21 囮と罠
リオンの狙い通り、次に舞い降りてきた大鷲はセティではなく
「じゃあ、罠は任せたぜ」
リオンは軽く片手をあげてウィンクした。そのまま
セティは目を閉じて深呼吸をする。
その隣でソフィーが端的に罠の構造を確認してゆく。
「蜘蛛の巣を張るのが目的。そのために、まずはその支えになるような柱を作る。柱と柱の間隔は、あの鷲が通れるくらい。
それから、蜘蛛の巣はしっかりと
「わかってる。できる」
セティは目を開くと、体の両脇に向かって両手を持ち上げた。
「
氷色の兎が二羽、ぴょんと飛び跳ねた。二羽の兎はセティから少し離れた位置で、氷を生み出し始める。
その氷はみるみる育ち、セティの背丈もソフィーの背丈もリオンの背丈も超えた。何もない草原に立つ、二本の木のように、氷の柱は育った。
高い位置で、お互いに向かって枝を伸ばすように、氷は横にも伸びていった。
兎たちがその根本で跳ね回り、太陽の光を跳ね返してきらきらと輝く。
「
葉っぱも花もない氷の木に、無数の蜘蛛が群がる。きらきらと輝く氷に、蜘蛛が糸をかけ、巣を作ってゆく。
蜘蛛の糸を助けるように氷が小さな枝を伸ばし、その枝からまた糸が伸びる。
ふう、とセティはゆっくり息を吐く。
(大丈夫、できてる。ゆっくりやれば、二つ同時でも問題ない)
本人の自覚とは別に、セティの集中力は体に影響を及ぼしていた。セティの体が、ぼんやりと光る。その輪郭が、ゆらりと曖昧になる。
ソフィーはその姿に、不安を覚える。セティは無理をしている。声をかけた方が良いのかもしれない。でも、セティの集中を乱したくはない。
結局のところソフィーは声も出せず、ただじりじりとセティの姿を見守っていた。
◆
氷でできた大きな木が生えているかのようだった。蜘蛛の細い糸まではリオンからは見えないが、きっと進んでいるのだろう。
(もうしばらく持ちこたえて、罠が完成したら向こうに連れていく。それまでは、捕まらないように、逃げすぎないように。付かず離れず……)
大鷲が気まぐれを起こしてセティを狙いにいくようなことがあれば、この計画は失敗する。そのためには、
(最悪、俺が狙われる方がマシだな)
ただ、リオンは今、大鷲の鉤爪から身を守る方法がない。いや、
それを咄嗟に開くことも考えながら、吹き乱れる風になぶられる。
(それとも降りてきたところでうまいこと
リオンはまた、セティの方をちらりと見た。罠はまだしばらく時間がかかりそうに見えた。
(だったら、ちょっと試してみるか)
鋭く口笛を吹いて、
これから動くぞ、と、気合いを入れるための。
そして、突風が吹き抜ける。
強い風に抗いながら、リオンは前に踏み出す。
リオンの手が大鷲の羽を掴む。大鷲がめちゃくちゃに羽ばたき、風が強く吹き荒れる。
「我が呼び声に……っ!」
大鷲の姿が光って、リオンの声は弾かれた。リオンはそのまま、強く吹き荒れる風と翼にもみくちゃにされる。
大鷲はリオンを無視するように飛び上がる。リオンはそれでも大鷲の体に手を伸ばすが、暴れる大鷲に耐えきれず振り落とされる。地面に落ちる。
一瞬、落ちた衝撃でリオンは呼吸を止めたが、受け身は取れた。ひどい怪我はない。
「駄目か」
リオンは荒い呼吸で地面に寝転んだまま、飛び立ってゆく大鷲の影を見上げて溜息をつく。
(もっとしっかり動きを封じないと駄目だ)
リオンはすぐに起き上がって、体勢を整える。
(罠の方は……まだか)
セティとソフィーの方をちらりと見て、状況を確認する。小さな蜘蛛や蜘蛛の糸は見えないが、セティの張り詰めた立ち姿、遠目に見える真剣な表情からまだ途中らしいということはわかった。
(仕方ない、もう少し粘るか)
上空の影を警戒しながら、
今のところ
そして、また突風が吹きつける。大鷲が舞い降りる。
焦りが隙になったのかもしれない。
「
リオンは咄嗟に命令しながら手を伸ばす。
鉤爪から、
大鷲は勢いよく羽ばたいて、リオンの手から
リオンは背中を丸めて
「リオン!」
ソフィーの声に視線をやれば、セティが地面に座り込んでいた。どうやら罠ができたらしい。
リオンは手にしていた
「
投げられて飛んでゆく
そしてリオンもそれを追いかけて、走り出した。背中の痛みを意思の力で押さえ込んで。
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