朔月の逢瀬 ~賢者はリュートの音(ね)で微睡む~ 

月杜円香

第1話  オリヴィエ・ダナ  

 その主様ぬしさまは、新月の祭りの次の日に突然やって来た。


城壁の外の街にあるサントスの大神殿では、闇に紛れて魔の物が生まれると言う古い言い伝えのもと、新月の日には、神殿は一晩中篝火を絶やさずに焚いて、神殿の長たる賢者様は、一晩中寝ずに祈りを捧げるそうだ。


 ワタシでも知っているこのくらいの知識を、ここの男共は知らなかった。

ワタシ、オリヴィエ・ダナとて大して変わりはない。

 学び舎を出奔して、リュート一つで身を立てようとして、パトロンになってやると言って多額の借金を背負わされた。


 18歳の時だった。

 以来六年、ワタシはここ城塞都市国家、アルテア王国の繫華街の目立たない男娼館『ミツバチの館』で男に抱かれている。


 因みにワタシのことをワタシと呼ぶようになったのは、ここへ来てからだ。

 それまでは、『僕』と呼んでいた。


 実家は、オアシスの王族で、弟は、一流の魔法使いだから、ワタシがこんなところで男娼をやってるなど、口が裂けても言えないことだ。


 男が男を求めると言う性癖は、ワタシには理解しがたいモノがある。

 だが、借金を背負わされ、返せないなら身体で返せと借金もとに言われたのだ。

 ただ、ワタシのリュートの腕と、中世的な童顔の顔が受けたらしい。

 見る見るうちに、店の稼ぎ頭となっていた。


 今日は、朔月。

 城壁の中の海辺の街ゴアに新しく風力発電所が出来た。神殿が発電のための巨大風車を作るのに資金を出しているために、城壁の中に市民はお金を払って、電気の権利を買っている。


 アルテア一の繁華街通りは、羽振りが良いのでいつも明るい。


 ワタシは、電気が嫌いだ。

 夜に人の顔が見えすぎて行為に及ぶのは苦手だった。

 でも、苦痛に歪めるワタシの顔が見たいと灯りを点けて行為を求める男が多い。


 ワタシは、慣れないのに……。

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