第138話:鏡花の実力
地下三階に移動すると、鏡花はトレーニングルームへ向かい、竜胆と青葉はトレーニングルームの管理室へ向かう。
管理室には初めて足を運んだ竜胆だったが、トレーニングルームよりもやや高い位置から眺めることができる位置にあり、鏡花の動きを見守るには十分な場所だった。
「鏡花様にはこれから複数回、疑似モンスターとの戦闘を行ってもらいます」
竜胆にもしていた説明を青葉が行い、トレーニングルームにいる鏡花が大きく頷く。
「疑似モンスターも攻撃をしてきますが、死に至るようなことはありませんのでご安心ください」
「ただし傷を負わないわけじゃない。気をつけて戦うんだぞ?」
竜胆の時には彩音が注意してくれたことを、今度は竜胆が鏡花へ行う。
すると、竜胆の声が聞こえたからだろうか、緊張気味だった鏡花の表情が僅かに緩んだ。
「それではまずはゴブリンからです」
その後の進行は青葉に任せて、竜胆は鏡花を見守ることにした。
武骨な人形がゴブリンの姿に変わり、ほどなくして鏡花へと襲い掛かっていく。
鏡花はその手に武器を握っていない。どのようにして迎撃するのかと、内心で冷や冷やしながら見守っていた。
『……アイスバレット』
直後、スピーカーから鏡花の声が聞こえてきた。
トレーニングルームでは氷の弾丸が形成されると同時に撃ち出され、ゴブリンを撃ち抜く。
あまりに一瞬の出来事に、竜胆と青葉は目を見開いた。
「……魔法系か」
「つ、次はワイルドウルフです」
続けて人形が変化すると、再び鏡花へ襲い掛かっていく。
しかし、今回もアイスバレット一発で片づけてしまい、鏡花の実力に驚愕してしまう。
「次は――」
こうして鏡花はゴーストナイト、ソードウルフと倒していき、五試合目でキラーパンサーと戦うことになった。
(こいつは当時の俺が負けた相手だ。今なら負ける気はしないが、鏡花はどうだろうか……)
少しの緊張感を抱きながら竜胆が見守っていると――完全に予想外の展開がトレーニングルームに広がった。
「……ブースト」
「「――!?」」
駆け出したキラーパンサーの動きを追い掛けるようにして、鏡花が二つ目のスキルを発動させたのだ。
「ダ、ダブルスキルだって!?」
トレーニングルームを駆け回り、隙を伺おうとしていたキラーパンサーへ追いついた鏡花は、氷で刀を作り出すと、その首を一刀のもとに切り飛ばしてしまった。
「……し、支部長~!!」
直後、青葉が泣き出しそうな声でそう叫び、内線で連絡を始めた。
言葉通り、おそらく拳児に連絡を取っているのだろうと判断した竜胆は、苦笑いしながらトレーニングルームに佇む鏡花へ目を向ける。
(……まさか、ダブルスキル持ちだったとはな。見ていてほしいって言ったのも、そういうことだったんだな)
そんなことを竜胆が考えていると、連絡を取り終えた青葉がマイクに声を掛けた。
「すみません、鏡花様。少々お待ちいただけますか?」
青葉の呼び掛けに、鏡花が手をあげて合図をくれた。
それからほどなくして、管理室に拳児が姿を現した。
「まったく、天地プレイヤーはいろいろとやってくれるな」
「今回は俺じゃなくて、俺の妹がですよ、支部長」
「似たようなものだろう。まあ、俺としては優秀なプレイヤーが誕生してくれるのはありがたいことなんだがな」
ニヤリと笑いながら拳児がそう口にすると、ここで一つの提案を口にする。
「このまま人形に相手をしてもらうのもいいんだが……どうだろうか、天地プレイヤー。君が妹さんの相手をしてみないか?」
「……俺がですか?」
予想外の提案を受けて、竜胆は聞き返してしまった。
「あぁ。俺が相手をしてやってもいいんだが、やり過ぎてしまいそうでな。そうなるとあとから怖いだろう、君が」
拳児の話を受けて、竜胆も冷静でいられる自信がないなと納得してしまう。
「……分かりました。それじゃあ、俺もトレーニングルームへ向かいます」
「しっかりと手加減してやるんだぞ?」
「手加減ですか……できたらいいんですが」
そう口にした竜胆は、一度頭を下げてから管理室をあとにする。
実際のところ、鏡花の実力は想像以上だと竜胆は考えている。
それは鏡花の動きを見ていて、プレイヤーになったばかりの自分があれだけの動きをできただろうかと考えてしまうほどに驚異的だった。
「……でもまあ、兄としての威厳は見せつけてやらないとな」
負けるわけにはいかないと、竜胆は気合いを入れてから、トレーニングルームの扉を開いた。
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