Magic・A・Music!
芽吹茉衛
0.prologue
わたしが小さい頃の思い出だ。
お父さんに肩車されながら、ある街に出かけて行った。
その街では、魔法で色んな演出をしながら、今にも歌いだしたくなる様な音楽が奏でられている、パレードが行われていた。
わたしは大きな声でお父さんに訊いた。
『ねぇ、あの人たちすごい!わたしもあの人たちみたいになりたい!あの人たちはなんていうの?』
『あぁ・・・あの人たちはね・・・』
「・・・あの、聴いてますか?」
「え?あ、はい!聴いてます!」
正装らしい、ピシッとした面接官たちが、少女に訊いた。
少女は思い出に浸っていたらしく、反射的に答えた。
「では、これで面接を終了させていただきます。結果の通知に際しましては、会場外の担当官より、受験番号と名前を伝え、確認する様に。」
「は、はい!わかりましちゃ!」
どうやら少女は、ガチガチに緊張していたのだろう。面接が終わったというのに、返事でかんでしまった。
その後少女は、立ち上がって一礼し、部屋を後にした。ドアにおでこをぶつけながら。
「はぁ・・・」
と、少女はため息をつく。緊張が一気にどこかへいった安堵と、大事な面接で失敗してしまったという後悔、このふたつが混ざったため息だった。
正直、合否を訊くのが怖かった。あれだけ緊張して話が上の空になったり、退出の際にいつものドジを出していては、色好い返事は返って来そうにない、と思ったからである。
だが、訊かないまま終わるワケにはいかない。少女は振り絞って、合否通知の担当官に訊ねた。
「あの!」
「ん?あぁ、面接の合否通知ね。受験番号は?」
「8番の16481号です!」
「えーっと・・・8番の16481号ね・・・・・・あったあった。一応確認だけど、名前は?」
訊ねられた少女は、今までの失敗をせめてここで挽回してやろうと、大きな声で言った。
「わたし、”カノン”です!”カノン・パッヘルベル”です!!」
「・・・うん、確認完了。気になる結果は~・・・」
担当官は半ば楽しんでいるように、勿体ぶりながら言った。
「カノンちゃんは~・・・無事、合格!おめでとうね。」
「あ、ありがとうございます!!」
その言葉を聞いて、少女・・・もとい、カノンの顔は、パーッと明るくなった。
「じゃあ、この後の流れだけど・・・合格者は後日、”皇国立魔法音楽院”の入学式、それと、”魔法音楽隊”への入隊式。それに、入隊したメンバーたちとの交流会、直属の上司との話し合い、その他諸々。まぁ、色々大変だとは思うけど、頑張ってよ。」
「は、はい!もちろん!がんばります!」
担当官の案内を聴いて、カノンはまだ見ぬ明日に大いに胸をふくらませた。
”トーン皇国”。ここ、グレゴリオ大陸の中央、それでいて西に少し近い場所に位置するこの大きな国は、代々”
そのトーン皇国のそのまた中央にある首都、”皇都オクターヴ”は、魔法と音楽を求めてやってくる人たちや、広場で演奏したり、奇跡にも近いような魔法ショーなどで、いつも活気に溢れている。
皇都オクターヴには、大きな3つの学院がある。どれも国立である為、いつも入学試験の倍率は高い。
ひとつは、”皇国立魔法院”。その名の通り、トーン皇国にて魔法を極める為の学院であり、ここを卒業すれば、世界に名を馳せるほどの大魔法使いも夢ではないと言っても過言ではない、名門の魔法院である。
もうひとつは、”皇国立音楽院”。こちらもその名の通り、トーン皇国にて音楽を極める為の学院であり、卒業生らは皆、偉大な音楽家となっている。
そして最後が、”皇国立魔法音楽院”。トーン皇国に於ける学院の中で、最もレベルが高く、最も入学偏差値の高い、至高の学院である。
学ぶ内容は、皇国立魔法院のそれよりも高度な、熟練度を必要とする魔法。皇国立音楽院のそれよりも高度な、正確性を必要とする音楽。学ぶものひとつひとつ、そのどれもが、およそ世界レベルと言えるものばかりである。
そして、皇国立魔法音楽院に入学した者のみが入隊することを許されている組織。それが、”魔法音楽隊”。略して、”魔楽隊”である。
魔楽隊のメンバーたちは、直属の上司であり、教師とも呼ぶべき者の指示のもと、様々な土地・・・場合によっては、他の国にまで赴き、学び得た魔法と音楽を以て、指示を完遂する。学生の身でありながら、ひとりの魔法使いとして、そしてひとりの音楽家として活動する。それが、魔楽隊である。
先に述べた通り、皇国立魔法音楽院の門は非常に狭い。その狭き門を通る事を許されたエリートたちが名乗ることを許される魔楽隊。それは、トーン皇国内のみならず、様々な国から受験者が集まるほどの、人気ぶりを誇る。
そして、先ほどの少女、カノンは、その狭き門を見事くぐり、自らの夢を叶えるための、第一歩を今、踏み出したのである。
これから始まる物語は、その第一歩に続く、カノンと・・・そして、今はまだ見も知らぬ仲間たちや、個性溢れる人物たちとが紡ぐ、魔法と音楽で彩られた、唯一無二の物語である。
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