オーパーツブレイカーのロストテクノロジー

ちびまるフォイ

みんな今が大事

「人間よ、聞こえるか。我々は宇宙人。

 これから貴様ら人間に選択肢を与えよう」


どこからか声が聞こえてくる。


「過去を尊ぶか、未来を求めるかの選択だ。


 今、地球にある過去の遺産を破壊すれば

 我々のもつ遺産を地球に送ろう。

 

 よく考えることだ」


宇宙人の言葉は地球に住まうすべての人の頭に届いた。

すぐに世界の有識者が集まってサミットを開くとニュースでやっていた。


「宇宙人からの遺産……!

 いったい何が手にはいるんだ……!」


一方で未来科学者の私としては、選択は決まっている。

過去の見知った情報なんかより宇宙人の提供してくれる遺産のほうが良い。

そこには新たな発見がきっと満ちているだろう。


数日後、サミットの結果がニュースで発表された。

地球代表がマイクの前に立って述べる。


『ええーー国民のみなさま。

 審議に審議を重ねた結果、我々に未来遺産は不要と判断いたしました』



「はああ!?」


予想外の結論にニュースへツッコミを入れてしまった。

目の前にアタリの宝くじがあるのに捨てるような暴挙そのもの。


『宇宙人からの遺産は確実に未来の技術や価値はありますが、

 地球人がこれまで築いてきた遺産を失ってまで

 わけのわからない未来遺産を手に入れるのはリスクだと判断しました』


「なんておろかなことを!! 人間じゃ手に入らない技術かもしれないんだぞ!?」


いくら文句を言ってもすでに結論は出ていて動くことはなかった。


パソコンを知らない人に、

いかにその便利さを伝えたところでピンとこないようなものなのだろう。


このままでは成長や変化を拒む老害どもにより、人類の未来が失われてしまう。


「私がやるしかない……!

 たとえ、この世界で悪逆非道だと罵られようとも

 人類の未来のためにこの手を汚すしかない……!!!」


次の日の夜、私は美術館に忍び込んだ。

そこに展示されている過去の文化遺産『氷漬け人間』の前に立つ。


明らかに古い時代であるのに保存技術や加工技術は現代をも上回る。

現代科学ではこの氷を溶かすこともできない。


現代科学では解明できない謎を秘めた過去の遺産。


だが……。


「これも未来の発展のためだ!!」


氷を叩き割って中の人間もろともこなごなにくだいた。

すると、すぐに宇宙人の声が全人類へ届く。



「人間よ。過去の文化を捨てる決意を確認した。

 報酬のひとつとして、我々の遺産をプレゼントしよう」



宇宙人の乗るUFOから四角いモノリスがジャングルの奥地へと送られた。


人間はというと、誰が過去の文化遺産をぶっ壊したかよりも

プレゼントがなにかに興味を割かれてしまい誰も気にしなかった。


現地の科学者はその贈り物を見るなり目を輝かせたという。


「な、なんて科学技術だ!! これはすごいぞ!!!」


人間が逆立ちしてもたどり着かないような発想や物質を得た人類。


エネルギー問題だとか環境汚染だとかに頭を悩ませていたはずが、

宇宙人の贈り物ひとつでそれらすべてか解決できてしまった。


町では空飛ぶキックボードがびゅんびゅん行き交い、

発達した科学技術により自分を分身させてプライベートと仕事用で使い分ける。


それらのめざましい発展を見て、やはり自分は間違っていなかったと革新した。


「手を汚しただけあった。人類の進化はまだまだ続くぞ!」


すっかり「未来遺産」の味をしめた人間たちは、

こぞって地球にあるあらゆる過去の遺産を破壊し始めた。


1000年以上も建築し続けていた建物も壊し、

かつて作られた世界最大の墓を粉々にし、

砂漠から出土した失われた文明の記録を燃やし尽くした。


過去の遺産を破壊するごとに、宇宙人からは未来の遺産が送られる。



「過去の遺産が失われたのを確認した。

 我々からの未来の遺産をプレゼントしよう」



送られてくる宇宙人の未来遺産はどれも新鮮で素晴らしかった。


技術が頭打ちになることはなく、

未来遺産を手に入れるたびに私達の生活は劇的な変化をとげた。


技術の発展により火星と月と太陽を自由にコントロールできるようになった頃。

ついに地球から過去の遺産が底をついてしまった。

もう壊せるものがなくなってしまう。


すっかり未来に取り憑かれた科学者たちは嘆き叫んだ。


「なんてことだ! もう私の人生はこれ以上発展できないのか!」


「ああ、宇宙人さま! お慈悲を! 我々に新たな知識を!!」


いくらせがんでもダダをこねても宇宙人はけして譲らなかった。

壊す文化遺産がなければ、我々はもう発展できない。


誰もがこれ以上の発展を諦めたときでも、私はけして諦めなかった。


「ここで人類の発展が終わっていいはずがない!!」


私は現代の科学技術でもってタイムマシンを作り上げた。

今の技術ならカラーボックスを組み立てるよりも簡単なものだった。


行き先はもちろん過去。


過去に行き、さまざまな遺産を残して未来に戻る。

そうすれば未来で破壊できる過去の遺産ができるはずだ。


いわばタイムカプセルを埋めてくるようなもの。


時間遡行は現代の法律で禁止されるが知ったことではない。

私は人類の未来のために手を汚すことに慣れている。


「いくぞ! 過去へタイムワーープ!!」


タイムマシンを起動して過去に移動した。

過去に到着すると、すぐに未来のための遺産を残す活動をはじめた。


さまざまな権力者に会って大きな墓を作らせたり、

過去の物品の多くを保存状態よく残すために倉庫を作ったり。


当時はなんら珍しくないものや記録であっても、

未来に残すことができればそれは「遺産」として価値が出る。


壊すことで未来への突破口が開ける大事なものになる。


「けして失わせないぞ……!!」


私はけして休むことなく過去遺産の種をまくことに努力しつづけた。

かつて私がいた世界の頃よりも多くの遺産が残せたはず。


「よし、だいぶ遺産を残せただろう。

 戦争や自然災害で失うこともあるだろうが、

 これだけ仕込んでおけばきっと未来で遺産の芽が出るはずだ」


過去遺産を作れるというたしかな手応えを感じ、

あとは未来へ戻ってその成果をたしかめるだけ。


しかし、いざタイムマシンに戻ろうとしたときだった。


「……な、ない!? タイムマシンがない!!」


タイムマシンがあったはずの場所には

無惨に分解されたタイムマシンの部品が転がっていた。


犯人はあきらかだった。

この時代の泥棒なんてたかが知れていた。


近くの村に行くと、村の人達がタイムマシンの部品やガラスなどを持ち去っていた。


「あんたら、なんてことするんだ!

 私のタイムマシンを破壊するなんて!!」


すると村人たちは逆ギレするように言い返した。


「お、おら達だってギリギリなんだ!」


「はあ!? なんの話だ!」


「宇宙人さが言っただ!

 この時代にないものを壊せば、

 雨をめぐんでくださると言っただ!!」


「そんなバカな……」


すると、聞きなじみのある声が脳内に聞こえてきた。



「人間よ。未来の遺産を捨てたのを確認した。

 約束通り、天候を変えてやろう」



脳内の声が言い切らないうちに空が曇りだし雨が降った。


「おおお! 恵みだ! 恵みの雨だーー!」


「これでおら達の田んぼも蘇るどーー!」


「今年の年貢も収められるだーー!!」


大喜びする村人だったが、私は絶望したままだった。


「あんたら、こんな雨のために私の大事なタイムマシンを壊したのか!?」


「たいむましん?」


「あんたが今もってるそれだよ!!

 たかだか雨1回のためになんてことを!」


「雨が降らなきゃ村のものはみーんな死んでただ。

 おめえのたいむましんは人の命より大事なのか」


「こんな田舎農民が何人死んでもおっつかないほど価値あるものなんだよ!!!」


「おめえの言うことはわからねぇ」


「盗人たけだけしい奴らめ……!!」


こいつらはきっと村の命を救ったと思っているだろう。

そのためなら、私のタイムマシンを壊しても良いと考えているに違いない。


「ものの価値もわからないバカどもが……っ!!」


せっかく過去に来て遺産を作りにきたのに。

これでは私は未来に帰れない。


手元にある材料やこの時代の資源ではタイムマシンを作り直すことも不可能。


「いったいどうすれば未来に戻れるんだ……」


そのとき、ふと頭にアイデアが浮かんだ。

未来に戻るのではなく、この時代を未来にまで進めれば良いのではないか。


「そうだ。コールドスリープ……。これならこの時代でもできるぞ」


自分をコールドスリープさせて、未来に解除してもらう。

そうすればタイムマシンを使わずに未来に行くことができるだろう。


時間軸を操作するタイムマシンよりも、

ただ体を凍結させるコールドスリープのほうが簡単にできる。


「戻ってやる! 私はかならず未来に戻ってやるぞーー!!」


資源を集めに集めて、コールドスリープ装置を作り上げた。


この時代ではオーバーテクノロジーではあるが、

私の戻る未来では簡単に戻すことができるだろう。


未来で解凍された私は目覚めたとき、きっと賛美されるだろう。


人類をより発展させるための過去遺産を多く残した人格者だと。

タイムマシンが壊されても未来に帰還した英雄だと。


「ふふふ。では未来まで眠るとしよう」


私はコールドスリープ装置を見つからない場所に安置してからスイッチを入れた。

この時代に別れをつげ、先に待つ未来に目覚めることを夢見て眠った。





やがて、未来でコールドスリープ装置が出土した。


「おおい! なんかあるぞ!!」


「なんだこりゃあ……人間か?」


周囲の地層から見ても大昔のはずなのに、

現代科学以上の性能をもつコールドスリープされた人間が見つかった。


眠ったままの人間を現代技術で解凍できるわけもなく、

この時代のひとたちはただ「氷漬け人間」として安置された。



それから数十年後のこと。


安置された氷漬け人間のもとに、またひとりの人間がやってきた



「これも未来の発展のためだ!!」



その人は氷漬け人間を粉々にくだいたという。

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