第47話:邂逅⑥

「はあっ!」

『ブジュラッ!?』


 竜胆は後方に控えている恭介を気にしながら、興奮している大量のモンスターを狩り続けている。

 もちろん恭介もモンスターを狩っているのだが、そんな彼の背中には意識を失った石田の姿もあった。


「本当にそいつを連れていくのか、恭介!」


 恭介が石田を連れていくと決めてからずっと疑問に感じていた竜胆が、すでに何度目になるか分からない確認を取る。


「本当にすまないが、彼には協会としての処分を与えたいんだ」


 岳斗の取り巻きだった二人に対しては容赦なく殺していた恭介も、顔見知りを相手にした時だけは慈悲が出てしまったのかもしれない。


「もしかすると、この行動も石田君からすれば私の考えを押し付けている、ということになるのかもしれないけどね」


 自虐的な笑みを浮かべながら、それでも恭介は石田を置いていくという選択をしなかった。


「……まあ、俺に恭介の判断を否定する権利はないからな」

「生き残るのに邪魔だと思ったら、私のことは見捨ててくれて構わない」

「まさか、そんなことするわけないだろう!」


 最後の方は声を荒らげ、迫ってきたモンスターの首を刎ねていく。


「……ちっ! ようやく中級剣術の熟練度は50%か!」


 岳斗をぬかるみにはめてから、すでに三〇分近くが経過しており、すでに抜け出しているだろうと竜胆は考えている。

 こちらを探しているはずであり、次の邂逅までに熟練度を100%にするのは難しいと思い始めていた。


(スキル熟練度が当たらない! というか、レアアイテムも装備も出ないじゃないか!)


 ここに来てハズレや通常のアイテムや装備しか出てこなくなった。

 戦闘だけで中級剣術の熟練度を50%まで上げられたのもすごいことだが、ここまでガチャが当たらないのも逆にすごいことだと竜胆は歯がゆい思いになっていた。


(恭介とも合流できたんだ、ここは一度撤退するのもありか?)


 このまま岳斗と戦ってもダメージを与えられるかが分からない。

 現状、最初の戦闘と異なる部分は恭介が半径一〇メートル以内にいて、スキル【共鳴】が発動してくれること以外にはなかった。


「……恭介! ここは一度撤退して態勢を立て直そ――」

『ギジャアアアアアアアアァァァァアアァァアアァァッ!!』


 撤退を提案しようとした矢先、沼地の奥から突然の奇声が竜胆たちに聞こえてきた。


「な、なんだ、今の声は?」

「ここには何度も足を運んでいるけど、一度だって聞いたことのない声だな」


 竜胆の呟きに恭介が答える。

 しかし、それは未知との遭遇を伝えるものであり、最大限の警戒をするための助言のようになっていた。


「……恭介、やっぱり一度撤退しよう。今日のここは、何かがおかしい」

「そうだね。まあ、十中八九、石田君たちが何かをやらかしている可能性が高いのだけれど」


 恭介がため息交じりにそう伝えると、竜胆も同じ意見なのか大きく頷いた。


「そうと決まればさっさと外に出て――!?」


 そこまで口にした竜胆だったが、強烈な殺気を持つ何かが一直線にこちらへ迫ってきている気配を感じ、弾かれたように顔を向ける。

 それは恭介も同じだったが、彼は迫ってきているものの気配を知っていたことだろう。


「……まさか、エルディアスコングか!」

「なっ!? ど、どうしてそんな高ランクのモンスターが新人プレイヤー用の扉に生息しているんだ!」


 エルディアスコングはゴリラに似たモンスターであり、脅威度としてはBランク相当とされている。

 新人プレイヤー用の扉を言っているだけに、脅威度の高いモンスターがいること自体に竜胆は驚いてしまう。


「エルディアスコングはそもそも、縄張りから出てこないモンスターとして知られているんだ。確かに新人プレイヤー用の扉には似つかわしくないモンスターだけど、その生息域は南の沼地の最奥で、中腹にすら出てきたことがないはずなんだよ!」


 Bランク相当と脅威度の高いモンスターだが、その実態は温厚なモンスターとも言われている。

 恭介が口にしたように縄張りの外に出ること自体が珍しく、出ていく時はエサを探している時くらいで、モンスターには珍しく草食だ。

 プレイヤーと出くわしてもあちらから攻撃を仕掛けてくることはなく、身を守る時にだけ脅威となりその牙を向けてくるくらいだ。


「何者かがエルディアスコングにちょっかいを出したんだろうね」

「それが岳斗なのか、その取り巻きなのか……ったく、面倒なモンスターをおびき出してくれたもんだな!」


 エルディアスコングとの戦闘は間違いなく激しいものになるだろう。

 そうなれば戦闘音を聞きつけて岳斗がやってくるかもしれない。


「……プレイヤーになってまだ数日だってのに、もう正念場かよ」


 冷や汗を流しながら、ついに興奮状態のままのエルディアスコングと対面することになってしまった。

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