第136話:竜胆というプレイヤー
レストラン街に到着した竜胆は、防音設備がしっかりした個室がある場所を探し始めた。
「なんでそんなところにいくの?」
「プレイヤーには、知られたくないことも多いからな。それに、鏡花のこともまだ秘密にしておきたいんだ」
人為的にプレイヤーになれる可能性が浮上すれば、プレイヤーに憧れる者が無茶をして扉に入ろうとするかもしれない。
自分も覚醒前はプレイヤーに大きな憧れを持っていたことを考えると、どうしてもすぐに公表する気にはなれなかった。
「よし、ここだな」
「え? ……お兄ちゃん、本気で言っているの?」
「そうだけど、どうしたんだ?」
「いや、だって、ここ……ものすごく高そうだけど?」
竜胆が選んだ場所は、和の創作料理で有名な、通りの裏路地にひっそりとたたずんでいる料亭だった。
「大丈夫だよ。それにここ、協会が推奨している料亭だから、信用できるんだ」
「そこは私にとって重要じゃないんですけど!」
「まあまあ。きっと料理も美味しいし、入ろうぜ」
「……もう! 知らないんだから! たっくさん食べてやるんだからね!」
謎の開き直りを見せた鏡花に苦笑しながら、竜胆は料亭の中へ入っていく。
「いらっしゃいませ」
「予約はしていないんですが二名、個室って空いてますか?」
「少々お待ちください」
出迎えてくれた店員に個室をお願いすると、しばらくして戻ってきた。
「本日の二時まででしたら可能ですが、いかがでしょうか?」
店員の言葉に竜胆はスマホで時間を確認する。
「一時間半くらいだけど、鏡花は大丈夫か?」
「私は大丈夫だよ」
「それじゃあ、お願いします」
「かしこまりました、ご案内いたします」
店員の案内で個室へ入ると、簡単な料理の説明が行われ、店員は去っていく。
「なんだか淡々とした人だったね」
「まあ、時間もないし、個室で話したいことがあるはずだっていう気遣いじゃないか?」
それから一〇分ほどで料理が運ばれてくると、まずは食事を楽しむことにした。
「ん~! このお鍋、とっても美味しいね!」
「本当だな。いや、マジで美味い」
「お兄ちゃん、食べたことないの?」
「ない。だって、防音設備で調べたら出てきた場所だしな」
てっきり食べたことはあると思っていた鏡花はジト目を向けながらも、料理に舌鼓を打っていく。
そうして食事が終わると、竜胆はゆっくりと自分がプレイヤーとしてどういう活動をしてきたのか、語り始めた。
「プレイヤーに覚醒したばかりのことは分かるよな?」
「うん。近くでスタンピードが起きて、私のために病院へ向かってくれた時だよね?」
「あぁ。あの時は必死だったから、自分のスキルについてちゃんと分かっていなかったんだ」
それから竜胆はスキル【ガチャ】についてや、恭介と彩音との出会い、そして先日の二重扉の攻略について語っていく。
鏡花も気になること、心配になることがあっただろう。それでも黙って聞いてくれていたのは、竜胆の表情は真剣なものであり、今の自分を鏡花に知ってほしいという思いが伝わったからだ。
そうして竜胆が最後まで話し終えると、鏡花はゆっくりと口を開いた。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
「いきなりどうしたんだ?」
「だって、私のために頑張ってくれてたんだもん」
目に涙を溜めていた鏡花を見て、竜胆は微笑む。
「何言ってんだよ。兄貴が妹のために頑張るなんて、当然だろ?」
「命を懸けるなんて、普通はしないわよ」
「俺にとっては、自分の命よりも大事な妹なんだ」
「……でもね、お兄ちゃん」
竜胆が当然と言わんばかりにそう口にすると、鏡花が何やら改まって口を開く。
「これからは私もプレイヤーなんだから、一緒に頑張るよ。お兄ちゃんだけに頑張らせない!」
「鏡花が大変な思いをする必要はないんだぞ?」
「ううん、頑張る。お兄ちゃんと一緒なら、頑張れるもの!」
可能であれば鏡花には、危険な目に遭ってほしくないと竜胆は考えていた。
プレイヤーに覚醒したのだって、本音を言えば嫌だった。自分だけでいいと思っていた。
だが、鏡花が頑固であることも十分に理解している。兄妹なのだから当然だ。
そして、こちらを見てくる鏡花の目を見れば、言葉を尽くしたところで諦めないことも分かってしまった。
「……それじゃあ、最初の扉は俺と一緒だ。それに、恭介や彩音もな」
「そんなに大勢でいいの? 過保護過ぎない?」
「俺にとっては、過保護くらいがちょうどいいんだよ」
鏡花と一緒なら星1の扉に決まっている。
だが、先日の二重扉の件だってあるのだから、星1が絶対に安全だとも言い切れない。
過保護だと思われても、ウザがられても、それで鏡花の安全を得られるなら構わない。
「分かった! 本当にありがとう、お兄ちゃん!」
「……あぁ、任せてくれ!」
とはいえ、鏡花が竜胆のことをウザがることはなかった。
それも当然で、鏡花から見た竜胆は唯一の肉親であり、誰よりも大好きな兄なのだから。
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