第10話:風桐彩音
「か、風桐様!」
「昨日ぶりですね、柳瀬さん」
(あの人、昨日のスタンピードで指揮を執っていたプレイヤーだよな?)
声を掛けてきた彩音は青葉に挨拶を済ませると、視線を竜胆へ向けた。
「……あの、あなたは?」
「私は風桐彩音、Aランクプレイヤーよ。あなたは?」
「天地竜胆です。プレイヤーには今日、登録しに来ました」
「えっ! ……まさか、昨日のスタンピードで覚醒したの?」
「そうですが……何か問題でも?」
驚きと共に思案顔になった彩音を見て、竜胆は不安に襲われる。
「ううん、問題はないわ。ただ、あの時は臨時で指揮を任されていて、近くにいたプレイヤーについては全員把握していたはずなんだけど、あなたのことだけはまったく分からなくてね、気になっていたのよ」
「……ぜ、全員ですか? それはすごいですね」
「指揮を執るものとしては当然のことよ。それと……敬語じゃなくていいわよ? たぶん、あなたの方が年上だと思うし」
彩音がそう口にすると、竜胆は肩の力が抜けたのかクスリと笑い頷いた。
「……分かった、その方が楽だから助かるよ」
「私もランクが高いだけで目上の人に敬われるのは好きじゃなくてね、助かるわ」
お互いに気安く話ができるようになったところで、竜胆は先ほどの言葉の意味を確認することにした。
「それで、この剣の弁償の必要がないってのはどういう意味なんだ?」
「それは……この剣の持ち主が、亡くなっているからよ」
「あ……そ、そうか。それじゃあこれは、遺品になってしまうんだな」
折れた剣を受付に置くと、竜胆や彩音だけでなく、青葉も悲痛な面持ちになってしまう。
「でも、こうして遺品が届けられるのはいいことよ。ほとんどの場合はその場に放置されて盗まれちゃうからね」
「そうなんだな、知らなかったよ」
「プレイヤーが身に着けている装備は高価なものが多いから、裏ルートで売買して稼ごうって人も多いのよ」
「一般人だとアイテムの売買は認められていないけど、そういうルートもあるんだな」
「協会でも摘発に動いてはいるのですが、全貌把握にはまだまだ時間が掛かりそうなんです」
竜胆と彩音の会話に青葉も交ざると、続けてプレイヤー登録の話を口にした。
「それと、天地様。これからランク審査に入っていくのですが、時間はまだ大丈夫でしょうか? 昨日の聞き取りもあり、時間が掛かってしまいましたので確認なのですが……」
「それは大丈夫です。聞き取りも必要なことですしね」
「あ、ありがとうございますぅ~!」
「柳瀬さん、営業スマイルが崩れちゃってますよ」
気を遣い過ぎの気もするが、そんな青葉の気持ちが嬉しく、竜胆は柔和な笑みを返した。
「それじゃあ、地下三階のトレーニングルームへ移動しましょう。そこでの実力を加味して、ランクを査定いたします」
「ねえ、柳瀬さん。そのランク査定、私も見学していいかしら?」
「えっ? 彩音も見学するのか?」
まさかAランクプレイヤーが見学したいと言ってくるとは思わず、竜胆は思わず確認してしまう。
「昨日覚醒したばかりのあなたがどれだけの実力を持っているのか、気になっちゃってね。もちろん、あなたが遠慮してほしいなら諦めるけど?」
「……いや、俺は別に構わないよ。でも、先輩プレイヤーとして、俺の戦い方を見てアドバイスを貰えると助かるかな」
「そういうことならお安い御用よ」
「分かりました。では、お互いに同意のもとでなら見学も問題ありませんので、ご案内しますね」
こうして竜胆は青葉の案内で職員専用のエレベーターに移動すると、そこから地下三階のトレーニングルームへ向かう。
地下三階に到着すると竜胆はトレーニングルームへ、青葉と彩音はトレーニングルームの管理室へ向かった。
「……へぇ、ここがトレーニングルームか。結構広いし、天井も高いんだな。それに、あの中央にある武骨な人形はなんだ?」
中に入ってトレーニングルームを見渡していると、スピーカーから青葉の声が流れてきた。
『天地様にはこれから複数回、疑似モンスターとの戦闘を行ってもらいます』
「……疑似モンスター?」
『疑似モンスターも攻撃をしてきますが、死に至るようなことはありませんのでご安心ください』
『ただ、傷を負うと痛みはあるからそこだけは気をつけるようにね』
青葉と一緒に管理室に向かった彩音の声がすると、竜胆は苦笑しながら頷いた。
『それではまずはゴブリンからです』
再び青葉の声が流れると、トレーニングルームの中央に置かれていた武骨な人形が動き出し、その見た目が一瞬にしてゴブリンに変化した。
「な、なんだこれは!?」
『説明はあとよ、竜胆さん! ゴブリンが襲ってくるから戦って!』
驚きの声をあげた竜胆に対して彩音の声が流れてくると、それと同時にゴブリンの姿をした人形が襲い掛かってきた。
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