第121話:疑問

 追撃戦は思いのほか長期戦の様相を呈してきた。

 何故なら、モンスターが至る所から合流しては足を止めての乱戦となり、再びの追撃戦を繰り返していたからだ。

 これだけのモンスターがいったいどこに隠れていて、どこから現れているのか、竜胆は戦いながらも頭を必死に回転させ続けていた。


(この数は明らかにおかしい。それに、結構な距離を移動してきているのに、他のプレイヤーの気配も、痕跡すらないなんて!)


 星4の扉に入ってからというもの、最初から疑問が尽きない。

 扉の攻略に慣れた者ほど、あとから来るプレイヤーのことを考えて何かしら痕跡を意図的に残しておくものだが、それが一切ないのだ。

 プレイヤーの中には扉から得られる資源を独占しようと考える者も少なからずいるが、今回の場合はそれが絶対に当てはまらない。

 何故なら先に攻略を始めているだろうプレイヤーたちの中には、恭介や彩音、姿を隠しているかもしれないが影星もいるはずだからだ。

 彼らなら、あとから竜胆が来ることを想定して動いているはずなのだが、その痕跡すら見当たらないというのは、明らかな異常事態だ。


「ちくしょう! また逃げ出しやがったぞ、こいつら!」


 そして、本能で動くはずのモンスターが何度も逃げ出してしまうのも、竜胆には疑問に感じられるようになっていた。


(俺たちが入った星5の扉も二重扉だった。こいつは床が抜けて、地下に新たな空間が出てきたわけだけど……まさか、ここも同じような仕組みなのか?)


 モンスターが地下で生まれ、生まれたモンスターが上階へ上がってきている。

 しかし、それならば上がってくるための手段が必要となってくるはずだ。


(もちろん、地下だという可能性があるってだけで、それ以外の可能性も十分にあり得る)


 不確かな情報を国親に伝えるべきかどうか迷ってしまったが、竜胆は彼にも前回攻略した二重扉の情報を伝えることに決めた。


「国親、少し話がある」

「あぁん? なんだ、このクソ忙しい時に」

「二重扉についてだ」


 竜胆が二重扉についてと伝えると、怪訝な表情を浮かべていた国親は表情を改める。


「……聞こうじゃねぇか」

「不確定な情報が多いのを前提にして聞いてほしい」

「扉の情報なんて、不確定なやつしかねぇっての、気にすんな」


 竜胆が事前にそう伝えると、前回の二重扉について語り始めた。

 床が抜けたこと、そこからさらにモンスターが増え、言葉を介する上位のモンスターが現れたことなどだ。


「ってことは、今俺らが立っている空間以外にも、別の空間がある可能性があるってことか?」

「モンスターの数が減らない。それどころか、俺たちが削る前は増えているんじゃなかって数が押し寄せてくることもある。それにもかかわらず気配があまりにも感じられないのは、おかしくないか?」


 続けて竜胆が疑問に思っていることを伝えると、国親は思案顔を浮かべる。


「……確かに、おかしいな。それに、さっき逃げていった奴らの気配も少なくなっていやがる」

「なんだって?」


 すでに目撃したモンスターにまでは意識を割いていなかった竜胆は、改めて気配察知を行っていく。


「……本当だ。やっぱり、別の空間があると仮定する方がよさそうだな」

「ってことはだ。先に入ったであろう恭介たちの気配がないのも、あいつらが別の空間に入っているってことか?」

「仮定の話をもとにすれば、その可能性が高い。だから……」


 そこで一度言葉を切った竜胆は、一度息を吐いてから再び口を開く。


「……恭介たちがすでに、危機的状況に追い込まれている可能性だってある」

「ちっ! それじゃあ、さっさと別の空間に繋がる場所を見つけねぇと、俺たちは何もできないってことじゃねぇか!」


 為す術がない状況だと分かり、国親は苛立ちから拳で壁を殴りつけた。

 あまりの威力にパラパラと壁の上部から埃が舞い落ちてくる。


「……待て、国親」

「何が待てだってんだ?」

「これを見てみろ」


 竜胆が気づいたのは、国親が殴りつけた壁に見つけた違和感だった。


「……ただの壁じゃねぇか?」

「ここの部分、他の壁と比べて変にズレていないか?」

「うーん……ただ出っ張っているだけじゃねぇのか?」

「だけどこの出っ張った部分、あまりにも奇麗すぎるじゃないか」


 ズレて出っ張っている部分を示しながら、竜胆が指でなぞる。

 他の壁面は岩肌がむき出しとなり、でこぼことしているのだが、なぞった部分だけは奇麗に削り取ったかのようにツルツルしている。


「……確かにおかしいな」

「この部分が、二重扉の攻略のきっかけになると思うんだが……」


 違和感を見つけたものの、そのあとが続かない。

 どうしたら違和感を確信に変えられるのか、竜胆が持つスキルでは対処できなかった。


「……仕方ねぇ。俺様が一肌脱いでやるよ!」

「何をするつもりだ?」

「まあ、見てろって」


 ニヤリと笑いながら国親がそう口にすると、手にしたヴォルテニクスを壁に突き刺した。そして――


「雷鳴爆発!」


 突き刺したヴォルテニクスから雷鳴が轟き、壁の中に超振動が伝わっていく。

 地面を揺るがすほどの雷鳴は、間違いなく扉全域を震わせていた。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 直後、壁の奥の方から何かが動く音が響いてきた。

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