灰色
これは横浜にいた時の話。
スーパームーンの夜ということで、私は泊まりに来た友達と月を見に公園に行った。
家の真横にある公園なのだが、小高いところに位置するため月を見るのには丁度よい場所だ。
小さな公園には街灯が一つ、周囲にある遊具も、藤棚も暗く沈んでいる。
公園に踏み入って空を見上げると、丸々と肥った月が堂々と空に鎮座していた。
大きい。
そして、予想より眩しい。
「おおお!おっきぃぃい!すごいね!でっかい!!近い!綺麗だね」
テンションの上がった私の、興奮した声が響く。
そんな私の視界の端に、人影が映り込んだ。思わずそちらを見ると、公園の奥にある桜の木の下に一人、灰色のスーツを着た男性が立って空を見上げているのだ。
これは、恥ずかしい。
友達だけしかいないと思い込んでいたから騒いでいたが、人が他にも居たとは。
私は急いで声のトーンを下げた。
それでも気まずい思いが消えず、しばらくしてから友人を連れて公園から出た。
隣の自宅マンションの階段を上る頃に、ようやく気まずさ、というか気恥ずかしさから解放されると私の口はまた軽くなる。
笑いながら、後から上がってくる友人を振り返った。
「いやぁ、公園に男の人いたね。誰もいないと思って騒いじゃったから恥ずかしかった!」
友人の大きな瞳が訝しむように瞬いていた。
「え、誰もいなかったよ?」
「え?」
「グレーのスーツの人、いたじゃん。桜の木の下に」
「21時過ぎだよ?真っ暗じゃん、あそこ。なんで色分かるの?」
確かに、ごもっともである。
それ以降、夜の公園には近づいていない。
これは実話です。 豊口楽々亭 @krcg
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。これは実話です。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます