パワードスーツと共に行く黒瀬のダンジョン探索!
水国 水
第1話 始まり
ある日、のちにダンジョンと呼ばれることになる紫色の渦が各国、各地に出現した。
当初は調査隊として派遣された軍が全滅したりと混乱を極めていたが、ダンジョンに入ることで謎の特殊能力を獲得した者たちの協力もあり、2年、3年と経つ頃には落ち着きを取り戻し始めていた。
そしてそれから5年後にはダンジョン内部からの配信が可能に。同時に免許制ではあるが一般人のダンジョン探索が可能になった。
これにより、ネットではダンジョン探索をリアルタイムで配信することが流行り始めたのだ。
——そんな流行りの中、俺はダンジョンにて素材集めに勤しんでいた。
「結構集まったしそろそろ引き上げるか。ルーファス?」
《ええ、その方がよいでしょう。目標数は集まりましたので》
俺の呟きに対して機械音声が俺の頭部アーマーの内側から聞こえてくる。これは俺の創り出した人工知能だ。色々とサポートをしてもらっている。
そうして、帰ろうとした時、またルーファスが言う。
《——報告。この近くで強大な魔力反応を検知しました》
「どのくらいだ?」
《過去に竜が現れた時の記録と一致。今回も竜かと思われます》
「まずいな……」
竜といえば過去にダンジョンに出現した時、その時の探索者で指折りの実力者を大勢投入して三日三晩戦い続けようやく討伐できたほどだ。しかもその際出現した階層より上の階層にて、全てのモンスターが竜から逃げるため地上へ出現し、大災害を引き起こしたのだ。
今回も早期に討伐しなければ同じようなことが起こるだろう。
「武装は問題ないか?」
《はい》
「わかった。じゃあ、案内してくれ。ルーファス」
《かしこまりました。ナビゲートします》
俺はルーファスの案内を頼りに現れた魔物の所まで、進み始める。
◆◆◆
「ここか」
天井が高く横幅もドームくらいありそうな空間に出る。
その中心に鎮座する竜が一体。四足歩行に灰色の鱗、金色の目、全長20メートルくらいあるだろうか……大きさとしては過去に出現した竜よりは小さそうだがルーファスの言う通り魔力量が異常なくらい多いようだった。
「あいつか」
《はい、過去と姿が一致。地竜です》
「ああ」
頭部アーマーの画面にルーファスが予測した地竜の強さが表示される。
地竜――翼を持たず、飛ばない代わりに肉体が他の竜より強化された種。
遠巻きに観察していると、地竜と目が合う。獲物を狙うような目つきだ。
ゆっくりと口を開く地竜。
轟音の如き雄叫びが鳴り響く。
《こちらに気づいたようです》
「だな。行くぞッ!」
《はい》
「まずは小手調べだ」
前腕部から小型ロケットを地竜へ発射する。
それは地竜に直撃した。が、大したダメージにはならないようでピンピンしている。
「傷すらつかないのかよ」
俺はそう愚痴をこぼす。
《想定以上に装甲が硬いようです。再計算します》
ルーファスの想定以上の強度を持っていたようだ。
(もしかしたら、あれを出さないといけないかもしれんな)
その時、地竜が突然反撃をやめた。
「なんだ?」
《口元に魔力が集まり始めています。ブレスを撃つ可能性があります」
ブレスを放つ予兆を感じ取り、報告を上げるルーファス。
「まずいな」
と思っていたら地竜の口が膨らみ、ブレスが一直線に迫ってくる。
「早ッ! まじかよッ」
咄嗟に俺はブレスを防ぐため、レーザーバリアを展開する。
「レーザーバリア展開ッ! ブースター噴射!」
《左前腕部レーザーバリア展開します》
ヘルメット内部に機械音声が流れ、背部バックパックのブースター、両脚部のスラスターを起動。同時に左前腕部に装備したレーザーバリアを展開し、ブレスを受け止め、後ろへ飛ばないようブレスを耐え切る。
展開していたレーザーバリアがバチバチと音を立てて、消滅する。
(なんとか耐えれたが……)
《報告です。レーザーバリア、限界を超えたため機能停止です》
「対ブレスに耐えれる設計じゃなかったからな……まぁ、一発防げただけよしとしよう」
俺は意識を地竜へと戻す。
ルーファスに次の武器を出すよう要求する。
「次だッ! パイルバンカーをくれ」
《かしこまりました、次元収納起動。パイルバンカー、——どうぞ》
俺の言葉を合わせルーファスが次元収納を起動、展開する。青白く輝く渦が空中に出現し、先端が鋭く尖った杭が中心に装填され、下部には持つためのグリップが、後方には打ち出す機構をつけた武器——パイルバンカーを取り出す。
前腕部の籠手に接続しグリップを握る。
そして、地竜へと足を進める。
(次の攻撃体制に入る地竜は物理攻撃に切り替えるだろう……その脳天に突き刺してやるよッ!)
ブレスが通用しないと分かったのか、地竜は物理攻撃に切り替えたようで突進する姿勢に移る。
俺は足を進めていく。
それが合図のように地竜もこちらへ向けて走り出す。
数歩進み、俺は立ち止まる。が、地竜は止まらずさらに加速した。
「来い」
《危険です。一度回避を推奨します》
「問題ない」
《ですが……》
「来るぞッ」
俺のことを喰おうと考えているのか、口を大きく開き突撃してくる。
眼前に迫る地竜の口。俺は腰を屈め回避する。そしてパイルバンカーを下から突き上げるように下顎へ叩きつけ、杭を発射する。
しかし、地竜の顎に貫通することはなく何かに阻まれ、甲高い金属音が鳴り響く。
「なんだこれは……ッ!? ルーファス!」
合図に合わせルーファスがブースターを噴かせ、回避行動を取る。
地竜の行動より早く脱出することに成功し、離れてルーファスの分析を待つ。
チラリとパイルバンカーを確認すると半ばで折れ曲がってしまっていた。
「硬いな。こいつの特性か?」
《結界を張っているようです》
「結界か……」
《はい、おそらくあの地竜特有のものではないかと》
「なるほどな」
どうやら地竜のスキルで結界を張っているようだった。
俺が思案しているとルーファスが何かに気づき報告を上げる。
《右後方に探索者を確認。どうされますか?》
「探索者? 誰だ」
ルーファスの指し示す方角へ視線を移す。すると、入り口の影から観察してくる桃色の髪をした女の探索者を発見する。
《この地竜を討伐にきた者だと思われます。今のところ様子見のようです》
「なら、放置でいい。注意はしておいてくれ」
《かしこまりました——彼女のそばにドローンを確認いたしました。録画中もしくは配信中だと思われます》
「……それは面倒なことになりそうだな」
《はい》
「EMP準備」
《EMP攻撃準備。電磁パルス発生装置展開。数秒お待ちください》
「ああ」
そして地竜へと視線を向けると動く様子はなく、ただこちらを観察しているようだった。
(何かありそうだが……今はドローンが優先だ。警戒だけしておこう)
俺は視線を地竜から外すことなく警戒を続ける。
(俺の武力が外に漏れるわけにはいかない。それに……ダンジョンに入るための探索者資格を持っていないしな。申し訳ないがバレるわけにはいかないんだ)
ドローンが飛んでいる以上、配信もしくは録画をしている可能性が高い。見逃すわけにはいかないと考えた俺はEMP——電磁パルス攻撃の準備をルーファスに指示する。
《準備完了。いつでも撃てます》
「よし——EMP照射!」
《EMP照射》
パワードスーツの各所に細かな砲身が現れ、全方位に向けて電子パルスを放つ。
青白い稲妻が半球状に展開され空間を埋め尽くす。
後方で「うわっ」と驚く声と共にドローンが落下しガシャンと破損するような音を感知する。
(よし、これであれが使える。配信だったら今広められるのが面倒だからな)
《妨害成功。ドローンの機能停止、落下した模様です》
「あとは地竜だな」
《ええ》
「パイルバンカーをパージ、5番を出してくれ」
地竜に向き直り、杭が折れ曲がったパイルバンカーをパージし、新たな武器をルーファスに出すよう言う。
《あれは試作品ですが……よろしいのですか?》
「性能テストもしてみたかったからな。絶好の機会だよ」
《かしこまりました》
パイルバンカーを地面に落とす時に金属の音が響き、地竜が一瞬気を取られる。その隙にルーファスが展開した次元収納から新たな武器を取り出す。
《5番使用可能です》
「おーけー」
次元収納から取り出したものは横幅50センチくらいある砲身とそれを包むように装甲が上下にあり、後方は長方形の装甲内に円柱型の粒子加速器が装着されている。
そして下部後方には引き金がある。
これは荷電粒子砲と呼ばれるもので、俺が設計しルーファスが制作した力作だ。
《荷電粒子砲、起動します》
ルーファスの声に合わせてブウゥゥンと駆動音を立てて青白く光り、荷電粒子砲が起動する。
「さぁ、初陣だ。派手にぶちかまそう! 出力最大、照準——地竜」
《試作品のため最大ですと壊れてしまう可能性が大きいのですが……》
「いい、やれ!」
《了解。出力最大——ロックオン。いつでもどうぞ》
「——発射ッ!」
引き金を引く。
——刹那、耳をつんざくほどの轟音が鳴り、地竜が張った結界へ到達する。
結界は数秒と持たず甲高い音を立てて砕け散った。
それから、地竜は断末魔を上げることも無く一瞬で消滅する。
《地竜の生体反応、消失しました。》
「了解」
静寂が場を包む。
土煙が晴れるとその場には、上半身が吹っ飛び血を流し倒れる地竜だったものが残った。
「討伐完了」
《お疲れ様でした》
手元から煙が上がり武器を見る。砲身は先端が裂け、ところどころ煙をあげ、ショートしていた。
「派手に壊れたな」
《爆発する可能性があるので仕舞っておいてください》
「分かった」
ルーファスが次元収納を起動し、その中に仕舞う。
《後ろに隠れている探索者はどうしますか?》
「危害を加えてこないのならそのままでいい」
《かしこまりました》
「さ、素材回収して帰るか」
俺は素早く必要な素材を回収し、帰宅する。ダンジョンの奥へと。
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