第10話 ボイルの都合

ボイルはセントリオ家の隠密であり、その使命は情報収集と、情報収集に忍び込んできた隠密の排除である。従って彼はこの一行の中で一番の武闘派であり、またこの奇妙な冒険に対して一番心理的抵抗が少なくもあった。


──御命令とあれば

彼は年下で直属の上司でもないキリオの命令にその一言で従った。しかし困った事はある。彼は本来隠密であり、この任務はあくまで暫定的なものである。従ってあまり顔を晒すような形での協力は致しかねるとも答えた。


──それについては考えます

キリオはそう約束してくれた。そしてその約束は守られた。彼は鍵師という役割を与えられ、それにより衆目に顔を晒す必要から逃れたのである。


──有難きことにて

ボイルはそう答えたが実は正直困った。彼は隠密の中でも特に武闘派であり、身のこなしは軽いが手先はあまり器用ではないのだ。


──それがしはあまり小技には長けておりませぬが

ボイルは正直にそう言った。それを聞いたキリオとボイルの間にしばらく微妙な間が空いたが、まあ別に宝箱を開けるような事もないだろうし、竜退治に複雑なトラップがあるとも思えずで、二人でそう言い合ってなし崩しに話はまとまった。


というわけでボイルは鍵師として参加することになった。文句はないが奇妙な一団に組み込まれたものだ、とは思った。


まずノーデル男爵家の姫君が随行する事は聞いていたが、実際に会うと14歳というよりは12歳に見えた。まあ僧服を着てウィンブルをしていれば子供には見えないだろうという。どう見ても子供にしか見えないが。


勇者アランの影武者ダブルにも会った。確かに見た目は十九代目様とよく似た男だったが、十九代目様が御母日傘おんぼひがさの御令息であったのに対し、この男は随分と目つきが鋭く、かつ裏社会に居た者特有の気配を感じた。聞けば元名誉ある者ジ・オナーだという。


その男の連れという付与魔術士エンチャンターも奇妙な男だった。背は高く肩幅もあるが身体は薄く、これでは隠密どころか下男も務まらなさそうに見えた。呆れた事にこの男が一行の"戦士役"を担うそうだ。


ニオゼという中年の男とも会った。ノーデル男爵家に仕える精霊祭司ドルイドで、僧侶としてではなく家内医師として雇われているとの事だ。そして年恰好と見た目から彼が一行の"魔法使い役"を担うらしい。


そしてリーダーがキリオである。彼女は"剣士"という役どころになってはいたが、それは交渉事の矢面に出やすいからという理由で、実は剣術などからっきしだという。護身術として初位を取った程度だと言われて思わず覆面の中で嘆息した。街中の暴漢にすら勝てるかどうか。

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