第145話:不穏

 ◆◇◆◇


 ――竜胆たちが星2の扉の攻略を行っている頃。


「ふふ、ふふふふ……いやはや、見れば見るほど不思議な光景ですねぇ」


 特殊モンスター研究所の自室にて、雅紀はとある防犯カメラ映像を見ていた。

 それは誰かから提供された――ものではなく、雅紀がハッキングをして得た映像だった。


「それにしても、情報を得た時は本当に驚きましたね。まさか、法則性のない覚醒において、エリクサーというトリガーを用いて覚醒を誘発させることができるとは」


 雅紀が鏡花の覚醒について耳にしたのは、本当に偶然だった。

 鏡花が覚醒したその日、たまたま病院に来ていたプレイヤーが覚醒時の光を目撃しており、その話が噂となって雅紀の耳にも届いたのだ。

 最初は雅紀も特に気にしてはいなかった。

 しかし、自分たちの研究所から盗み出されたモンスターがかかわっていた事件の関係者、その妹が入院している病院ということで、記憶の片隅に留まっていたのだ。


「ふふふ。天地竜胆でしたか? あいつが新人プレイヤーで助かりましたね。上位ランクのプレイヤーでしたら、病院のセキュリティが厳しいところに入院させていたかもしれませんし」


 気になった雅紀が病院へハッキングを行い、記録映像を確認していたところ、鏡花が覚醒する時の映像が残っていた。

 雅紀は特殊モンスターの研究を行っているが、モンスター研究が専門ではない。

 むしろ、プレイヤーという人間の進化系に、より強い興味を抱いている。

 モンスター研究はプレイヤー研究を行うための通過点であり、今の雅紀は本来の目的を行うに足る権力と頭脳を手に入れていた。


「待っていなさい、天地鏡花! 必ずあなたを手に入れて、私の研究素材として調べ尽くして差し上げます!」


 そう口にした雅紀の表情は、いつしか不気味な笑みを刻むまでになっていた。


 ◆◇◆◇


 ――同じ時間帯。


『――…………憎い……憎い……憎い、憎い!』


 とある扉の中で、一匹のモンスターが人間に対して、強い憎悪を膨らませ続けていた。


『どうして我が、あのようなことをされなければならない! 憎い、憎いぞ、人間どもめ!!』


 モンスターの周囲には別のモンスターが多数存在しており、その全てが星5や星6に生息しているモンスターに匹敵する実力を有している。

 ただし、普通の星5や星6であれば、モンスターが一斉に襲ってくることはあっても、一匹のモンスターに従って行動することはほとんどない。

 あったとしても、モンスターのスキルによって操られている場合がほとんどだ。


『……くくくく、だがいい。我は力を付けている。いずれ間違いなく、人間を滅ぼすことができるだろう!』


 しかし、このモンスターはそうではなかった。

 対象を操るようなスキルは持っておらず、自らの実力と圧だけで、全ての扉の中に生息している全てのモンスターを従えていたのだ。


『あと少し、あと少しだ。さすれば我は、扉の戒めを破壊することができる!!』


 深紅の瞳を空へ向け、モンスターは大咆哮を響かせる。


『まずは奴から殺す! そして、人間どもを根絶やしにしてくれるわ!』


 怒りを心のうちに秘め、来る時に爆発させるべく、モンスターは力を溜め続けていく。


 ◆◇◆◇

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