第32話:驚きの査定額

「な、なななな、なんですかこれはああああぁぁああぁぁっ!?」


 青葉の大声が協会ビルの個室に響き渡った。


「な? 個室に移動しておいてよかっただろう?」

「あ、あはは、そうですね」


 何故個室にいるのかというと、同行してくれた恭介の提案だった。

 大量のドロップ品を換金するとあって、それが人の目が多い場所で行われると注目を浴びることになる。

 ドロップ品は貴重だ。何せお金にもなるし、装備やポーションなどの消耗品も出てくる。

 何が出てくるかは運次第だが、それでもプレイヤーにとっては命を繋ぎ止める可能性の高いものばかりだ。

 それらが大量にドロップするとなれば、何か秘密があると勘ぐる者も出てくるだろう。

 そうなるとまず目をつけられるのは――新人プレイヤーである竜胆だ。

 恭介はそうならないためにも、青葉に個室でやり取りをしたいと提案して、今に至っていた。


「こ、ここここ、これを全部天地様がドロップさせたというのですか!?」

「そうだよ。僕はただの運搬係さ」

「そんな、運搬係だなんて」

「ちょっと待っていてくれませんか! ……わ、私一人では処理できませええええん!!」


 涙目になりながら個室を飛び出していった青葉を見届けると、しばらくして彼女を含めた五人の職員が姿を見せた。


「うおっ!? な、なんじゃこりゃ!」

「本当に一〇〇近い数のドロップ品があるじゃないか!」

「これは腕が鳴りますね、先輩!」

「青葉ちゃん、すごい新人を担当しているのね」

「べ、別に担当ってわけじゃないのよ~! 先輩方、よろしくお願いします~!」


 何が起きているのかよく分からないまま、竜胆が持ち込んだドロップ品の査定が始まった。


「……あ、あの、矢田さん。これはいったい何が始まったんでしょうか?」

「何って、ドロップ品の査定だけど?」

「いや、それは分かるんですけど……こんなに大勢でやることなんですか?」

「「「「「大量に持ち込んだからだよ!!」」」」」

「……あ、そうですよね、失礼しました」


 職員全員からツッコミを入れられてしまい、竜胆はやや表情を引きつらせながら謝罪する。


「あははははっ! 君は本当に面白いね!」

「面白いって……でもまあ、妹の入院費に充てられるし、助かりますけど」

「入院費?」

「はい。実は俺の妹、四年前のスタンピードの時に大怪我を負いまして、それ以来ずっと入院しているんです」

「四年も……それは、とても辛いね」


 恭介が悲しそうな顔を浮かべると、竜胆は苦笑しながらなんでもないと答えた。


「命の危険はないですし、経過観察中って感じです。だから、あまり心配しないでください」

「そうかい? それならいいんだけどね」


 それからしばらくは会話もなく、職員たちが黙々と査定を進めていった。そして――


「「「「「…………お、終わったああああぁぁ~!!」」」」」


 大量のドロップ品、全ての査定が終わったことで職員たちが揃えって声をあげた。

 誰もがやり切ったという表情をしており、笑顔がとても輝いていた。


「あとは任せるぞ、柳瀬ー」

「お疲れさん!」

「腕が鳴りましたねー、先輩!」

「あなたはそればっかりねー」

「先輩方、本当にありがとうございました!」


 個室には青葉だけが残り、四人の職員は満足気に出ていった。


「それで、どの程度の金額になったんだい?」

「えっと、それはその、ご本人にしかお見せできないと言いますか……」

「矢田さんなら大丈夫です。ものすごくお世話になりましたし」

「そうですか? それじゃあ……こんな感じになりました」


 青葉が査定額の記された書類を竜胆に手渡すと、それを恭介と一緒に見る。


「「…………え、ええええええええぇぇぇぇええぇぇっ!?」」


 そして今度はあまりの金額に竜胆と恭介の絶叫が個室に響き渡った。


「……ひ、ひひひひ、一〇〇万円!?」

「たった一日にこれだけの金額を稼ぐなんて、さすがは規格外の新人だね」

「柳瀬さん! これ、何かの間違いじゃないんですか!?」


 ここまで高額な査定になるとは思っておらず、竜胆は慌てて確認を取る。

 だが青葉は満面の笑みで首を横に振った。


「いいえ! これが正式な査定額です!」

「……ま、マジなんだ」

「下級ポーションが主でしたが、中には中級ポーションやレア装備もありましたし、妥当な金額です!」


 何故か青葉が胸を張って答えており、その姿を見た恭介は思わず笑ってしまった。


「ちょっと、矢田さん! どうして笑うんですかー!」

「あはは、ごめんよ。青葉ちゃんがかわいくってね」

「かわ!? ……も、もう! 変なこと言わないでくださいよ!」


 そこでどうして照れるのかも竜胆には分からなかったが、とにもかくにも大金が舞い込んできたことだけは確かだ。


「……矢田さん、今日は無理だけど、日を改めてご飯に行きましょう。俺、奢るんで」

「本当かい? それは嬉しいな。でも、そんな気を遣わなくてもいいんだよ?」

「いやいや! だって一〇〇万円ですよ! 気を遣わない方が無理ですって!」

「それ! ……私も参加しちゃってもいい感じですか?」

「なんで青葉ちゃんが出てくるんだい?」

「私だって査定頑張ったんですよー! お願いします、天地様~!」


 涙目で懇願されてしまっては、実際に頑張って仕事をしているところを見ていた竜胆としては断れなかった。


「分かりました。でも、今回だけですよ? 何せこれは仕事なんですから」

「うぐっ!? ……で、でも、分かりました! やったー! 奢りのご飯が一番美味しいんですよねー!」

「それを奢ってくれる竜胆君の前で言うかな、君は」


 最後は恭介が呆れたように呟くと、竜胆は声を出して笑ってしまった。

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