2-1

「おい……?うっそだろお前……」


 宮本みやもと真司しんじは絶句していた。


 彼女の出来ていないハズの親友の部屋に、女がいるという事に。




「えっ……真司?」


 親友が真司を見つめる。その隣には、同じく真司を見つめる少女。


 奇遇にも、それは先日見た少女その人だった。


「お前……俺がいない間にそんな関係になったのか!?」


 真司はわなわなと言う。そんな真司に、少女が言った。


「勘違いすんなバカ。家が壊れちまったから住まわせて貰ってんだ、悪いか」











「なんだ、そういう事かよ」


 真司は息を撫で下ろした。


「男女二人でいる所をいきなり見せるなんて、心臓に悪いだろが」


「ごめん、色々あって伝えられなかった」


 真司の親友――まつ裕誠ゆうせいが謝る。


「ああ、別にアタシは悪くねえぞ。悪いのは裕誠だからな」


 そう吐き捨てたのは先程の少女だった。


「い、いや……お前ら二人とも悪くねえし?」


 すかさずフォローする真司。




 少女の名はくら夏子なつこ


 彼女の正体は、2年前に『ダーク・デス・スパイラル』なる敵性勢力から人類を守った魔法少女の一人。『ダーク・デス・スパイラル』との戦いの前に魔法少女になり、その時期に家族を失っていた為、ホームレスとして生きていたという。2年前の戦いの後も魔法少女としての力が抜けない為、その力で人命救助などを行っていた。裕誠を助けたのもいつもの人助けの一環だと思っていたが、実は裕誠が『神徒』なる存在から命を狙われていた事が発覚。弱者男性の異世界への(チート付き)強制移民を説く『神徒』の一人に襲撃され、見事撃退はしたものの仮住まいが無惨にも破壊された為、裕誠の家に居候する事にした。


 以上が、真司が裕誠から聞いた話である。




「それにしても、魔法少女って……そんなものがリアルに存在するとはな――」


 真司の顔に緊迫が走った。その目の前に、大きな刃。


「ああ、これで信じるか?」


 夏子が余裕の笑みで言う。彼女の手には槍が握られていた。


「裕誠もこれで信じた」


「あ、ああ、分かった……信じるからその槍をろ、いや引っ込めてくれ」


 夏子は素直に槍を引っ込めた。


「物分かりが良くって助かった」


 そう言って、彼女がネックレスを手に持つ。その先には、燃える十字架を模したブローチ。


「それが、変身アイテムか?」


 真司はそれをまじまじと見つめて言った。


「ホントだ、そう言えば」裕誠が思い出したように言う。「夏子って変身アイテムとか無いのか?前回は念じて変身してるみたいだったけど」


「いや、いつもコレ使ってるぞ?」夏子は屈託の無い笑顔で返し、左中指の指輪を見せる。「この十字架をこの特殊な指輪にかざすんだ。前回はポッケの中でそうやってた」




 テーブルの周りには三人が座っていた。全員、胡坐あぐら。




「しっかし……『話がある』としか聞いてねえ状態でお前の部屋に来たもんだから、いきなり女が見えてビックリしたぜ」上機嫌と不機嫌の半々入り混じった顔で真司が言った。「そういう事は先に伝えとくもんだぞ」


「えっ」裕誠が気まずい顔で反応した。「いやさっき『二人とも悪くない』って」


「あれはアイツがお前の家に住んでる事についてであって、今のは『お前が家に女住まわせてる』事を先に話しておかなかった事についてだ」


 真司が裕誠の頬に指を当てて言う。気圧される裕誠。


「わ、悪かったよ……」


 裕誠が言い終わるや否や、真司は夏子の方を向く。


「それと……夏子、つったか?」


「何だい?」


 夏子の顔は今の三人の中で最もポジティブだった。その笑顔が素晴らしい為か、真司は顔を少し赤らめた。


「ゆ……裕誠の事、よろしく頼む」


「あたぼーよ」


夏子は手元に残った最後のポテトチップを口に放り、跡形もなく嚙み砕いた。そして。


「ところで――最近パトカーのサイレン増えてないか?」

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