第114話:説明と信頼と

「まず最初に伝えておきたいのだが、私は天地プレイヤーたちを心配して、影星をつけたということだ」


 拳児は開口一番で敵意はないということを伝えてきた。


「二重扉が発見されたばかりで、すぐに別の扉が現れた。俺は天地プレイヤーの潜在能力には相当な可能性を感じていてな、何もなければ影星が見たものは他言無用でお願いするつもりだった」

「それを彼女が守るという保証はあるのですか?」


 噛みついていったのは恭介だ。

 当然だが、彼は影星よりも竜胆との付き合いの方が圧倒的に長い。

 竜胆が影星は仲間だと言っているが、恭介から見れば竜胆のスキル情報が他人に知られることの方が危険だと考えている。

 それは竜胆に危険が迫ることを避けるためであり、彼を守るためでもあった。


「それは信じてもらう他にない。だが、俺の一存で決めるべきことではなかったと反省している」


 ここで再び頭を下げてしまえば、竜胆に指摘されたようにトップの頭はそんなに軽いのかと思われかねない。

 故に、言葉では謝罪を伝えているが、今回は頭を下げることはしなかった。


「私も支部長の指示とはいえ、もう少し意見するべきだったわ。プレイヤーに秘匿している能力があるというのは、当然のことだものね」


 そう口にした影星は、言い終わると頭を下げた。


「頭を上げろよ、影星。お前は何も悪くないだろう」

「いや、私も一プレイヤーなのだから、思い至るべきだったのよ」

「ったく、どうして支部長も影星も、頭を下げたがるかなぁ」


 頭をガシガシと掻きながら、竜胆は小さく息を吐いたあと、口を開いた。


「……分かりました。支部長が敵ではなく、俺たちを心配してくれていたことは理解しました」

「感謝する」

「それでなんですが……どうせ影星にはバレたわけですし、俺のスキルについて、全てを伝えておこうと思います」


 竜胆の言葉に恭介と彩音が勢いよく振り返り、拳児と影星は驚きの顔を浮かべた。


「竜胆君!?」

「えっ! いいの!?」

「ありがたい話だが……本当にいいのか、天地プレイヤー?」

「私は一端を見てしまったから何も言えないが……」

「いいんです。その代わりじゃないですけど、俺が一番優先すべきことを優先させてほしいんです」


 自分の手が届く範囲であれば、プレイヤーとして守るべき相手を守ろうと決めている。

 しかし、その中に最も守りたい相手がいた場合、竜胆は優先してそちらを守るために動きたいという思いが常にあった。


「それは、妹さんのためだね?」

「はい。俺にとって、鏡花が何よりも大事なんです」


 プレイヤーであれば扉の攻略を率先して行い、スタンピードなどの非常時には一般市民を助けることが優先される。

 それらの優先事項を差し置いて、竜胆は鏡花を助けたい、守りたいと言っているのだ。


「いいだろう」

「……そ、そんな即答でいいんですか?」


 渋られると思っていた竜胆だが、拳児は即答で許可してくれた。

 あまりに即答過ぎて聞き返してしまったくらいだ。


「守るべき者がいるというのは素晴らしいことだ。そして、何を差し置いても守りたいと思えるのであれば、そちらを優先した方がいいに決まっている」

「ですが、近くにモンスターがいたとしたら――」

「プレイヤーは天地プレイヤー一人ではない。しかし、妹さんにとっての天地プレイヤーは一人しかいないのだろう?」

「それは! ……はい、ありがとうございます!」


 拳児の言葉に竜胆はハッとさせられる。

 そして、真剣な表情を浮かべると、そのまま大きく頭を下げた。


「こちらは天地プレイヤーのスキルについて知ることができるのだから、お礼を言われる筋合いはないさ。これでウィンウィン、ということではないか?」

「……そう、ですね」


 拳児が気を使ってくれているのに気づき、竜胆は苦笑しながら同意を示した。

 それから竜胆はスキル【ガチャ】についての説明を始めた。

 モンスターを倒すことでガチャが発動し、様々なアイテムだけでなく、数に限りはあるがスキルも獲得できること。

 そして、獲得したスキルは熟練度によって上位互換へ進化することができることも伝えられた。


「……な、なんだと?」

「……はっ! だからジェルゲイルとの一戦の時、急に強くなったのね!」


 驚きすぎてこれ以上言葉が出てこない拳児に続いて、何かに思い至った影星が声を上げた。


「そういうことだ。あの時、俺のスキル【中級剣術】が【上級剣術】に進化したんだ」

「「……上級剣術だって!?」」

「それ以外だと【死地共鳴】、【鉄壁反射】、【魔法剣】を持っているよ」

「「…………す、スキルが五つだってええええぇぇっ!?」」


 それからしばらく、拳児も影星も口を開けたまま固まってしまった。

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