第144話:驚愕
「――アイスバレット!」
竜胆たちが向かったのは、星2の扉だった。
星1でも問題はなかったのだが、拳児からの指示で星2に行くことになった。
それは鏡花だけではなく、竜胆、恭介、彩音という上位ランクのプレイヤーが同行するということもあり、星1の扉はソロプレイヤーのために取っておきたい、という理由からだ。
とはいえ、星2の扉では鏡花がメインで戦闘を行っており、竜胆たちは彼女の戦いを遠目から見守るだけにしている。
しかし、鏡花の戦いぶりを見て、恭介と彩音は見守る必要すらないのでは、と思うようになっていた。
「……鏡花ちゃん、ものすごく強いね」
「……えっと、私より、強くない?」
「俺もトレーニングルームで模擬戦をしたけど、マジで負けるかと思った」
「「……え、マジ?」」
竜胆が負けそうになったと聞き、恭介と彩音は驚愕の顔を浮かべた。
「今回はなんとか勝てたけど、鏡花が実戦を重ねていけば、いずれ抜かれるだろうな」
「まあ、ダブルスキル持ちで、最初からあれだけ使いこなせているからね」
「将来有望すぎるでしょ、天地兄妹!」
しばらくして、鏡花は星2のボスモンスターをあっさりと倒してしまった。
「終わったよー!」
「あぁ、今行くよ」
竜胆たちがついているとはいえ、扉に入ってから戦闘を行っていたのは鏡花だけだ。
彼女はソロで星2の扉を攻略したと言っても過言ではないだろう。
「お疲れ様、鏡花」
「えへへー! どうだった?」
「とってもすごかったよ、鏡花ちゃん!」
「本当にすごかったよ。僕たちが何かを言う必要なんて、ないんじゃないかな?」
彩音と恭介が手放しで褒めると、鏡花は照れながらも、嬉しそうに笑った。
「それじゃあ、コアを探しに行こうか」
「うん!」
竜胆が先へ進むよう促すと、すぐにダンジョンコアを見つけることができた。
「今回は破壊するタイプみたいだな」
「まあ、星2ですからねー」
「でも、星2のボス討伐のドロップ品としては、レアなものだと思うよ」
竜胆、彩音、恭介と、星2の扉の感想を口にしていく。
「へぇー。これってレアなアイテムなんですね」
その中でレアドロップ品を手にしていた鏡花が、やや驚きの様子で声を漏らす。
「魔力ポーション。ステータスの魔力の項目を永久的にアップさせることができるアイテムなんだ」
「魔法を使う鏡花ちゃんにはぴったりだね!」
「でも、魔力の数値は結構高いんですよね」
「授かるスキルに合わせてステータスの数値も決まると言われているからな。魔法を使う鏡花の魔力が高いのは、普通なことだと思うぞ」
そもそも高い魔力を高くする意味があるのかと鏡花は思っていたが、そこを竜胆が補足していく。
「魔法系スキルは当然、魔法を使う時に魔力を消費する。今回は星2の扉でモンスターも弱かったけど、星の多い扉にいけばいくほど、理不尽な状況でモンスターと戦うことが多くなる」
竜胆の言葉に、鏡花はゴクリと唾を飲み込み、一つ頷く。
「終わりが見えないモンスターの数に、俺たちより強いモンスター、場所によってはスキルが封印されるなんて場所もあるんだ」
「そ、そうなんだ……」
「だから、安全に数値を上げられるなら、上げておいた方がいいってことだ」
「……うん、分かった」
やや盛ってしまったかなと思った竜胆だが、実際にそういう立場になってからでは遅いのだと思えば、説明を盛るくらいは問題ないだろうと判断する。
「そうだよ、鏡花ちゃん。僕なんて、竜胆君がいなかったら、大量のモンスターに押し潰されていたかもしれないんだからね」
「私もだよ、鏡花ちゃん! めっちゃ強いボスモンスターが出てきて、竜胆さんがいなかったらヤバかったんだから!」
「そうなんですね! ……お兄ちゃん、すごいんだ」
だが、恭介と彩音の盛り方にはやや異議を申し立てたくなってしまう。
「ちょっと待て、二人とも。それはさすがに言い過ぎだろう」
「だって、竜胆君がいなかったら、僕は間違いなく新人プレイヤー用の扉で死んでいたよ?」
「私だって、星6のコロッセオで死にかけたんだからね?」
「だからって、俺のおかげで攻略できたわけじゃないだろう」
竜胆は本気でそう口にしたのだが、何故か恭介と彩音からはため息をつかれてしまう。
「分かっていないんだね、竜胆君は」
「本当ですよね、竜胆さんは」
「なんでお前たちだけで納得しているんだ?」
「うふふ。恭介さんも、彩音さんも、お兄ちゃんを頼りにしているんですね! なんだか、嬉しいです!」
三人のやり取りを見ていた鏡花がそう口にすると、竜胆もそれ以上の否定をすることができなくなってしまった。
「鏡花ちゃんに嬉しいって言われたら、否定できませんよね~」
「でもまあ、僕たちは本当のことを言っているだけだから、否定する必要もないんだけどね」
「……お前たちなぁ」
そんな何気ない会話を楽しみながら、竜胆たちは星2の扉を攻略して地上へ転移した。
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