第5話 遭遇
時は少し遡り、深層にて。
「何よ、この魔物はッー!!」
走りながらそう叫ぶ彼女——桃瀬 京香は今、死ぬかもしれない瀬戸際に立たされていた。
下層探索者である桃瀬は今、絶賛命を賭けた追いかけっこ中だ。
下層には出現しないはずの深層の敵。それが、桃瀬を追いかけている魔物である。
:逃げてッー!
:逃げてー!
;探索者庁に救助要請したからそれまで耐えて!
:なんでこんな魔物がいるんだ!?
ドローンからは桃瀬を心配するコメントなどが読み上げられる。
:前の方なんか光ってるよ!
:あそこ入ったら……!
:まて、罠かもしれないだろ
配信を見ている視聴者が先の方に壁から光が漏れ出ていることに気がつきコメントをする。
それを聞いた桃瀬は前方をよく見る。
「光……?あれか!一か八か……行くしかない!」
桃瀬は光が漏れ出ている横穴へ逃げ込んだ。次の瞬間、ドンッと目の前で追いかけてきた魔物がぶつかる音がする。
顔を上げると桃瀬の目の前――割れ目の先に眼があり、魔物が覗き込んできていた。
魔物は割れ目より大きすぎるため入れず、出てくるのを待っているようだ。
一向に動く気配のない魔物。桃瀬はこの状況に恐怖し、後ずさる。
「ひっ……」
その時、後ろの方が眩く発光する。
「何ッ!?」
驚いた桃瀬は声を上げ、周囲を見渡す。すると、後ろに手をついていたその手元から光が発生しているを見つける。魔法陣だった。
運悪く魔法陣に手を置いてしまった桃瀬は起動させてしまったようだ。罠を。
この魔法陣は、各階層に点在しているトラップとして最も気をつけないといけないものであり、どの階層に飛ばされるか分からないという完全ランダムなものなのだ。
「これ……転移トラップ……?」
:うそっ
:転移トラップじゃん!?
:やばくね?
そして桃瀬は光に包まれ、消えた。
取り残された魔物は突然、獲物が消えたことに困惑ししばらく桃瀬がいた場所を攻撃していた。
◆◆◆
「んん……?」
転移トラップを踏んでから10分ほどが経過した頃、桃瀬は目を覚ました。
「ここは……?」
周囲の景色は一変しており、岩に囲まれていた場所から、平原に転移したようだ。
:やっと起きた!
:大丈夫?
:よかった……
隣を飛ぶドローンからは視聴者の安堵するコメントが読み上げられる。
「ドローンも飛ばされてきていたの? 配信まだ見れてる?」
:見れてるよ!
:見れてる!
「よかった……それにしてもここは何階層だろう?」
桃瀬は独り言のように視聴者に語りかける。
:分からない
:わからん
:空なんてダンジョンにないはずなのに……
:ちょっと調べてみたけど何も……
「そうだよね。私もダンジョンに空があるなんて……聞いたことも見たこともないよ」
唖然としながら桃瀬が呟く。
「とにかく出口を探さないと! 転移トラップだったみたいだからダンジョンの中のはずだし」
出口を見つけるため、桃瀬は平原を歩く。
「見たことも無い場所だし念の為、コメント読み上げ機能はオフにしておくね」
:了解!
:わかった!
:気をつけて!
:ここどこだろうね
:下層ではないことは確かだよな
————10分後。
「平原しか見えない……遠くに山のようなものは見えるけど出口とは思えないし……ほんとにどこなの?」
:異世界にでも来ちゃった?
:京香、モンスターに襲われ異世界へ
:にしては配信がついてるのおかしいよな
「そうなんだよねー。だからダンジョンであることは間違いないだろうけど……」
視聴者と桃瀬が話していた頃、桃瀬へと近づく影が……。彼女はまだ気づいていないようだった。
「グアァァアァァァッッ!!!!」
桃瀬の背後から魔物の叫び声が響く。
「なに!?」
驚いた桃瀬が振り返ると、そこにはジュラシックパークのT・レックスを彷彿とさせるような恐竜型の魔物がこちらを見据えていた。
土のような茶色の肌、小さな目に縦長スリットの瞳孔。半開きになった口から見える鋭く尖った歯。
桃瀬を見て恐竜型の魔物は涎を垂らす。
「は……?」
:は……?
:は……?
:は……?
:え……?
:なんだよこいつは……
桃瀬、配信を見る視聴者は同じ反応をし、唖然とした。それもそうだろう、このような魔物は今まで目撃されたこともなかったからだ。
「恐竜? こんな魔物見たことも……聞いたことも……」
少しずつ後退り、桃瀬は溢すように言う。
:逃げてッー!
:京香ッー!
:そいつ絶対やばい奴……! 逃げてッー!
桃瀬は前を向き、全速力で走り出す。
魔物はそんな桃瀬を観察しつつ、致命的な攻撃を繰り出す素振りを一切見せずにチマチマ攻撃を仕掛けては観察を繰り返していた。
いたぶって楽しんでいるのがはっきりとわかる戦い方だ。
:あいつ遊んでやがる……
:どれだけ余裕なんだよ……
:もう無理俺落ちるわ
視聴者が耐えられなくなり配信の視聴をやめる中、桃瀬は逃げ続ける。ところどころに生えている木や魔法をうまく使いながら。
だがそれも長続きはしなかった……足がもつれ、ふらつきながら桃瀬が倒れてしまったのだ。
魔法を使いすぎてしまったのか魔力切れになってしまったようだった。
恐竜型の魔物がゆっくりと近づき、喰おうと桃瀬に迫る。
:危ない!
:あっ!?
:誰か京香を助けて……
数秒後に到達するであろう死を覚悟したように、桃瀬はキュッと目を瞑り身体をこわばらせる。
——だがいくら待てどその瞬間が訪れることはなかった。
「あ、あれ……?」
桃瀬は困惑した声を出し、顔を上げる。
そこには桃瀬を庇うように全身をパワードスーツで覆った人物が恐竜型の魔物の攻撃を受け止めていた。
「だ、だれ?」
:だれ?
:……?
:だれだ?
パワードスーツを着用している人物は桃瀬の方を向き、だがしかし、質問に答える訳でもなく「無事か?」と問う。
「……は、はい。ありがとうございます」
桃瀬は混乱したような表情を見せつつ、問いに答えた。
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