第169話:目覚めと再会

 精密検査の結果、竜胆に特に異常は見られなかった。

 そのことに環奈はホッとしながらも、異常なまでの回復力に疑問を抱いてしまう。


「プレイヤーだから? いやでも、私だってプレイヤーだけど、ここまで回復力はないわ。それに、他のプレイヤーだって怪我をすれば病院に来るわけで、竜胆さんのような回復力は……」


 ぶつぶつと呟きながら思考の海にどっぷり漬かってしまったので、竜胆は鏡花と話をすることにした。


「本当に大丈夫なんだよね、お兄ちゃん?」

「大丈夫だって。検査結果でも出てただろう?」

「それはそうだけど……」


 検査結果を見てもいまだに心配してくる鏡花の頭を撫でながら、竜胆は微笑みを浮かべる。


「恭介や彩音にも連絡したし、そろそろ来るんじゃない――」

「竜胆君!」

「竜胆さん!」

「……本当に来たね、お兄ちゃん」

「……しかも同時かよ」


 思わず二人の関係を疑ってしまいそうになるタイミングだったが、そんなことを聞ける雰囲気ではなかった。


「大丈夫なのかい? 体に異常は? ちゃんと調べたのかい?」

「七日間も寝ているだなんて、ほんっっっっとうに心配したんですよ!」


 ものすごい形相で詰め寄ってきた二人に、竜胆は若干体を引きながら答えていく。


「あ、あぁ、本当にすまない。異常も何もないし、本当に大丈夫だからさ」


 今日何度目になるか分からない『大丈夫だから』という言葉を口にしながら、竜胆は笑みを返す。


「「……それならまあ、いいんだけど」」


 恭介と彩音が同時にそう口にすると、続けて別の人物が姿を見せる。


「よう! 元気そうじゃねぇか、竜胆!」

「入り口で一緒になっただけですので、変な勘繰りはしないでよね」

「あぁん? 何を言ってんだ?」

「こちらの事情ですので、お気になさらず」


 姿を見せたのは、国親と影星だった。

 竜胆が恭介と彩音の関係を疑ったと感づいたのか、顔を見せて早々にそう告げてきた。


「あー、そっか。いや、分かった」

「しっかし、てめぇも頑丈だな! まあ、あれくらいで死んでたら、俺がぶっ殺してやるところだったがな!」

「死んだ人間をまた殺すですって? あなた、バカなのですか?」

「あぁん? てめぇ、やんのかこらあ!」

「……お前たち、俺の見舞いに来たんじゃないのか? 騒ぐなら出て行けよ、ここ病院だし」

「「あ……す、すまない」」


 いったい何をしに来たのかと呆れたように竜胆が呟くと、国親と影星はハッとした表情になり、すぐに頭を下げた。


「お前たちは……いい大人が何をしているんだ」

「えっ!! し、支部長まで!?」


 先に来ていた四人には連絡を入れていた。連絡先を交換していたからだ。

 しかし、拳児の個人的な連絡先を聞いていない竜胆は、彼への連絡をしていなかった。

 だからこそ、拳児の登場には驚きを隠せなかった。


「影星から連絡を貰ったんだ」

「影星から?」

「支部長に言われていたのよ。連絡先を知らなかったらしいから」


 渋々といった表情でそう口にした影星を見て、竜胆は苦笑する。


「そうだったのか。ありがとう、影星」

「私は支部長の指示に従っただけよ」

「目を覚ましてくれて本当によかったよ、竜胆プレイヤー。これ、お見舞いの品だ」


 拳児は竜胆の無事を喜びながら、手に持っていたフルーツ盛り合わせを鏡花に手渡す。


「ありがとうございます、支部長」

「……というか、他の奴らは見舞いの品も持ってきていないのか?」

「「「「…………」」」」


 鏡花のお礼に軽く手を振りながら拳児が呟くと、恭介たちは顔を彼から逸らせてしまう。

 見舞いの品が絶対に必要というわけではもちろんないが、拳児は呆れた顔を浮かべていた。


「……まあ、いいか。お前たちも頑張ってくれたわけだしな」

「そ、そうですよ、支部長!」

「死にかけたことに変わりはない」


 彩音と影星が慌てたようにそう口にした。


「いや、確かにその通りだね。次のお見舞いには、何か持ってくるよ、竜胆君」

「あぁん? ……まあ、面倒くせぇが俺もいいぜ」

「ちょっと! 裏切らないでよね!」

「私はいいわよ?」

「え、影星さんまで!? わ、私ももちろん持ってきますからね、竜胆さん!!」

「いや、別に俺は見舞いの品を求めているわけじゃないんだが?」


 何故か竜胆が催促しているかのように彩音から言われてしまい、彼は苦笑いしながらそう告げた。


「竜胆さんの体調に異常は見られていませんが、何があるか分かりません。退院はもう数日様子を見てからになると思います」


 ひとまずの話が終わったと見たのか、環奈が合間を縫ってそう説明した。


「それじゃあ、私はひとまず戻りますね。皆さんと積もる話もあるだろうし」

「分かりました。ありがとうございます、先生」

「仕事だもの、当然ですよ」


 別れ際、お礼を口にした竜胆にそう告げながら、環奈は病室をあとにした。

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