第4話  主様(ぬしさま)の名前

 次の月の新月の翌日の夜に、主様ぬしさまは再び現れた。


 と言っても、その日はワタシには馴染みの主様ぬしさまがいらしていて、来訪を知らされたのは、その主様ぬしさまがワタシとの行為に満足して大イビキをかいて眠り込んだ後だった。


 店の旦那様が、この間の主様ぬしさまが私を指名しているという。


 ワタシは、正直疲れていた。

 今日の主様ぬしさまは、とても乱暴なのだ。

 ワタシの事は、奴隷以下とでも思っているらしい。

 少しでも、ワタシが気持ちの良くない顔をしたり、嫌そうな顔をするだけで暴力をふるってくる。今日も三発殴られた。

 それでも、アルテアの商人ギルドの監査官だ……上客であることには変わりはない。


 一夜に二人も相手にするのは、とてもしんどいけど、この間の主様ぬしさまならワタシは、もう一度会ってみたいと思っていた。


 ミステリアスな感じのとても美しい主様ぬしさまにもう一度会いたいと思っていた。


 ワタシは、急ぎ主様ぬしさまの通されている部屋へ急いだ。


「オリヴィエ・ダナで御座います。主様ぬしさま、本日もご指名を有難うございます」


「オリヴィエ?」


 主様ぬしさまが怪訝そうな顔をする。


「はい、オーリと呼んで下されば嬉しいです」


 なんと主様ぬしさまは、吹き出した。

 何がそんなに可笑しいのだろう……? 


主様ぬしさま?もちろん源氏名で御座いますよ。主様ぬしさまも本名を名乗る必要はありません。本名でも構いませんが……」


 ワタシがそう言うと、主様ぬしさまは顎に手を当てて考え込んでしまった。


「でも僕の名前は、知ってますよね?」


「最後のカルしか読めませんでしたよ、肝心の署名が」


「朝、喉が乾いて水を頂いたせいですか……では、あなたは僕を知らないと言うのですね?」


 この前より、幾分元気な主様ぬしさまは、自分が有名人のように言った。

 ワタシは首を縦に振る。

 こんな綺麗な美男子は、外で会っても忘れないと思う。

 そう主様ぬしさまに言うと笑われた。


「では、読めたところで僕の名前は、カウル・サントスでお願いします」


 主様ぬしさまは、麗しい顔で微笑んだ。

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