人間と龍と人間の三馬鹿の話-2
地面が時折揺れるのは、足下ずっと地下深くで動き続ける溶岩とガスの仕業。でも、騎士として生きて来たアインスには地質学の教養は無い。
靴底が小石を踏んで音を出す。その音に反応したかのような龍は、ぴくりと鼻先を動かして目を開いた。
「……ああ、人の子の匂いだ」
馬鹿が馬鹿面晒して汗みずくになって、やっと龍の所に辿り着いたのは脱水症状一歩手前になった時。
「――ふむ。珍しく軽装で来た者がいると聞いてはいたが」
アインスとオズは、龍を見るなり膝から崩れ落ちた。
龍から感じる神々しさに感動したからではない。
恐れおののいて畏怖している訳でも無い。
ただ、熱中症だった。
「う、ぅえ、オズ、俺、吐きそ、お、ぉうえ」
「こんな所で吐くな。吐いても僕は手助け出来んぞ」
蹲り、或いは四つん這いで、必死に吐き気と眩暈とあと他諸々と戦っている二人組。
龍は、目の前で起きている不可解な光景に瞬きを数度繰り返す。
「……いかな頭の悪い盗掘者とて、下準備はしっかりとしてくるものなんだがな?」
「と、っ、盗掘、とは、とんでもない。おれ、いや、わたしは、貴方様におろろろろろろ」
「吐くな」
アインスの醜態に、さして焦るでもなく言い切る龍は目を逸らす。自分の生活空間を汚される景色をそのまま受け入れたくないからだ。
しかし龍は、言葉の通じない低能な魔獣とも違う。二人の様子を見て、尻尾の先で水を汲んだ桶を運んできてくれた。
「ヒャッハー! 水だ!!」
「知能の欠片もない言葉を我が寝床で使うな。浴びる程は無いが少しは飲めるだろ」
「水……違う! これお湯だ!!
「幼気を自称するなら胎児からやり直せ」
こんな灼熱の地にあれば、どんな水でも湯になろう。蒸発してないだけでもありがたいと思って欲しいのだが、馬鹿はこの暑さで更に馬鹿になっている。
面倒だな、と思いつつも緩慢な仕草で龍は寝返りを打った。我先にと湯を飲み干している馬鹿二人を横目で見ながら、どう対応した者か考えている。
「それで、人の子よ。何の用だ」
「ああ、ええと。すみません挨拶がまだでしたね。俺はアインスと言います。こっちはオズ。盗掘者じゃないので食べないでください」
「人の寝床でゲロ吐いた不埒者なんざ、食う気があるならもう食っている」
実際、盗掘狙いの馬鹿だとしても、物見遊山の阿呆だとしても、こんな軽装と準備不足で来るような輩は今までいなかった。火山も、毒の沼も、その為の予防線だった。
その予防線を掻い潜り、足りない装備だというのにこの場所まで来た侵入者を追い返す気も無く、話だけは聞く姿勢を見せる。
「俺は国王陛下の勅命を受けて、貴方様のお持ちである宝石をお譲りいただけたらと」
「は?」
「勿論、無条件でとは申しません。我が王には貢物を捧げる意思があります」
「……人の子よ、それ本気で言ってるのか」
アインスの後ろで、オズはやや及び腰――というか、逃げつつあった。前を向いたまま、足だけを後ろに出し、後ろに出し、距離が離れ始めている。
「と、言いますと?」
「貢物、大いに結構。して、それは何処にある? まず顔合わせの時に手土産が必要ではないか」
「……手土産?」
「成る程、相分かった」
――オズが姿勢の良い走り方で逃げた。
「つまり手土産とは貴様自身という訳か」
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