ピーちゃん!

私の知り合いの方から聞いた話。


話をしてくれたのは、渡辺さんという方だ。

彼は政府の人間で、今は肩書きのある立場となっているが、昔は現場の人間として色々な場所に向かうことが多かった。

十数年前、地震が起こった時に、渡辺さんは建物の調査のため某施設に職員数名で訪れることになった。

内容としては、施設内の点検を行い、地震の影響を調査するというものだ。


皆で装備を整え、建物の中へと進んでいく。

地震の影響で電気は通っておらず、強力な懐中電灯で周囲を照らしながら歩いていった。

しっかりした施設だったからだろうか、地震の影響も少なく、危なげなく施設内の様子を点検できた。


順当に施設の奥までたどり着き、じゃあ、最後に残った部屋に入ろうとした瞬間、不意に背後から


『ピーちゃん!』


という声がして、振り返った。

この声というのが、昔飼っていたオカメインコの鳴き声だったらしい。

ピーちゃん、という名前で、自分の名を覚えてよく鳴いていたそうだ。


おかしいな、と思って渡辺さんは足を止めて、背後を振り返った。

周囲の同僚は彼の行動を訝しんだのだろう、どうした?と問い掛ける。

渡辺さんは困惑しながら、背後の同僚に尋ねたそうだ。


「今鳥がいませんでした?」


同僚からは、いない、との答えしか返ってこなかった。

疲れてるんじゃないか?と言われて一応納得し、渡辺さんは再び踏み出そうとした。

すると再び


『ピーちゃん!』


という鳴き声が、左後ろから聞こえた。

渡辺さんがまた足を止めて振り返ると、再び同僚に、どうしたんだ?と尋ね掛けられる。


「いや、昔飼ってたオカメインコの声がしたんですよね」


渡辺さんがそう正直に伝えると、同僚は奇妙な顔をしながら、疲れてるんだろ。早く中に入って調査しよう。

と促してきた。

渡辺さんは首を捻りながらも、再び前に向き直って踏み出そうとした。


その瞬間、入ろうとした部屋の天井が崩落したそうだ。


もしも足止めされずに入っていたら、崩落に巻き込まれて命はなかっただろう。と、陽気に笑っていた。


何とも恐ろしく、可愛らしい話しだ。

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