とある日、不思議なものを見た俺は

徳田雄一

これは嘘か誠か

「はあ……」


 憂鬱な日々。仕事を終えて帰ろうとしても上司から追加の仕事を渡され、上司はのうのうと帰っていく。あからさまに自分だけがイジメを受けているような気分で深夜まで働き、始発の電車で帰る。


 月28日働かされ、さすがにブラックでヤバいと思っていた。しばらくの間仕事なんか考えたくないと、久々の休日、俺はおめかしをして外へ出た。


 そんな時、俺は不思議な光景を目にする。


「なにあれ……」


 そこには不思議な、とても不思議な光景が。


 小太りを超え、恐らく体重100キロはあるであろうオジサンが、幼女のような格好をしているのだ。少女漫画に出てくるようなキャラクターの描かれているTシャツに下はフリフリのスカート。身体に反してサイズが小さいのかパッツパツなのだ。


 俺は思わず好奇心から声をかけてしまった。


「あ、あの……」

「なぁにぃー?」


 オジサンは明らかに幼女意識であろう、幼女ぽい返事をしてくる。


「えっと……」

「おじさんなにぃ。わたちいそがしいの!」

「え、おじさんって貴方もですよね……?」

「えぇー?」

「そ、その喋り方なんとかなりません?」

「……あの、近くの公園にでも」

「あ、はい」


 俺は思わず声をかけてしまった、おじさん。いや、おぢ幼女と名付けよう。その人と共に公園に行った。


「よっこらせ……」


 おぢ幼女はベンチに座った。あからさまにおじさんのような掛け声でベンチに座る。そしておじ幼女は一言ボソッと言った。


「……俺って幼女ですよね?」

「はい?」


 おぢ幼女は恐ろしい言葉を口にした。どう見ても痛いコスプレおじさん兼危険分子であろう姿をしているのにも関わらず自分が幼女だと思い込んでいた。


「いや、僕思ったんですよ」

「あ、はい」

「俺って幼女じゃねって」

「え、いやいやいやいや!!!」

「幼女なのに、周りからはただのおじさんだとか言われるんですよ。理不尽じゃないですか?」

「いや、だってどう見たって幼女じゃないですよ!」

「え?」


 するとおぢ幼女は唖然とした表情をした。数秒の沈黙の後、公園に小さな子どもたちがワンサカ集まる。砂遊びやブランコと和む光景だったが、そこに異物が映る。


「あははは〜!」


 そう、こども達と遊ぶおぢ幼女が映るのだ。こどもたちもそれを違和感と思わないのか、それとも慣れているのか普通におぢ幼女と遊んでいるのだ。


「これは何が……?」


 目の前に広がる光景に頭を悩ませていると、公園に出向いてきた、お婆さんが俺のそばに寄り言った。


「……不思議なこともあるもんだよ。理解し難いがね」

「えぇ、ほんとに」

「あの子は実はな、昔は健全な男の子だったんだ。今は55歳バツ1なんだよ」

「えぇ?!」


 おぢ幼女という要素より結婚していた過去に驚きを隠せなかった。


「おぢ幼女さん結婚してたんですか?!」

「若い頃にだがねえ」

「な、何があったんだ」

「子どもたちを自由に遊ばせていられるのも、あの子が危害を加えない、本当に幼女として、同年代の友達としてみんなと接しているからなんだ」

「いやいやいや……」

「理解し難いだろうのぉ」


 お婆さんの言う言葉どおりなのか子供たちは嬉しそうにおぢ幼女と遊ぶ。おぢ幼女もまるで童心に帰ったような、まるでこどもそのものだった。俺は少し憧れてしまった。仕事なんか考えず、自分が子供だと、幼女だと思い公園で沢山遊ぶ。


 帰ったら沢山寝るんだろうなぁ。なんて思いながら。


「っていやいやいやいや!!!」

「ん、なんじゃ?」

「あ、すみませんこちらの話です……」

「そうかい。じゃ私は帰るかね」

「あ、はい。ありがとうございました」

「くれぐれもあの子を我に返そうとしないでくれ」

「……わかりました」


 ☆☆☆


 これはとある夏の日の話だ。

 私美智子はとんでもない光景を目にしたのだ。


「あはは〜!」

「うふふ〜!」


 明らかに少女では無いのにも関わらず、少女の格好をしておじさん二人が、子供たちと共に公園で遊んでいるのだ。


「こっわ……」


 そそくさとその場を去った。

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とある日、不思議なものを見た俺は 徳田雄一 @kumosaki

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