2-4

「じゃ、また明日」


「くれぐれも現場行くんじゃねえ……が、何も惜しくなきゃ行ってもいいぜ」


「行かねーよ、まだ俺の財産が残ってるから!」


 そう交わして、俺は二人を見送った。




 俺の家。


 両親はエンジニアとして忙しい日々を送っている為、俺に構ってられる余裕も無い。三軒茶屋地区の賃貸を一人暮らしの家として借り与え、今も日本を飛び回っている。


 まあ、凄腕だからな。一応、下北沢でのバイトもあって家計は安定しているし。




「さて、と」


 手洗いうがいを済ませて自室へ。それから宿題と用具をカバンから取り出し、机の上に置いた。


「アイツが来るまで暇だもんな……今日もバイトだし」


 そう呟いて、机に座る。シャーペンに手を伸ばし、芯をノートの上に突き立てる。




 宿題は思ったよりも進まなかった。立て続けに起こる色々が、俺の脳裏を行ったり来たり。お陰で、簡単なハズの読解も上手くいかない。


 『どうしちまったんだろうか』。この言葉の向く先は、自分ではなくこの世界。情勢が狂い過ぎて、授業も頭に入らなくなっていく気がする。


 しかし、やらねば。


こんな狂った情勢に負けて宿題ができなくなるのは不甲斐ない。これに勝ってこそ、心の強い人間だと言える。


 俺は脳をフル回転させて答えを計算した。


 その時。




 ガチャ。


「帰ったぞー」


 少女の声が聞こえてきた。宿題を中断して、夏子の方へ歩み寄る。


「お帰り」


「なはは」夏子が屈託の無い笑い声で返した。「良いニュースがある」


「おいそれ悪いニュースも一緒にあるヤツだろ?『どっちから聞く?』でお馴染みのアレ」


「いやいや。悪いニュースなんて無えよ、良いニュースだけだって」


 ホントか?


「ホントだぞ?」


 俺が思っていた事に答えてきた。まだ口に出してもいないのに。


「分かった。話してくれ」


「了解」


 夏子の手洗いうがいが終わるのを待ち、それから二人で居間に座った。


「じゃ、話すぞ」


「ああ、いつでもどうぞ」


「協力者が新たに見つかった」


「へ?」


 信憑性が薄くて思わず声が出た。


「協力してくれるヤツが新しくできたんだ」


「ホントか?」


 目を見開きながら夏子を見る。


「ホントだから言ってんだ」


「で、誰なんだ?早く言ってくれよ」


「分かったからそう興奮すんなって」


「へいへい」


「その協力者の名前は……水橋巴美」


「え?」


 聞き慣れた人名に、絶句。


「水橋巴美。お前と同じクラスだろ?お前をいつも助けてやってるっていう」


 マジかよ。あの巴美さんが?


 しかしその次のセリフは今の驚きをかき消すレベルの衝撃となった。


「アイツは、いやアイツ、元・魔法少女だ。2年前にアタシと一緒に戦ってた」




 俺は倒れていた。




「おい倒れんなって」失笑交じりに夏子が言った。「そりゃ確かに身近なヤツが魔法少女だったって聞いたら余程の衝撃だろうけどさ」


「悪い悪い」体を起こして夏子に言った。「だけど急に言われて衝撃食らわないヤツなんてどこにいるのかねえ」


「それはそうだけど……とにかく、その巴美がアタシ達に協力してくれるんだと。今はもう魔法少女じゃねえが」


「それでも協力してくれるのは助かるよ」俺は笑顔でそう言った。「数的にもその方が良いし。それに、協力してくれるのが巴美さんなのが何より頼もしい」











「じゃ、またいつかの休みに」


「ああ、お互い忙しくなるだろうけど」


 そう交わし、家の前で別れる。そのまま家の門と扉をくぐった。


 家の中では優しい光の下、家族が待っていた。暖かい雰囲気が部屋一面に漂っている。


「ただいま」


「おかえり、吾郎」


 母さんが優しい声で言う。それに続いて父さんも言った。


「お祝いパーティ、どうだった?」


「……小規模だったけど、なんとかお祝いと景気づけにはなったよ」


 それだけ言って、自室に向かった。




 自室には僕の独自捜査の跡が張り巡らされていた。ある部分は『空飛ぶトラック』事件について、またある部分は『ネットカフェ連続失踪事件』について、まるで蜘蛛の巣のように。


 僕はこの資料をスマホに収めた。まずはこれを本部に持っていく。それだけで良い。既に捜査は始まっているが、ここから捜査は加速する。この蜘蛛の巣が取れるのも時間の問題にしてやる。


 スマホに資料を収め終わると、僕は服を着替えた。そのまま風呂に入る準備をする。風呂に入れば、後は寝るだけ。


 明日は早い。そして明日から、忙しい。


 その覚悟はできている。











「ヤツの住所が分かりました」


「どこだ?」


「……三間茶屋のアパートです」


「ご苦労だったよ、サンダーマスター」


「ありがとうございます」


「あの魔法少女も、家を壊されてヤツとの同居に出ているようだしな」


「という事は」


「ここからはアイツの出番だ、もう良いぞ」


「え?」


「お前が行くとはできないだろう。ここはゲームゲートに任せておけ」


「は、はい、分かりました」


「決行日は次の土曜日。君はこれまで通り、他の連中を殺しておけ」




「これで、バカな警察もこれまで以上に、我らの詮索に手こずるだろう」


「ええスペースフレーム。これで貴方と共に次の段階に」


「フフ、まだまだだよマインドバインド。この世にはまだまだ駆逐すべきゴミが沢山いるだろう?」


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