寄生
ボウガ
第1話
ある兄弟の二人暮らし、弟がまじめなサラリーマン。兄は、心を病んでいるとかで引きこもり。心の問題は周囲からの理解が得られる事は多くない。ましてや引きこもりとくれば世間の評判は良いものではない。
弟はそれでも兄の事をいつもかばっていたし、その欠点を補うかのように人当たりがよく評判もよかった。しかし、弟がある女性とお付き合いし始めてから状況はかわった。弟は、その女性と半同棲のような状態になり、兄のいるアパートには近寄る頻度がへっていく。
こうなると世間の目はより冷たく、かつ無関心になっていくのだった。
それが関係してか兄は自殺未遂をするも、弟がたまたま駆けつけてそれを防いだ。
不幸はそれでは収まらなかった。半年後、弟と恋人が事故にあい、即死。兄の世話は別の親戚がすることになり、引き取られた。が、そこで小さな事件がおこったらしい。その親戚にあるとき、部屋からでてきた兄がこう白状した。
《兄を殺したのは俺だ、しかし、恋人を巻き込むつもりはなかった》
その手には、藁人形が握られていた。
呪い殺すなどといっても、たしかに警察沙汰になるような事ではない。
だが親戚は怒った。なぜなら、昔からよくしていた兄が今こうなっている事も、世話をしていた弟を呪ったことも、流石に堪忍袋の緒が切れたのだった。
だが、しばらくして、兄は自分の部屋で首をつって亡くなっているのを発見された。親戚は驚きはしなかったが、別の事で、解剖をしてもらうことになった。兄の体中に、奇妙なあざやうち傷があったのだ。それだけではなく、タバコの後や、焼けた後、切り傷、体の胴体が傷だらけだった。
遺書にはこうあった。
《弟は、俺を苦しめてプライドを守るようになった、俺が引きこもりになっても、世話をするくらい分けがないといった、自分のプライドが満たされればそれでいいと、学生の頃から弟は優秀になっていったから、俺の話を誰も聞き入れはしなかった、奴を呪ったのは、俺をこういう方法で苦しめつづけてきたからだ》
解剖の結果、それは成人男性につけられた傷であることがわかった。しかもその傷は、さかのぼること学生時代からつけられていることになる、つまり弟はずっと兄をいじめていたのである。
そして、それが判明したあとに、親戚たちは弟の恋人両親から、いくつかのDVの痕跡があったという事を聞かされた。今まで黙っていたのは、実は恋人に対して兄は相談し、付き合うのをやめるようにと進言していたらしいのだ。だが恋人の両親はそのことをしりながら、娘に弟は人がいいから、少しは我慢しろといい。弟の世間体をきにして、親戚にすらそのことを話さなかったのだた、兄の死後、すべてを話す気になったのだという。
そして親戚たちは思い出したのだった。かつて二人が仲の良い兄弟で競うこともなかったのを、小学生になるころから競わせあい、その勝敗に有利だった兄が、いつしか弟に徐々にまけはじめてから、兄と弟の扱いが逆転したのだという事を。それから両親はことあるごとに二人をくらべ、兄の事を罵って皆をしていじめていた。遺書いわく、弟のしていることもしっていただろうという。
おりわるく学生時代に、彼らの両親は事故で他界した。それからは、そのことを知る人間も、そう多くはなかったのである。
寄生 ボウガ @yumieimaru
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