第153話:襲来
巨大な炎が落ちると同時に、強烈な熱風が周囲を襲う。
熱風は周囲の草木を焼き、一瞬にして炭化させる。
瓦礫ですらドロドロと溶かしてしまうほどの温度に達している。
人間の身で熱風を浴びれば、火傷では済まされないだろう。
「アイスウォール!」
そこへ鏡花が氷の壁を形成し、少しでも熱を緩和させようと試みた。
「アイスウォール! アイスウォール! アイスウォール!!」
氷の壁が形成されるたびに、一瞬にして溶けていく。
故に、鏡花は何度も、何度も何度も、氷の壁を形成していく。
そして、最後の氷の壁が半ばまで溶けたところで、熱風や止んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……や、止んだの?」
「助かったよ、鏡花ちゃん」
息切れしている鏡花へ、恭介が声を掛けた。
「……嘘でしょ」
「……これは、酷い」
周囲の光景を見た彩音と影星は、驚愕の声を漏らす。
それもそのはずで、巨大な炎が落ちた場所だけではなく、熱風が吹きすさんだ場所までが焦土と化してしまっていた。
鏡花がいなければおそらく、自分たちも骨すら残らずに死んでいただろうと考えると、背筋が寒くなってしまう。
「……お兄、ちゃん?」
この場に姿が見えない竜胆に気づいた鏡花が呟くと、恭介たちもハッとして周囲へ視線を向ける。
しかし、周囲は完全に焦土と化しているため、障害物があるわけもなく、何も見当たらない。当然だが、人影もあるはずがなかった。
「……嘘……そんな、お兄ちゃん!」
「死んでないぞ」
鏡花が泣き出しそうな声を上げた直後、背後から竜胆の声が聞こえてきた。
全員が弾かれたように振り返ると、そこにはポーションを飲みながら歩いてくる竜胆の姿があった。
「……お、お兄ちゃん!」
「うわっ! ……はは、ごめんな、鏡花」
竜胆へ飛びついた鏡花の頭を優しく撫でながら、竜胆は柔和な笑みを浮かべた。
「無事でよかったよ、竜胆君」
「さすがは竜胆さんですね!」
「しかし、先ほどの炎はいったいなんだったのかしら?」
恭介と彩音が竜胆を心配する声を掛けると、影星は炎の出所を気にしている。
「スタンピードが起きたことを考えると、地上に出てきたモンスターのものって考えるのが妥当なんだが……どうしてここを狙ったんだ?」
炎の出所は想像できるものの、どうしてここが狙われたのかが分からない。
不特定多数に撃ち出された炎であれば、たまたまここに落ちたと考えることもできたが、あれだけの炎である、別ところに落ちたならばここからでも見えたはずだ。
しかし、別ところに落ちたようには見えなかった。
であれば、間違いなくここが狙われたと考えるのが妥当だろう。
「……久我雅紀を狙ったように見えたのは、私の気のせいかしら?」
そこで影星がそう口にすると、竜胆はハッとした表情を浮かべた。
「どうしたんだい、竜胆君?」
「……なあ、恭介。最初に炎が空へ飛んだ場所に何があるか、分かるか?」
「あっちの方角かい? あっちは確か港……って、まさか!?」
竜胆の言葉を受けて、恭介もとある可能性に気づいて驚きの声を上げた。
「あぁ。もしかすると今回のスタンピードも、雅紀が原因かもしれない」
「ど、どういうことなんですか、竜胆さん!」
二人の話についていけない彩音が声を掛けた。
「港にあったのは、新人プレイヤー用の扉だ。だけどそこは、とあるモンスターのせいで封鎖されていただろう?」
「……あ、特殊モンスター研究所から盗まれた、モンスター」
「あぁ。そいつがスタンピードで出てきたとなれば、雅紀が狙われたのも納得できる」
竜胆の説明に彩音は納得したものの、そうなると別の不安が浮かび上がってくる。
「……あ、あんな炎を撃ってくるモンスターが地上に現れたってことは、港は今、どうなっているのかな?」
鏡花の呟きには、誰も答えることができない。
しかし、この場で動かずにいることも、竜胆たちにはできなかった。
「……俺たちはプレイヤーだ。モンスターが地上に現れたなら、それを倒さなければならない」
「そうだね」
「じっとなんてしていられないわ!」
「いきましょう」
竜胆の言葉に恭介が、彩音が、影星が同意を示す。
「わ、私もいくわ!」
そこへ鏡花も声を上げた。
まだ震える声だったが、彼女もプレイヤーとして、そして竜胆を助けたいという思いから、意志を固めたのだ。
「……死ぬかもしれないぞ?」
「私もプレイヤーだよ? それに……私が危なくなったら、お兄ちゃんが守ってくれるでしょ?」
プレイヤーとしては弱気な発言かもしれないが、兄妹としては甘える妹の立場になるだろう。
そして竜胆も、それが当然だと考えていた。
「当たり前だ。だから鏡花、俺から離れるなよ?」
「うん!」
小さく息を吐きながら、竜胆は視線を港の方へ向ける。
「……いくぞ!」
こうして竜胆たちは、全速力でスタンピードの真っただ中になっている港へと向かった。
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