これは実話です。
豊口楽々亭
広島の夏
原爆ドームは皆知っていると思うのだけれど、あそこの不思議な話しを、ちょっと思い出した。
広島駅から路面電車に乗って幾つもの橋を渡り、川を眺めていると現れるのが、戦争の遺物だ。
平和記念公園の中は緑がこんもりと繁っていて、その奥に崩れ掛けた建物が立ち尽くしているのだが、異物と言ってもいい威容は、不思議なほどに街に溶け込んでいた。
私は友人と広島市内にある、本通りという繁華に遊びに行く途中だったのだが、たまには散歩しようという話になって、乗っていた路面電車から原爆ドーム前の駅で降りることになった。
真夏の昼間、雲一つない青空だ。
これは暑い、堪らん。と思いながら歩く私に、広島生まれ広島育ちの友人が、公園を指差す。
「暑いなら公園の中、入ってみんさい」
公園に視線を向ける。遠目から見るとこんもりとしたブロッコリーのように見えるだけあって、緑が多く、木陰が沢山あった。
これはありがたいなぁ。と思って涼むために中へと踏み込んでみた。
物凄く、暑い。
公園に入った途端、地面から沸き立つように熱が上ってくる。
空気自体も何というか、のっしりとした重い熱を帯びて、身体全体に纏わりついてきた。
「え、公園、暑くない?」
思わず外に出る。
身体から重さが消えた。
同時に、夏の容赦のない陽射しが肌を焦がす。熱さの質の違いを、実感させられた。
不思議がる私を見て、友人は普通に笑っていた。
「日陰なのに、暑いじゃろ?原爆ドームの公園はさ、まだ焼けてんだよ」
広島生まれの人にとって、戦争は生活の延長線上にまだ存在しているんだな、と思わされる。
そりゃ熱いよね。と、妙に納得させられてしまった。
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