WEB作家×ポジティブな僕は清楚系声優×毒舌ヒロインとエロスVTuber×幼馴染み巫女ヒロインに愛されています。時折元歌手の地下アイドル×貧乏先輩ヒロインがせびってくる。
夕日ゆうや
第1話 出会い
僕は今、恋をしている。
その子は僕の前だけで本音を話してくれる。
でも好きになったきっかけは――
家庭科の調理実習。
お題はクッキー。
卵と小麦粉の生地からいろんな型をとり焼くだけ。
それでも失敗というものがあるから、恐ろしい。
「うえ。
「ごめん。砂糖と塩、間違えたみたい」
がっくりと項垂れる僕。
「
そう言って顔を見せる一ノ
三角巾からは見える流美な長い黒髪が今はひとまとめにポニーテールにしてある。
ひょいっと僕のクッキーをつまみ食べる。
「うん。おいしいよ!」
「え。でも塩だよ?」
「塩クッキーかと思った!」
天真爛漫で誰とでも仲良くなれる、まさに天使のような子が目の前にいた。
そしてその特徴的な愛らしい声はよく響く。
周りの女の子ですらも、その美麗な黒髪ロング清楚系可愛い子を見つめている。
「一ノ瀬さんたらやっさしい――!」
「えー。でもおいしいよ?」
友達の
この頃は分からなかった。
一ノ瀬さんの裏の声を。
「最悪。どうしてこうなったんだよ」
「い、一ノ瀬さん?」
「あー。底辺メカクレと一緒だなんて。マジ最悪」
僕が一ノ瀬さんを見つめていると、その成長途中の膨らみを見てドキドキしてしまう。
否。これは男子ならよくあること。
「きもっ。マジどこ見てんのよ。これだから童貞は」
身を寄せてどんびいている。
一ノ瀬さんとは今、同じ部屋で、同じ家で暮らしている。
いや、どうしてこうなった?
☆★☆
僕は高校に進学することにした。
でも実家から通うには時間がもったいない。
自分の貯めたお金で僕は一人暮らしを決意した。
その近くのマンション。
幸いにも作家で稼いだお金があるからセキュリティの高い場所を選べた。
いやー。良かった。
ラノベの「ブイサイハイブリッドトリューバー」が一億部売れていたから、両親からも了承されている。
その仕事もあるから時間はあまり無駄にはしたくない。
両親はせめて大学には進学して欲しいと思っているらしいし。
妹と別れるのは少し残念だったけど、僕は独り立ちしたい気持ちもある。
それにお兄ちゃん離れしてくれるチャンスかも。
妹が成長するのなら、僕は満足だ。
僕は不動産会社に赴き、自分で選んだ部屋だ。内見も済ませている。
完璧な契約だった。
そのはずだった。
家主の手違いさえなければ。
引っ越し当日。
僕はお気に入りのラノベを本棚と一緒に運び入れる、そのときだった。
「あんた。何やっているの?」
端正な顔立ちで、綺麗な黒髪が印象的だった。
吸い込まれるような金色の瞳。
天性のアイドル気質。
そんな彼女も段ボールを運び入れるところらしい。
お隣さんかな?
僕は部屋のカギを開けて中に入ると、
「ちょっと待った! なんで駄男がここにはいるのよ!?」
黒い髪を揺らし、いきり立つ。
彼女は男性が苦手らしい。
鼻息を荒くして抗議している。
「僕は201号室って言われたけど?」
「わたしもよ。たく、どうなっているのよ」
僕はスマホを操作して落ち着いた態度で大家さんに連絡をとる。
手違いで二人を同室にしてしまった。
二ヶ月後には新しい部屋を用意できると言われてしまった。
それを伝えると彼女はギリギリと歯ぎしりをし、顔を歪める。
「そんなの!」
「僕も思うよ」
まあ、美少女と一緒というのは嬉しいけど。
冷静な僕を見て、少し落ち着く彼女。
「僕は
「よく冷静でいられるわね。わたしは一ノ
一ノ瀬さんは未だに怒りを露わにしている。
部屋が二つあるのが幸いか。
「コレと、一緒なんて!」
「コレって失礼だね」
僕は気にした様子もなく荷ほどきをする。
「ふん。まあいいわ。好きにしなさい。冷蔵庫もベッドも別々にあるのだから」
「そうだね。二ヶ月の辛抱だね」
パソコンをセッティングすると、電源を入れる。
「ふん。メカクレ童貞糞チビと一緒なんて」
黒髪ロングの彼女は指で髪をいじる。
「別にいいけどね」
「ムカつく!」
部屋で荷ほどきを再開する僕。
本棚にラノベを閉まっていく。
そういえば、一ノ瀬さんの声をどこかで聞いた気がするな。
どこだっけ?
そうだ。
僕の推しである一ノ瀬小夜さんに似ているんだ。
ん? 一ノ瀬?
慌てて一ノ瀬さんの部屋をノックする。
「何よ。童貞」
ガラガラと引き戸が開かれる。
「も、もしかして……声優の一ノ瀬小夜さんですか!?」
「……」
じーっと見つめる僕。
「そうよ。悪い?」
大きなため息のあと、一ノ瀬さんは目をそらす。
「サインくださいん!」
「あのね。わたしにだってファンを選ぶ権利くらいあるわよ」
「え。じゃあ、おもてなしします!」
「どういう意味?」
怪訝な顔を向けてくる一ノ瀬さん。
僕は台所に向かい、料理を始める。
くぅううと可愛らしいお腹が鳴るのを見て、苦笑を浮かべる。
一ノ瀬さんは恥ずかしそうにしていたけど。
「はい。できました!
「二人分、作ったんだ?」
「食べてみてください」
僕はにこりと笑みを浮かべてすすめる。
「まあ、もったいないし、食べるわよ」
スプーンで掬い、口に運ぶ。
その小さな口はぷるるんと震えた気がした。
「おいしい……」
「はい! おいしい、頂きました! サイコー!」
「ふ、ふん。何調子にのっているのよ。童貞のくせに」
嬉しいな。僕の料理で笑顔にできているなんて。
「な、何よ。ねちゃねちゃと笑って」
「ん。なんでもない」
「あんた、変わっているって言われるでしょ?」
呆れた様子で訊ねてくる一ノ瀬さん。
「うん。よく言われる」
僕は躊躇うことなく返す。
変わっている、だからってネガティブな意味合いだけじゃないと思うんだ。
僕は変わり者だし、よく素直でポジティブって言われる。
でもそれって全然ダメだとは思わないんだよね。
だって他の人とは違う魅力なんだから。
「でも、悪いことじゃないよね?」
「え。で、でもみんなと違うのってやっぱり変じゃない? おかしくない?」
「そう? 変だからって何がいけないのさ」
真剣な顔になり、俯く一ノ瀬さん。
「それは……」
「だって変わっているからって人の人格を否定するのは間違っているじゃない? そんなの変えようもないんだから」
「そうだけど……」
僕は食事をすすめながら言う。
「人格を否定する方がおかしいじゃない。それに魅力のない人なんていないよ。気がつかないだけでしょ?」
「そ、そうなのかな……?」
混乱した様子でおとがいに人差し指を当てる一ノ瀬さん。
「でも、分かる気がする」
たっぷりと時間をかけて熟考する一ノ瀬さん。
「だって、わたしの周りにも変な人多いけど、みんなで楽しくやれているし……」
一ノ瀬さんがそこまで言って、ハッとする。
「ううん。でもコミュニケーションを円滑にするには嘘も必要でしょ」
「そうかな。本当に大事なのは相手を理解して思いやる心じゃないかな?」
「それを他人に求めるなんて違うでしょ? ただの甘えよ」
一ノ瀬さんもけっこうお堅いのかもしれない。
「そう。でもいつか分かる時が来るよ」
僕は食べ終えた皿を持って台所に向かう。
「明日から学校だよ。準備しないと」
「……ムカつく」
何が気に障ったのか分からないけど、僕は一ノ瀬さんに嫌われていたみたい。
それがちょっと悲しい。
いちファンだというのに。
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