を言われても、赤黒い血が固まった大きな傷はグロテスクで、見たくなくても目がいってしまう。

私は目を半分だけうすく開けながら、言われた通りに肩と首の間あたりに目を向け、あ、と声をあげる。

子供らしい細い首筋からは細い金髪がふわっと浮き上がり、青い線で竜と剣が交差する模様があらわれている。


「ひっ……」


私は、さっきより大きな声で、また短く悲鳴をあげた。


「お……王家の紋章……」

「そう。この紋章はみだりに使ったら、反逆とみなされて死罪になる。まして身体に刻むなんてもっての他だ。つまり、これを刻んでいる僕は本物ってことにならない?」

「それは……その……」

「大人の事情ってやつでしばらく伏せられているだけで、今に盛大に王太子の国葬が行われるよ。そうしたら信じてくれる?」

「……どうでしょう。王太子様の側近だったとしても、知れる話ではありますし……」


大人の話はほとんど理解できたとはいえ、まだ五歳で知れるこの国の事情などたかが知れている。

だから、相手が嘘をついているかいないのかの判断もできない。

曖昧な顔でぼそぼそ呟く私に、王子を自称する幽霊は楽しげに手を叩いた。


「あははっ。確かに、双子とか影役かも知れないものね」


彼は笑いを収めると、まあそれはそうか、とあっさり納得して、服を着直すと再び木箱に座った。


「まあ、いいや。信じたくなったら信じてよ。どちらにせよ、僕は回帰の竜の血を引く、回帰の王だ。そして君は、僕と同じように回帰できる特別な人間。そうだろう?」


険しい顔のまま黙り込む私へ、幽霊は頬杖をついて、ゆっくりと目を細める。

見た目通りの幼い子供にはありえない、奇妙に色気のにじむ仕草だった。


「君は、僕と同じように、前世の記憶を持っている」


私はしばらく立ち尽くし、床を睨んだ。

けれど、相手は幽霊で、もはや私は何も失うものがない身だ。

ふーっと深くため息をつき、私は幽霊を睨んだ。


「…………だったら、どうだと言うんですか」

「やった! ようやく認めてくれたね」


嬉しそうに笑った幽霊は、ごきげんのまま、ぱちぱちっと両手を叩いた。

途端に、私の身体がふわりと浮き上がり、勝手に木箱へ座らせられる。

いきなり無重力になって両手足を取られたような感覚に、私は「ひっ」と顔をひきつらせて硬直した。


「回帰の王が二人いるなんて聞いたことないけど、まあこうやって居るんだから仕方ないよね。ようやく出会えた仲間同士、仲良くしていこう?」


恐怖に強ばる私の顔を前にしても、自称王太子の幽霊はごきげんだった。

うんうんと両手を顎の下で合わせたままま微笑み、社交的にまた手をさしだす。ビスクドールのように美しい顔が、無駄にまばゆい。


「本当にあなたが王太子殿下ならば……どうして、私が前世を覚えてることを知っているんですか?」


膝の上で拳を握ったまま、私はじりじりと身を引いた。


「いいよ、順を追って説明してあげるね」


幽霊は、差し出した手を気を悪くした風もなくひっこめ、といってもそう複雑な話じゃないよ、と優雅に足を組んだ。


「君は、僕にとって三回目の人生で、はじめて現れた人間だったんだ。その上、妖精姫と回帰の竜が眠るトーラス領の人間。だから、何かあるのかも知れない、って思ってたのが五年前」

「はぁ……」


生まれた時からそんな風に思われていたのは、光栄なような、理不尽なような。

にこやかな幽霊には悪いが、知らんがな、という感覚が一番近い。


「実感がわかない? 僕にとっては大きな転機だと思ったんだけどなぁ。しかも、君が生まれた時、とある妖精が見える王宮の人間が、あわてて祝福に顔を出したんだ。いよいよこれは何かあると思って、僕も一緒に顔を見に行ったんだ。覚えてる?」

「生まれたばかりのことですので、目がよく見えなくて……」

「あ、赤ん坊ってそうなんだ? 僕、まだ赤ん坊はやったことないからさ。……でもまあ、君を見た時、ピンときたんだ。あ、この子は前世を知ってる子だなって。結構僕も経験あるからわかるんだよね。大人達が話している内容を理解した上で、分からないふりをするの」


そんなにわかりやすい顔をしていたのだろうか。

疑念が顔に出ていたらしい。

幽霊は、あははと無邪気に笑って、柔らかなくせっ毛を耳にかけた。


「それからずっと、この世には僕の他にも前世を知っている子が居るんだって、励まされていた。本当は、生きているうちに迎えに行きたかったけど、思いの他早くに僕は死んじゃったからさ。でも、代わりに自由に動けるようになったから、王宮で情報を集めていて……」


自分の死のことは陽気に話すくせに、急に悲しそうな顔をして、幽霊はそっと声を低めた。


「そしたらトーラス子爵屋敷が急に襲われたって聞いたから、慌てて会いに来たんだ。僕が着いた時にはもうお葬式で、何もできなかったけど……。ほら、幽霊は、招かれた屋敷じゃないと入れないから」


ほら、と言われても、そんな幽霊ローカルルールなど初耳だ。

だが、それで疑念の一端は解消できたので、私はひとつまばたきをした。


「だから、窓まで浮き上がって、私のいる部屋を見つめていたのですか?」

「うん。伯爵屋敷の窓から、君がここに連れてこられたのは見えていたから」


どうやら、その時に私が家族と勘違いして、突然に窓を開けて招いてしまったらしい。

ふっと寂しそうに、幽霊は口元だけで微笑んだ。


「万が一、僕のことが見えなかったらどうしようかと思っていたから、話せてよかった」


いきさつは分かったけれど、納得はちっともできない。

私は、ぎりぎりまで木箱の端に寄りながら、幽霊を睨んだ。


「……何が目的ですか」


単に、楽しく親交を深めようという目的でこんなところに押しかけてくるとは思えない。

そもそも、家族を亡くしたばかりの私にそんな話を急に持ちかけて来るのだとしたら、本当に王太子だったとしても無神経すぎる。


「取引をしにきたんだ」


けれど、幽霊は棘のある視線をさらりと受け流してあっさり笑った。


「さっき見たと思うけど、僕の背中の傷を作ったやつが誰だか、僕にはわからない。君もそうだろう? 君の家族を殺した相手は誰か言えるかい? トーラス子爵令嬢」


急に、喉の奥が焼けた鉄を押しつけられたように熱くなり、私は息を詰めた。

指先が冷え、胸が空気に押されたかのように気持ち悪い。


「盗賊だったと……聞きました」


絞り出すように言えば、幽霊は「信じてないだろう?」と静かに言った。


「郊外とはいえ、王都オーブに位置する子爵家だけをあの人数で急に襲う盗賊なんて、随分とやけくそだったみたいだ。しかも、捕らえられた盗賊は、ちょっと目を離した隙に皆自分で死んじゃったらしいじゃないか」

「そう……だったんですか?」

「ああ。そうか。君はいっぱいいっぱいで、ほとんど何も聞けてないのか。もしかしたら、伯爵屋敷の周りで噂話を集めていた僕の方が、詳しいかも知れないね。……この事件は、君が思うよりも根深く王宮の陰謀に絡んでいるから」


ごめんね、と囁いた幽霊に、私は唇を噛む。

自分があの事件について何も知らなかったことが、今更ながらひどく無力感をあおった。

私は結局、事件の概要すらも何も知らないまま流される、物の数にも入らないような子供だったのだ。

今も、そしてこれからも。

どうしてあんな事が起きたのか、私は何一つ、知れる立場ではない。


私の心を読んだように、幽霊はぐっと胸を張った。


「だから互いに協力して、お互いに復讐するべき相手を探すんだ」


金髪の子供の幽霊は、にっこりと華やかに笑って、歌うように言う。


「どうかな、僕は君の復讐の手伝いをする。その代わりに君は、僕を殺した人間を探す手伝いをして欲しいんだ」


私は、つかの間、差し出された手をじっと眺めた。

そして、うっすらと微笑むと、木箱の上に立ち上がる。


「ユレイア?」


幽霊の声を無視し、私は薄笑いのまま、閉じられた窓を静かに開いた。


「わかりました、死にます」

「待って待って待って待って」


無造作に窓枠へ足をかけ、身を乗り出す私の胴体を、幽霊が両手ですがりついて引き戻そうとした。

腕自体は透けて私の腹をすり抜けたが、ぱちんと指を鳴らした瞬間、ふわりと身体が浮いた。

かかとが浮き、腕が泳ぎ、私は再び木箱に座らせられる。


「なんでそうなるの!? 二年経ったら、僕が時間を戻してまた両親に会わせてあげるんだよ!」


幽霊は、真正面に立って私の肩を掴み「信じられない!」と叫ぶが、信じられないのは私の方だ。

真顔のままで、淡く月光のように透ける幽霊の瞳をまっすぐ見返した。


「だって、ただ時間が戻るだけじゃないですか」


時間が例え戻ったとしても、私はまだ五歳なのだ。

今から二年前に戻ったとしても、あの襲撃をなかったことに出来る大活躍が出来るだなんて、とても思えない。


「また今日みたいなことが繰り返されるだけなら、こっちの方がよっぽど手早いです」


私は再び立ち上がり、淡々と木箱に登って、幽霊が閉じた窓を再び開けようとした。

幽霊は、さっきの華やかな余裕をかなぐり捨てて私の腰にすがり、半泣きでわめく。


「やめて! お願い! 命を大事にして!」

「放してください」

「落ち着いて! 冷静になって! 君は今混乱しているんだよ!」

「ここ五年で一番余計なお世話という言葉を使いたいです」

「君の人生って幸せだったんだね!」

「そう、幸せだったんです。そして今、有終の美を飾るの」

「表彰式にはまだ早いよ! ここから先に一発逆転の大盛り上がりが始まるんだから!」

「どん詰まりの落下事故なら見せてあげられます」

「落ちないで! 盛り上がって! 僕らは試合開始の号令を聞いたばかりなんだから!」

「すみません棄権します」

「しないで。馬に乗って。走り抜けて」

「走りぬいた成果が今ここに」

「よく見て、その成果。本当に満足ですか?」

「満足です」

「もっとよく見て! 冷静に、しっかり穴が開くほどよく見てお願い!」

「どうして死んではいけないんですか」


まだ生きている私は、凍り付いたような顔のまま、既に死んでいる幽霊に向かって静かに聞いた。


「どうしてまだ生きていなくてはいけないの。私、今度こそ幸せになれると思ったのに、今の家族は私に何もかもをくれたのに……!」


話しているうちに気がたかぶってきて、私は語尾を震わせて幽霊を睨んだ。


「確かに私は、ここではない別の世界から訪れた魂でした。だけど、これでも家族を大切に想っていたんです。私だけ特別で、前世を覚えてて、それが何? 結局、最後まで家族の足手まといだったじゃありませんか」

「そういうつもりで、君が特別だなんて言ったんじゃないよ! 駄目だよ、死んだら駄目だ! 考え直して、お願い!」

「十分な議論ができたと思います。では失礼」

「お願い、待って! 話を聞いて! 命を大事にして!」


彼がまた指を鳴らして私の身体を浮かせようとするので、窓枠を掴んで全力で抵抗する。


「放して! 死なせて! もう生きていていいことなんかないんだから!」

「そんなことない、希望があるじゃない! 僕と言う名の希望が! 僕は本当に、君の望みを叶えられるよ!」


私は「知らない放して!」と絶叫して窓を開こうとし、幽霊は私の腕を羽交い締めしつつ、ぱちん、ぱちんと何度も指を鳴らした。

そのたびに身体が後ろに引き寄せられたが、私は渾身の力で踏ん張り、お互いの力がぎりぎりで拮抗する。


「幸せになれる保証なんかないじゃない。またこんな風に裏切られるんだ! だったら私、今確実に家族のところへ戻るから!」

「お願い! お願いだから待って! 早まらないでお願い、君には可能性も未来もある!」

「私なんか何も出来ない、私は絶対に失敗する! 何もかも私は失敗するに決まってる! 何度も繰り返して頑張る気力なんてない!」

「必ず失敗するって言うなら、その予想だって失敗するよ。だから君はきっと出来るよ!」

「へりくつ言わないでよ!」

「言うよ! 屁理屈くらい言わせてよ! ねえ、何にも出来ないなら、今から学んでいこうよ。誰だっていつからだって、まだまだ色んなことを覚えられるん……だか、ら!」


幽霊が顔を真っ赤にして、大きく身体を振ると、足を滑らせた私は真後ろにひっくり返った。

頭から落ちてくれればよかったのに、身体はふわりと浮き上がり、床の上に丁寧に立たされた。

身体をつつむ力が途切れた瞬間、私は枝を離れた果実のように膝から崩れ落ちる。


疲れた。久しぶりに大声を出して喉があつい。

肩で息をして、私はひりひりする指を握りこみ、歯を食いしばった。

身体がほんのり熱いことが、生きていることの証明のようで無性に腹立たしかった。


「やめてください……」


飽きもせず涙がじんわりとにじみ、顔を覆った指の隙間から、つうっとこぼれ落ちる。

うう、と呻いたら、また発作のように涙が止まらなくなって、私はしゃくりあげながら肩を震わせて嗚咽した。


「愛してくれる人もいないのに、幸せになれる訳ない……」


幽霊が、うろうろと私の周りをさまよっていた気配がした。

けれど、急に私の両手を前に動かし、だったら、と声を張り上げる。


「僕が必ず幸せにしてあげるから!」


顔を上げれば幽霊は、私の手に透明な手を重ね、真剣な顔をしていた。

人形らしい無機質さも、幽霊らしい謎めかしさもまったくない、ただ一生懸命で必死な人間の顔だ。

子供の顔だ。私よりもよっぽど。

そして、あまりにも育ちの良い人間の言葉。


かすかな羨望と共にぐしゃっと顔を歪めて、私は震える声で彼を睨んだ。


「幽霊のくせに」

「だから生き返りたいのさ」


幽霊の王子様は、ちっとも怒らず、大真面目に囁いた。


「ね、僕らで協力して、きっと次の人生こそ幸せになろう?」


まるでプロポーズみたいな言葉に、私は皮肉っぽい笑いを浮かべた。

 

「私、あなたのこと何も知らないのに……?」


幽霊はにっこり、とても親しげに微笑んだ。


「じゃあ、今から親しくなろうよ。僕のことはウィルって呼んで。親しい人はそう呼ぶから、君もそう呼んでくれたら嬉しいな。レディー・ユレイア」

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