第6話  噂

「あ……う……ん……」


 回を重ねるうちにカウル様は、ワタシの身体に馴れてこられたようだ。


 次に来た時には、一番奥まで入って来たし、カウル様も満足げな顔をしておられた。

 でも体位は後ろからで、顔を見合っての行為はしてくれない。


「どうして、後ろからしか駄目なのですか?」


 聞いてしまった。


「それは……ちょっと……」


 カウル様は口を濁してしまわれた。

 これ以上は、聞いてはいけない。

 主様ぬしさまを困らせることは、男娼としてあるまじきことなのだ。


 そして、カウル様は下になることも嫌がられた。

 トラウマ級のモノがあると察せられる。もちろん、口には出さないけれど。


 その頃、アルテア城壁の中の一部で、サントスの街が神殿ごと独立をするという噂が流れていた。


「カウル様、知ってます?あの噂」


 行為の後で、おばさんに湯を持って来てもらって、カウル様の身体を清めていた。

 本当に彫刻のように美しい。彼の(自主規制)も彫刻並みなんだけど……。


「サントスの街が、銀の森のように治外法権を持つところになるってことですか?馬鹿な事ですよ、世界が二つに分かれてしまいます。僕が許可した覚えは無いです」


 カウル様の怒りのこもった低い声は、窓ガラスも驚いたようにガタガタと音を立てた。

 ワタシも、カウル様の足を洗っていた手が止まってしまった。


「カウル様?」


「どうかしましたか?」


 もういつものカウル様だ。先ほどの怒りのこもった声はない。


「良い香りの湯を使ってますね」


「安眠効果のハーブを入れてあります。今夜は、ワタシのリュートでお休みください」


「ここへ来る時間が、もっとあれば良いのですが……」


 カウル様は残念そうに言う。


「そう言って頂けるだけで、本望です。カウル様」


 ところが、噂はアルテアの城壁の内部の一部だったはずが、城壁の外にまで流れ出し、神殿が出所を調査するに至った。

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