第106話:ジェルゲイル①
狙われたのは影星だ。
男よりも女の肉が美味そうに思えたのだろうか、それはジェルゲイルにしか分からない。
しかし、今回に置いてその選択は悪手だった。
「影移動!」
その場から動けなくとも、影星にはスキル【影魔法】がある。
自らの影に沈み込み姿を隠すと、ジェルゲイルの突進を間一髪で回避した。
『エサ、キエタ?』
困惑するジェルゲイルだったが、すぐに狙いを変更して竜胆へと迫る。
どす黒く染まった鋭い爪が竜胆へ襲い掛かる。
「ふざ、けるなああああっ!」
グッと全身に力を込め、体を無理やり動かして疾風剣を振り抜く。
鋭さはなく、その代わりに力が込められた一撃ではあったが、ジェルゲイルの爪を受け止めるには不十分だった。
「ぐはっ!?」
直撃は避けられたものの、力で押し切られてしまった竜胆は、背中から壁に叩きつけられてしまう。
「影縫い!」
竜胆へ襲い掛かった直後に影から飛び出した影星が影縫いを放つ。
『グラ? ……グ、ググググ!』
「そんな……影縫いが、外される!?」
動きを止めるはずの影縫いだが、ジェルゲイルはそれを力づくで解除しようと試みていた。
『ググググ――グルアアアアッ!!』
「きゃあっ!?」
バチンっ! と強烈な破裂音が響いたのと同時に、影星が大きく弾き飛ばされる。
影縫いが無理やり解除された反動が、影星を襲ったのだ。
地面を二度、三度とバウンドしながら転がっていく影星。
『……ギャヒヒヒヒ』
その姿を見たジェルゲイルは、エサを確保できたとほくそ笑む。
「やらせるか――反射!」
背を向けていたジェルゲイルめがけて、竜胆が立ち上がりスキル【鉄壁反射】を発動させた。
『ジャマ、スルナ!』
ジェルゲイルが振り返りながら右手で裏拳を放つ。
これでゆっくりと影星を食べられる、そう思っていたジェルゲイルだが、予想外のことが起きた。
――ドンッ!
『……ガルア?』
コボルト特有の声が驚きと共にジェルゲイルの口からこぼれた。
「貰ったぜ、その右腕!」
『……アァ……ガアアアアァァッ!! ウデガ、ミギウデガアアアアァァッ!?』
ジェルゲイルの一撃を蓄積させた反射による一撃が、ジェルゲイルの右腕を半ばから吹き飛ばしていた。
傷口からはとろみのあるどす黒い血が零れ落ちている。
(くそっ! 頭を狙うつもりが、防がれたか!)
竜胆としてはこの一撃で終わらせるつもりだったが、それを防がれてしまい唇をかむ。
『クソオオオオッ! グオオオオッ!』
「うおっ!?」
残された左腕が鋭く振り抜かれ、竜胆は慌てて飛び退き回避すると、着地と同時に駆け出し、そのまま影星のところへ移動する。
「おい、大丈夫か?」
「……なんとかね」
竜胆の問い掛けに返事をした影星だったが、体の至る所に傷を作っており、血が滲んでいる。
「大丈夫じゃないだろうが」
「転がっている時に、傷が付いたみたい」
「これ使え。どうせ戦闘の途中で割れるかもしれないからな」
そう言って竜胆が手渡したのは、ガチャで手に入れた下級ポーションだった。
「……助かるわ」
「中級ポーションはいったん温存だ。まあ、割れたら意味ないけどな」
「むしろ、この程度の傷に中級ポーションを使う方が勿体ないわ」
下級ポーションを受け取った影星はふたを開けて頭からかぶる。
傷口がみるみるふさがっていき、何事もなかったかのように立ち上がった。
「さて、ジェルゲイルの右腕は吹き飛ばしたが、どう攻略する?」
「先ほどの一撃、あれはもう一度使えるの?」
「条件があってな、俺が攻撃を受けないと使えない」
「それは……危険ね。あえて狙う必要はないか」
『…………グルルゥゥ……アオオオオオオオオンッ!』
竜胆と影星が作戦を練っていると、突如ジェルゲイルが遠吠えを上げた。
すると、ジェルゲイルの後方の通路から大量のコボルトが姿を現す。
「……なんだ? 上位種でもない、普通のコボルトだと?」
「脅威にはならないけど、あの数は異常だわ」
コボルトは際限なく姿を見せており、その数は一〇〇を優に超えている。
ただ、不思議なものでその中に上位種は一匹たりとも存在していなかった。
『……ジカン、カセゲ!』
『『『『ガルアアアアッ!』』』』
ジェルゲイルの指示に合わせて雄叫びをあげたコボルトの群れは、一斉に竜胆たちへ襲い掛かった。
とはいえ、ただのコボルトを相手に苦戦するような二人ではない。
確かに数は異常だが、数を揃えたところで脅威にはならない。
何か狙いがあるのかと、竜胆はコボルトを斬り捨てながらもジェルゲイルの動きに注視していた。
「……な、なんだ、あいつは?」
そこで見た光景に、竜胆は顔をしかめてしまう。
『ガルアッ! ガルグア……ガウアッ!』
竜胆たちがコボルトの群れに足止めを食らっている中、ジェルゲイルは呼び寄せたコボルトを食らっていたのだ。
「……と、共食い、ですって?」
あまりに気味の悪い光景に影星も不快さを露わにしたが、二人にとって最悪の展開が訪れようとしていた。
「……おいおい、嘘だろ? 右腕が――再生していやがる!!」
ジェルゲイルがコボルトを食らうにつれて、半ばから吹き飛ばされていた右腕の傷口が蠢き、再生を始めていたのだ。
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