第19話 脳筋ちょっとなめてた
私は風魔法で声を周囲に届けて貰いながら説明しはじめた。
「まず私は、杖で飛行することでワイバーンを捕捉した。飛行魔法は宮廷魔法使いなら使える。具体的には、こう」
私が手を離すと、杖は虚空で水平に止まる。
杖に飛び乗った私は滑るように上昇してワイバーンを追いかけた。
途中で特大の水球を作り出す。
「まず遠距離から水球で奇襲を掛けた。火を使わなかったのは明るさでバレるから。どちらにもあたらなかったけれども、一体、つまり今回倒した方は、私に的を変えた」
私の巨大な水の塊を避けたワイバーンは、火の代わりに砂煙を吐き出す。
それを身を翻して避ける動作のついでに、乗っていた杖を手にすると、風の力を借りて一気に加速する。
制御が難しくなるけど、自力で飛ぶのが一番早い。
なにより杖で別の強力な魔法を使えるようになる。
「それですれ違いざま、【
振り抜いた杖から複数乱れて飛ぶ風の刃を避けようとしたけれど右の皮膜に穴が空いた。
体勢を崩したワイバーンはそのまま落下する。
「攻撃のコツは水や砂などの不純物を混ぜて飛ばすこと。質量があればそれだけ刃が鋭くなる」
地面に落下しても、ワイバーンはまだ元気だった。
空というアドバンテージがなかろうが、その強力な顎と尻尾と風の魔法は油断ならない。
私の急降下を悠々と避けたワイバーンは、長い尾でなぎ払ってくる。
転がることで避けた私は杖に魔力を注ぎ、鎌状の刃を生み出し大きく振り抜く。
ワイバーンの首を刈り取った。
刈ったとたん、ワイバーンは土に戻りぱっと精霊達が楽しげに散っていった。
うむ、存分に楽しんでくれたようだ。
息を吐いた私は、ちょうど訓練場に戻ってきていた私は、端の方に避難している兵士の前に戻った。
「まあこんな感じ。今回は初級魔法しばりがあったから、実は水球を投げてからの空の追跡は数時間くらいあったり、地上での格闘もあったりしたけど割愛したよ。以上です」
兵士達からは一切声が上がらない。しんと静まりかえっている。
うん、まあわかってた。私が演習するとだいたいこんな感じの空気になるんだもの。
自分の目が信じられず、異様なものを見るような。
聖女は別格だと遠巻きにされるなら、まだマシだ。
インチキしてるんだろうとか、自分の技術を見せびらかすためにわざとまねできない方法を披露したんだろうとか言いがかりを付けられることもある。
私は私ができることをしているだけなのにな。
まあこれで舐められることはないだろうし、いっかあと思っていると、ディルクさんが話しかけてきた。
「ルベル殿、貴重な物を見せてくれて感謝する。兵士達の発言を許していただく前に、俺から兵士達が最も気になっているだろう確認をさせてほしい」
「なんですか?」
私は肯定してから、ディルクさんの表情が平静なことに気づいた。
「君が魔法を使うとき、精霊達は進んで助力してくださっていたな?」
「え、そりゃ、そうじゃなきゃ協力してくれませんから……?」
質問の意図がよくわからず、私は生返事をした。
あたり前のことだ。
精霊は無邪気で、純粋で……享楽的で善悪がない。そもそも神出鬼没で、呼び寄せることはできるけど、呼びかけに応じるかは精霊次第。捕まえることすらできない存在だ。
基本はなんでも面白がって魔法を手伝ってくれるけれど、魔力やお願いの仕方が気に入らなければとたんに威力は弱まる。
首をかしげていると、残っていた精霊達がチカチカと光を放った。
ディルクさんの視線で、精霊達が再び姿を現したことを知る。
精霊達は私に纏わりつきながら、チカチカとアピールしている。
『ナカヨシ!』
『タノシイ イッショ!!』
「ちょっとピカピカまぶしいよ。髪で遊ばないで! こら勝手に魔力を吸わない!」
どさくさに紛れてか精霊達が私の赤髪を持ち上げたり、魔力を吸ったりしてるのを、ぱっぱっと散らす。
精霊はそれすら面白そうにやらきゃらと散っていった。
「本当に君は精霊と仲が良いのだな」
いつものやりとりをしてしまったけれど、感心した声でディルクさんが側にいたことを思い出した。
ディルクさんは眩しげに、でも温かな表情で私を見ている。
ちょっと恥ずかしくなった私がふいっと顔を背けると、兵士達の表情が目に入った。
彼らは感嘆と衝撃を受けた表情だ。
「魔法は、精霊様を冒涜するものでは、ない……?」
「魔法を使うのはあくまで術者本人だよ。精霊はたまたま手を貸してくれるだけ」
強いていえば魔力を含んだ精晶石に集まりやすい程度だけれど……それも精霊達の気分次第だ。
「それに今回の魔法はワイバーンのゴーレム以外は精霊の助力無しに使えるものだし。身体強化や物質強化の魔法だって使い方的には同じだから」
「強化と一緒ってことなら俺達も空を飛べるのか!」
「く、空中に浮くだけなら?」
とたんリッダーが前のめりになるのにびっくりした。
改めて見ると、他の兵士達も、飛ぶという部分に食いついたようで私をギラギラした目で見ている。子供か!?
なぜかディルクさんまで興味を惹かれるものがあったのか考えている。
「確かに跳躍だけではなく、浮遊ができるのであれば、戦術の幅が広がるな」
「確かに広がるでしょうけど、ならどんな風にワイバーンを倒そうとされてたんです?」
「強化した弓矢で皮膜を狙うこともあるが、たいていはまどろっこしくなって跳躍力を強化してワイバーンの羽を狙う」
「どんな力業なの!?」
思わず言葉が崩れてしまったとなったけど、ディルクさんは気づかなかったようだ。
代わりに、ディルクさんは私に楽しげにこうお願いしてきた。
「良ければこのまま、兵士達に浮遊を教えてもらえないか。彼らも我慢できないようだ」
「ぜひ教えを請いたく思います、奥様!」
「「奥様!!!」」
口々にお願いされて私は、もぞもぞ落ち着かない気分になってしまう。
こんな風に受け入れられるとは思わなくて、なんだか無性に狼狽えてしまう。
だけど、口々にお願いしてくる兵士の声に音を上げて、私は叫んだ。
「わかったよ! でもはじめからできると思わないで! 教えるのは自分で受け身を取れる人だけだから! 私も全員守れないんだからね!」
「安全策まで講じていただけるのか。ありがたい。ルベル殿は責任感のお強いお方だな」
いやだって飛ぶと落ちるのは当たり前だし、頭打ったりされたら困るじゃん!?
感心されて言葉を失ってしまった私を横に、ディルクさんは兵士達に忠告する。
「そういうわけだ。ルベル殿に魔法で守っていただくが、自己責任だ。教えを請う以上礼節と敬意を持つように!」
「「「はっ!!!」」」
一斉に敬礼された私は、なんだか毒気を抜かれた気分で、私は夕方になるまで、初歩の浮遊魔法を教えることになったのだ。
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