僕たちは隣国で幸せになります。

K0壱

僕たちは隣国で幸せになります。

なんていうのでしょう。よくある婚約破談劇ってあるじゃないですか?

今。それに僕があってます。

「ラッセル。あなたにはもううんざりですわ!!」からはじまるうんたらかんたら、ここら辺はみなさんお決まりのパターンですので割愛させていただきますね。

「それではウインザー・ローゼン伯爵令嬢。この辺で失礼します。どうぞその真実な愛を見つけた新しい方とお幸せに。」

僕は新しい方を特に強調しました。ウインザー嬢の隣に立ってる、名前もよく知らない人がニヤニヤ笑ってきていますが、そのような笑いを浮かべられても全く痛くないのですよ。お待ちなさい!とか後悔しても知らなくってよ!とか言っておりますが、はてさてなんのことやら。


それにしても女性というか取り巻きというのは怖いというか、貴族たちに当てはまるのですが、いかに華やかな花が咲き乱れていても、根っこの部分は腐っていらっしゃるのですから・・。本当に怖い。

婚約破棄をしたウインザー・ローゼン伯爵令嬢には婚約破棄とかの余波が痛いくらいに自分に跳ね返ってきますでしょうに・・はあ。これだからバカは嫌いなのですよ。

果たしてあなたが言ってる真実の愛とやらは何人目なのですかね??

もうそれもどうでもいいことですね。さっさとうちに帰りましょうか。

うちに帰って・・そうだなあ。家族の前でポロポロ涙でも流しましょうかね??

きっとそれをみた家族たちは、すぐに僕に駆け寄ってきて抱きしめてくれるでしょう。

ウインザー伯爵令嬢を冷ややかな目で見てる貴族たちは、きっと僕の家族のことをご存知なのでしょうね。

はあ・・少しだけ悲しそうな雰囲気でも出しましょうかね。



僕はうちが用意してる馬車に乗って家に帰りました。

僕の家は王城から一番近い場所にあります。そうです。それだけ僕の家は王家に縁がある家柄ということになりますね。

王城から家まで徒歩でも行けるのですが、貴族たるもの馬車に乗らなければいけません。すごく面倒くさいですが、一つの義務みたいなものなんですって。

「おかえりなさいませ。ラッセル様。」

「ただいま。ダン。その様子だとみんな集まってるのかな?」

「左様でございます。ぼっちゃま涙を流す準備を始めた方がよろしいですよ。」

ダンは僕の顔を見てニヤって笑う。

そうですか・・嘘泣きしていいということですか。ということはダンも腹の中据えかねているのでしょうねえ・・。普段なら絶対に言いませんから。

僕はみんなが集まってる応接室を開ける前に涙を流すことにしました。

そして悲しそうな雰囲気も醸し出すことにしましょう。

ウインザー伯爵令嬢は僕が何も言わずにすごすごと帰っていく姿を見て、なんか不愉快なことを言っていましたが、まさか僕がなんもしないと思っているのでしょうか??まさかそんなことを思っておりませんよね??

思っていなかったらとんでもなく頭が緩いご令嬢だったということになりますが、大丈夫なのでしょうか?これからあなたが進む道は陽の当たらない道を歩むことになると思うのですが・・。


「父様・・母様・・兄様・・姉様・・ただいま戻りました・・・。」

「「「「ラッセル」」」」

「まあまあなんて可哀想なのかしら?あなた!今すぐあの女たち家族に痛い目にあっていただきましょう。」

母様が近づいてきて僕の顔を両手で支えてキスをしてくれました。

「大丈夫よ!ラッセル。あの女たちには痛い目に遭ってもらうから。お姉様がちゃんと手を回しておくわ。」

「兄様もちゃんと手を回しておくから、安心しろ。」

「父様はこの話を王様に言っておくからな・・。」

僕は涙を流しながら・・・軽くうなづきました。

ごほんと父様が咳をして僕は涙を引っ込めました。

そりゃあ。こんなに下手な嘘泣きならバレますよね。

ですが嘘泣きでも”家族の前でショックを隠せなかった”という事実は必要なんですよ。相手方に痛い目を合わすためには。


「それにしても、良かったわねえ。あの女が自滅してくれたおかげで、ラッセルは真実の愛を貫く方を一緒にできるのですもの・・」

母様はしみじみとそう言って僕の頭を撫でる。

「本当よねえ・・。でも寂しいわ。ラッセルがいなくなるなんて・・。」

父様と母様と兄様と姉様は今度はしみじみな空気になってしまいました。

「でもみんなに会えますもの。僕の恋愛を実らすためには隣の国に行ってしまいますが・・」

「でもなあ・・まさかラッセルが恋した相手が隣国の第二王子とは・・。」

父様が顎をさすりながら、しみじみという。


男色にはまだまだ差別があるこの国の中で、僕の家族はとても先進的な思想をしているおかげで、家族ぐるみで僕の恋愛を応援してくれました。

そして、国の宰相をやっている息子思いの父様は、王様に交渉してくれました。

その交渉がうまくいった要因は、ちょうど隣国と手を取りたかった国の事情が合わさっていると思います。

周りが大国だらけの中なんとかうまくいっていたのは、それもこれも王様の舵取りがすごく上手だったということもあります。宰相の父親もこの国のために業務に勤しんでおりました。ですが、いくら賢王と言われても自国周辺国から尊敬を集めていたとしても、次代になると話が違います。

王妃様も王様も王太子たちには優しさと厳しさを合わせながらも育ててきたのですが、何をどう間違ったらああなるのかという存在になってしまったのです。

おっとこれは不敬になるのでしょうか?まあ大丈夫ですよね??

それを危惧した王家は、この国が斜陽になる前になんとか手をつけようとして、最低属国という意味合いも兼ねて、周りの国と交渉を始めていたのですが、僕の恋人の国とは文化とか宗教とか思想とかがさまざまなものが反対であり交渉の切口がなかなか見当たらなかったところに僕の恋愛問題が降って湧いて出てきたということです。父様はそれを交渉材料にして、恋人の国と交渉を開始することになったらしいのです。

「これからも隣国と余の国との架け橋になってくれると幸いである。」

と言ってくれたので、僕はもう何があっても彼と恋を成就しないといけなくなったのです。

ですが僕と彼にはそんな約束と関係なく愛し合っているのでいいのですがね。


翌日の早朝。ラッセル公爵邸から隣国へ一台の馬車が出ていった。

僕は馬車の中でグイーッと背を伸ばした。

「ねえ?本当にこれで良かったのよね??」

「うん。バッチリだよ。ローズ。本当にありがとう!」

僕の前には婚約破談劇をしたウインザー・ローズ伯爵令嬢がいた。

「良かったわー。こちらこそありがとうよ。やっと自由になれたわ。」

「それはお互い様だよ。長かったよねえ・・。」

「本当にそれ。」

「で。いいの?僕の専属侍女になるのって??」

「もちろんよ!!この国からというかウインザー伯爵家から逃れるためならなんでも良かったの。あの家族本当にクズなんですもの。ラッセルのことを知ったらこれを機に脅そうと画策していたなんて許せないじゃない。冗談じゃないわよ!親友を売ることなんてできますかっていうのよ!!」


そう。僕とローズは親友なのです。それもお互いを婚約者と決まった時から。

二人とも婚約者という立場でしたが、お互い話してるうちに意気投合して、婚約者は絶対無理だけど、親友ならOKという不思議な関係がいつの間にか形成していました。僕が家族仲がいいのとは反対にローズの家は家族仲が最悪だったというか、ローズを虐待していたのですが、僕と婚約が決まったことにより虐待がなくなったと聞いておりました。ですが、性根が悪いのはどこ行っても悪くて、あちらこちらに僕の家族の名を騙って、色々と悪どいビジネスに手を出しては借金をしというのを繰り返していたらしくて、うちの家族の方も火消しやらなんやら色々と大変だったのです。

ですが、僕至上主義のところがあるうちの家族は伯爵家のことが嫌いでもローズのこともとても可愛がってくれていたのです。

そんな時に僕が隣国の第二王太子と恋愛したことがきっかけに、ついでにローズと伯爵家の縁も断ち切ろうとなって、うちの家族が色々と画策して、ローズもこれを逃したら次はないということもあり、婚約破綻劇の一興を演じたわけだったのです。


「それにしてもうちら運が良かったわね。ラッセルの家族も隣国に移り住むんでしょ?」

「そうそう。ラッセル公爵家って代々宰相じゃない。領地はないから引っ越すのもそこまで大変じゃないし、もう貴族やるの疲れちゃったみたい。あのボンクラ王太子たちのせいもあると思うけど。」

「ああ・・・」

ローズと僕は王太子たちを見て嘆息してしまいました。

そして二人で顔を見合わせてくすくすと笑ってしまいました。

隣国まで2日の距離。

その間ずっと僕とローズは喋り続けてました。

喋る話題に尽きることなんてありませんからね。










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