第144話 最初から飛ばしすぎなイチャイチャ強化期間
俺達が帰宅すると、入れ違いで母さんが買い物へと出かけていったので、電車の中で栞と話していたことを実行にうつした。母さんがいたとしてもコソコソとするんだけど、やっぱりいない方が色々と抑えなくていいので気が楽だ。
俺の部屋に引っ込んで二人で幸せに──今更こんな言い方もまどろっこしいか──えっちをして。
栞にねだられるままに二回もしてしまったので俺はちょっとぐったり気味。栞の方は満足してくれたみたいでなんかツヤツヤになってぽわぽわしてる。
今はちょうど諸々の後片付けを終えて、コーヒーとともに栞作のクッキーをつまんでいるところだ。体力を使った身体にクッキーの甘味が染み渡っていく。
食べさせ合うのはいつも通りなんだけどなんだけど、栞にクッキーを差し出すと、
「ほら栞、あ〜ん」
「あ〜むっ」
栞はクッキーをつまむ俺の指ごと口に入れてしまった。
「また指までっ」
「んふ。ん〜〜、ちゅっ」
ちゅ〜っと吸い付いて、指先をぺろりと舐めてから口を離す。毎回こんな感じだ。可愛いから好きにさせているけど、本当は何がしたいんだろ?
甘えてるだけかな? えっちの後の栞は甘えん坊度合いが格段に上がるし。
何度か同じことを繰り返していると、栞は指を離してくれなくなってしまった。右腕は栞の胸に抱きしめられ、左手の指は栞の口に囚われ、脚まで絡め取られて完全に拘束されることになった。
「ちゅぅっ、ん〜、りょう〜……」
指をちゅうちゅうしながら俺の名前を呼び、潤んだ瞳で見つめてくる。
まったく、困った甘えん坊さんだよ栞は。どうしてこんなに可愛いのかね。
そんなことをしていると玄関の開く音がした。
さすがの栞もここで指だけは解放してくれた。他はぴったりくっついたままだけど。
「ふうっ……。大丈夫だろうと思って傘持ってかなかったら、最後に降られちゃったわ……」
リビングに入ってきたのは、雨でわずかに服を濡らした母さんだった。
「おかえりー」
「おかえりなさい、水希さん。もう降らないかと思ったんですけど、災難でしたね……」
俺達はなに食わぬ顔をして母さんを出迎える。
なに食わぬ顔と言っても、内心はドキドキだ。なにせ、ついさっきまで二人して燃え上がっていたのだから。栞の頬はまだ熱が冷めきっておらずほんのりピンク色で──
「はいはい、ただいまー。って栞ちゃん、どうしたの? 顔が赤いけど熱でもある?」
買い物袋をテーブルに置いた母さんが栞の顔を覗き込んで心配そうに声をかけた。
「大丈夫ですよ。涼とくっついててちょっと暑いだけですから」
栞が平然とした顔で返事をする。肝が据わっていると言うか、こういうところ本当に凄いって思う。
もし俺が口を開いてたら即バレの危機だった。
いや、もうしてることはバレてるんだけどさ、直前までしてたのがバレる恥ずかしさよ。
「暑いなら離れたらいいのに……。なーんて、今更あなた達にそんなこと言ってもねぇ。むしろそうしてないと私が不安になっちゃうくらいだものね」
「えへへ」
照れるところじゃないんだよなぁ。母さん、また俺達をからかって遊んでるだけなのに。まぁ、上手く誤魔化せて、栞がニコニコしてるなら俺も言うことはないけど。
「さて、それじゃイチャイチャしてるところ悪いんだけど、栞ちゃん、今回のお泊まりの条件お願いしちゃってもいいかしら?」
「ん? 条件って?」
「えっとね、ただ泊めてもらうんじゃ申し訳ないでしょ? だから、朝ごはんと晩ごはん、あとは自分達のお弁当を私が作るからって言ってお願いしたの。お世話になるんだからこれくらいはしないとね、ってこれ言わなかったっけ?」
「聞いてないけど……?」
「あれ〜?」
基本的にはしっかり者な栞だけど、たまーにこうやって抜けているところがある。そこがいいギャップになっていて、たまらなく可愛い。
というのは置いておいて、どうやら俺の知らないところでそんな話になっていたらしい。学校は普通にあるし、栞の負担にならなきゃいいんだけど。
「まぁまぁ、細かい事はいいじゃない。私は楽ができるし、涼は栞ちゃんのお料理が食べられるし、いい事尽くめでしょ?」
「それはそうだけど……。ん〜、じゃあ栞。俺も一緒にやるよ」
「うん、ありがと。涼ならそう言ってくれると思ってたよ」
栞の負担になりそうなら二人でやればいいだけのことだ。夏休みにそんな話をしたこともあったわけで。料理をするにはまだまだ戦力不足な俺だが、少しくらいは役に立てるだろう。いつかお手伝いレベルを卒業するのが目標だ。
「涼がそんな事言うなんて珍しいこともあるものね。いつもはお手伝いなんて全くしてくれないのに」
そんな目標を立ててはみたが、普段は母さんが作るし、母さん相手に練習させてくれなんて言い出せないのが現状だったりする。
「うるさいな、いいだろ別に……。ほら、栞。始めよ?」
「はーいっ。じゃあ水希さん、ちゃちゃっと作っちゃいますね!」
母さんの小言から逃れるように、栞を引き連れてキッチンへと退散してみたが、リビングからは丸見えだし声も届く。
「ほーんと、栞ちゃんには感謝ね。涼をこんなふうに変えてくれたんだから」
そんな呟きが聞こえてきて、夕飯の準備が終わるまでずっと視線を感じていた。
*
「涼、栞ちゃん、お風呂わかしたから、順番に入っちゃいなさいねー」
夕飯の後、栞と一緒にのんびりテレビを観ているところへ母さんがやってきて言う。
「じゃあ、栞が先に行ってきなよ。出てから色々とすることあるんでしょ?」
栞の髪は長いから乾かすのに時間がかかるだろう。それに美容にすごく気を使っているという栞は、スキンケアとかやることが多いらしい。
「ううん。私はほら、お邪魔してる身だから後でいいよ。涼が先に行ってきて?」
「いや、一応お客さんだし栞が先に」
「だーめっ、涼が先だよ。私が最初なんて申し訳ないもん」
お互いに先を譲り合い平行線、膠着状態に入ってしまった。
「もう面倒くさいから一緒に行ってきなさいよ」
そんな俺達の様子を見て、母さんは呆れた声を漏らした。
「は?!」「ふぇっ?!」
「どうせあんた達、とっくにお互い全部見てるんだから今更でしょ? その方が時短にもなるし、名案じゃない?」
「か、母さん、なに言って?!」
確かに全部見てるけどね?!
一緒に入ったこともあるし、なんならそれ以上のこともしてるけどね?!
でも、母さんのいる時にそんな堂々と──
「……いいよ、涼。一緒に、入ろっか……?」
困惑していると、栞にきゅっと腕を掴まれた。
「ちょっと栞まで?!」
「水希さんもこう言ってるし……。それにね──」
栞が俺の耳元で囁く。
「──イチャイチャ強化期間、だもん……。ダメ?」
「うっ……」
栞にこんなふうに言われると弱い。ダメなんて言えない。帰りに覚悟しろと言われたし、そのために根回しまでして、こうして一緒に過ごす時間を作ってくれて。
「ほ〜ら、涼。栞ちゃんはこう言ってるけど?」
相変わらず母さんのニヤケ顔には腹が立つけれど、
「あーもうっ、わかった。行くよ、栞」
「へへ、やったぁ」
また後で母さんに散々いじられそうな気はするけれど、ふにゃっと笑う栞を見ると、やっぱりまぁいいかと思ってしまう。
「わかってると思うけど、後で私とお父さんも入るんだから、羽目を外し過ぎちゃダメよー」
そんな母さんの言葉を背中に受けながら、栞の手を引いて風呂へと向かうのだった。
そんなこと言われなくてもわかってるっての。
今日はもう二回もしてるし、そんなにできません。
なーんて思ってたんだけどねぇ……。
「涼、身体洗ってあげるねー」
そんな言葉とともに背中からぎゅっとされて、柔らかふわふわを直に押し付けられて、全身くまなく洗われたら反応しちゃうのもやむなしだと思う。
栞ったらすっかり開き直って隠そうともしないどころか、見せつけてくるんだもん。
……あれ、なんか栞の言葉遣いがうつったかも。
仕返しに恥ずかしがらせようと思って、
「……俺も洗ってあげる」
と言えば、
「んふふ〜、いっぱい触って?」
と嬉しそうな声が返ってくる。
洗い終わって栞を抱きしめながら湯船に浸かっていると、これでもかというほどのキスの催促。
「んっ、ちゅっ、涼っ。キス、やめないでぇ」
「んっ、んっ、しおっ、栞っ……。ちゅっ」
風呂場にキスの音が響いて、なんだかいけないことをしてる気分になる。栞の瞳も段々とろんとしてきて、
「ねぇ、涼……。寝る前に、もう一回だけ、幸せにして……?」
「頑張る……」
この殺し文句が強力すぎる。
俺が与えてしまったようなものだけど。
イチャイチャ強化期間、どうやら俺には全然覚悟が足りていなかったらしい。いや、違う。足りてないのは別のものだ。
とりあえず、もう少し体力つけよ……。
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