第220話 プリクラ鑑賞会
「あっはははっ! これやばぁっ! 見て見て、しおりん! この遥の目、めっちゃキラキラしてる!」
楓さんの笑い声が響き渡った。その手には、俺と遥の二人で撮ったプリクラが握られている。
遥と楓さんが撮り終わった後は組み合わせを変えて、栞と楓さん、俺と遥、そして四人で撮ることになった。さすがに男女のペアを入れ替えては全員がもやっとしそうなのでなしに。
それだけの回数をこなすとかなり時間を消費してしまって、空腹の遥の要望で施設内にあるファストフード店へと場所を移している。今はそこで食事をとりながら、撮ってきたものを皆で回し見しているところだ。
「本当だね。それに、涼もなんだかすっごく可愛くなっちゃってない?」
「それは……、遥が悪ノリするから」
「んなもん男だけでまともにやってもむさくるしいだけなんだから、こんくらいがちょうどいいんだよ」
遥とは肩を組んでみたり、背中を合わせてみたり、なんとなく格好つけてるっぽいポーズで撮ったのだが、その後遥の手によって俺達の顔は言われないと誰かわからないレベルにまで加工されている。
目なんか少女漫画もかくやというくらい大きくされて、瞳には星が浮かんでいたり。
「それよりもやっぱりこっちじゃない? 柊木君もなんだかんだ言って──ふふっ。よかったねぇ、彩香」
「えへへー、でっしょー?」
栞が手にしているのは別の一枚。どうやら遥と楓さんで撮ったもののようだ。
「っ?! ちょっと待てぇっ! 彩、お前が誰にも見せないって言うからっ!」
「どれどれ。栞、俺にも見せてよ」
「うんっ。ほら、すっごく仲良しに撮れてるよ」
「なっ! 涼っ、見るんじゃねぇ!!」
「ダメダメ。遥も俺達の見たんだからそんなの不公平だよ」
見られまいと慌てて伸ばされた遥の手をかわしながら、栞から受け取った一枚に目を通す。
「おぉ……、これはなかなか……」
中でどんなやり取りがされていたのかはわからないけれど、これはこれでかなりのイチャつき具合。俺達に負けず劣らずといったところだ。
遥の頬に楓さんがキスをしているのは俺達の真似をしたのだろう。次に遥が楓さんの両頬を手で引き伸ばしているのがあり、さらに次、遥が楓さんのおでこにキスをしていた。
「だぁーっ! もういいだろっ、返せよっ!」
そこまで見たところで、遥に奪われてしまった。
「そんなに照れなくてもいいのに。俺達だって似たようなことしてるんだからさ」
「お前らと一緒にすんなっての! それは彩に言われて無理矢理にだなっ……!」
「まったく、本当に素直じゃないなぁ、遥は。楓さんも大変だね」
「んー? そうでもないよ?」
楓さんはフライドポテトを口に放り込みながら呑気に答える。
「そうなの?」
栞は真っ直ぐに想いをぶつけた方が嬉しそうにしてくれるから、きっと楓さんもそうなんじゃないかと思っていたのだが。たまに遥に怒ってたりするしさ。
「あのね、涼。彩香は別に今の柊木君に不満はないみたいだよ。ね、彩香?」
「えへへ、まぁねっ。遥が高原君みたいになっちゃったら、それはもう遥じゃないし。遥はたまーにデレてくれて、それで恥ずかしそうにしてるのが可愛いの! 私はそんな遥が好きだからね!」
「……そっか。そういやそんなこと言ってたね」
どうやら余計なお世話を言ってしまったらしい。確かに、こんなんでも二人の関係がうまくいっているのは俺もわかっていたはずなのに。
ただ、楓さんからこんなストレートなことを言われた遥がどうなるのかというのもわかっているわけで。
「彩、やめろ……。もうそれくらいで勘弁してくれ……」
ほら、真っ赤になってる。楓さんと二人きりの時はどうなのか知らないけど、他に誰かいるとこうなるんだよね。
良い機会なので、少しだけからかってみることに。
「うん。これは可愛いかも。ねぇ、栞?」
「そうだねぇ。彩香が言うのもわかるね」
栞も俺の意図を察してくれて、二人で遥の顔をじっと見つめる。遥がどこまで耐えられるかと思ってやっていたのだが、噛み付いてきたのは楓さんだった。
「ダメだよ、二人とも! 遥はあげないんだからね?」
「別に彩香から奪ったりしないよ。私には涼がいるし、涼の方が可愛いもん」
「俺もいらないかなぁ。なんで栞が可愛さで張り合ってるのかはよくわからないけど」
「お前らなぁ……」
悔しそうな顔をする遥を見ると、もう少し追加でいじってやりたくなってくる。いつもの仕返しってわけじゃないけどさ。
「まぁでも、遥は俺の親友だからね、そういう意味ではいなくなられたら困るなぁ」
もちろんこれを口にするのは俺も若干照れくさい。でもすでに一度言ったことがあるし、悶えるほどじゃない。栞に対してはもっとくさいセリフを言っていたりするから耐性ができているんだ。
そこに楓さんと栞も乗っかってくれる。
「だーって、遥? 遥はどうなのかなぁ? 私、遥が高原君にちゃんと言ってるの、聞いたことないなぁ」
「確かにそうだよね。涼は柊木君のことすっごく大事にしてるもんねぇ。ちょっと嫉妬しちゃうかも」
「ぐぅっ……、揃いも揃って……。そりゃ、俺だって、涼のことは親友だと……」
悔しさをにじませながらも、顔を赤くして蚊のなくような声で絞り出した遥に、
「ぷっ……、くくっ……。あははっ!」
思わず吹き出して笑ってしまった。
「おい涼っ! なんで笑うんだよっ!」
「いやぁ、遥が可愛いなぁと思って」
「くっそ……。涼、お前たまに性格悪いよな……?」
「ごめんごめん」
「……もう絶対言わねぇからな」
「いいよ、遥の本心はもうわかったし。ってことで、これからもよろしく、親友」
握手を求めて手を差し出すと、遥はその手を握らずにパシンと叩いた。
「ったく……。恥ずいことさせんじゃねぇよ。んなもん一々言わんでもいいんだよ」
それを見ていた栞がハッとした顔をして、声を上げた。
「あっ……!」
「どしたの、しおりん? 私達もする?」
「それはまぁしてもいいんだけど──」
「やった! しおりんとあっくしゅーっ!」
楓さんが栞の手を取りぶんぶんと振り回す。楓さんの握手はなかなか激しい。
「ちょっと彩香っ! そうじゃなくって!」
「んー? そうじゃないって?」
「えっとね、この子の名前をずっと考えてたんだけど」
そう言うと、栞は柴犬のぬいぐるみを抱き上げた。
「ねぇ、彩香。この子の名前、柊木君っぽい感じの名前にしてもいいかな?」
「それは私に聞かなくてもしおりんの好きにしたらいいと思うけど、なんで?」
「この子ね、さっきも言ったけどリョー君のお友達にするつもりなの。だから、それならって思って」
「あぁっ、なるほどね! じゃあ、はーくんなんてのはどうかな? ちっさい頃の呼び方だったんだけどさ!」
「おい、彩っ! その呼び方は封印って……!」
「別に遥のことを呼ぶわけじゃないんだからいいじゃーん! ちなみにね、遥は私のことあーちゃんって呼んでたんだよ!」
「また余計な事をっ!」
「それじゃ、この子ははーくんにしちゃおーっと! はーくんだけじゃ可哀想だから、そのうちあーちゃんも用意してあげないとね」
「……あぁもうっ、好きにしてくれ」
遥が毎度抗議の叫び声を上げているが、柴犬のぬいぐるみは『はーくん』ということで決定したらしい。
というか、そのまだ存在すらしてないあーちゃんとやら、シオのお友達とか言って俺の部屋に置くことになるのかな?
俺の部屋がぬいぐるみで埋め尽くされる日が来なけりゃいいけどね……。
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