第122話 熱い夜
今回、少々性描写多めかもしれません。
苦手な方はご注意くださいませ。
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母さんは「私達、明日になるまで帰らないから」と言い残して出ていった。父さんと聡さんは一時的に揺り起こされて、母さん達に肩を貸されて連れて行かれた。かなり酔っ払っていたのでどこへ行くのかもよくわかっていないんじゃないかって思う。
二人きりになると家の中が途端に静かになる。
「ねぇ、涼……」
「ん? どうしたの?」
栞はまだ赤い顔をしたままだった。表情もどこか硬い。
「えっとね……、その、引いたり、する?」
「え、なんで?」
「だって……」
まぁ、栞の言わんとしていることはなんとなくわかる気がする。
やり方についてはもう少し、と思わなくはないけど、栞の気持ち自体は嬉しい。
「引かないよ。ちょっとびっくりはしたけどさ」
あと、母さん達にバレバレなのが恥ずかしいところだけど。
でもそれ以上に、これほどまでに俺を求めてくれてるってことだから。
「そっか。そっかぁ……、良かったぁ……」
栞はホッと息を吐き、ふにゃりと微笑んで、俺の服の裾をちょこんと摘んだ。
「どうする? もう、俺の部屋、行く?」
こうして落ち着いた風を装って確認している俺だけど、その実は抑えが効かなくなりつつある。潤んだ栞の瞳が俺を狂わせるんだ。
でも──
「まずは、お風呂、いこ? たぶんまたそのまま寝ちゃうだろうから」
「じゃあ、また一緒に?」
「ううん。涼が先に行ってきて。一緒に入ったら私、そこで我慢できなくなっちゃいそうだし……。私ね、涼の部屋で、がいいから……」
「わ、わかった。それならちょっと行ってくるよ」
栞がそうしたいと言うのなら、俺はそれに従うまでだ。というより強引に、というのは俺の性分ではない。
とは言え、気は逸る。お湯もはらずに風呂場へ行き、手早くシャワーで済ます。それでも身体は丁寧に磨き上げた。
しっかり髪まで乾かしたら栞と交代。
「涼はお部屋で待っててね。なるべく早く行くから、寝ちゃったらイヤだよ?」
「わかってる、ちゃんと待ってるから」
一人で自室に戻ってベッドに腰掛けて、そのままゴロリと横になる。いつもならすでに少しずつ眠くなってくる時間だけど、今日は全く眠くない。期待とドキドキ感で目が冴えている。
栞がつけてくれたネックレスの指輪を眺めたり、全然進んでいかない時計の針を見たりして時間を潰した。
早く行くという言葉通りに、30分くらいで階段を上る音が聞こえてくる。俺も栞を迎えるために身体を起こす。
そのまま待っていると、ドアが開いて栞が顔だけを覗かせた。その顔は湯上がりのせいか、それともこの後のことを考えてか、ほんのり朱色に染まっている。
「お待たせ……。ちゃんと起きててくれたんだね」
「そりゃ、ね」
ここで寝てしまうなんてもったいないことをするはずもない。こうして栞と過ごすのは夏休みのお泊り以来だから一ヶ月以上ぶりになるし、せっかく栞と一夜を共にできる機会を作ってもらったんだから。
ゆっくりと栞が部屋に入ってくると、その姿にまた心臓が跳ねる。
「栞、その格好……」
「えへへ。涼へのプレゼントだからね、ちゃんとラッピング、しなおして、きちゃった」
恥ずかしそうに答える栞の服装はさっきまでとは違っていた。今日のために用意してくれたのだろう、栞は黒いベビードールを身に纏っていたのだ。と言っても、透けていたりはしないし、あまり過激なものではない。
でも、肩は全て出ているし、丈も短くて太ももはほとんど露出している。白い栞の素肌と黒のコントラスト、普段清楚な雰囲気の栞がこんな格好をしているというギャップにクラクラする。
目のやり場に困るのに、視線を外すことができない。
「変、じゃないかな……?」
「変じゃないよ。可愛い……」
「よかった」
栞がわざわざ用意してくれたのに、俺が変だなんて言うわけがないのに。
栞がとことこと寄ってきて俺の横に腰掛けると、もう色々と抑えることができずに、ぎゅっと抱きしめた。最後の最後まで、俺の誕生日のために考えてくれた栞が愛おしくて仕方がない。
栞がほしい。栞の全部が。
たぶんこれは性欲とはまた違う欲、なんだと思う。こうして抱きしめて、触れ合っているだけで少しずつ満たされる。
ただの性欲ならば事が終われば一時は満足するだろう。なのに俺のこの欲はそうじゃない。終わりがないんだ。ずっと栞を大好きでいたくて、栞にも俺を大好きでいてほしくて、ずっと隣にいてほしい。独占欲に近いのかもしれないけど、それもまた少し違う気がする。
まぁ、俺の語彙力じゃそれに名前なんて付けることはできないし、今はそんなことはどうでもいい。
それよりも少し気になることがある、
「栞、最近こういうことに積極的だよね? もしかして、その……、ハマっちゃった?」
俺がそう言うと、栞は更に顔を赤らめた。
「もうっ……、そういうことは聞いちゃダメなんだよ?!」
「いや、だってさ……」
このためにここまでするのだから、そう思っても仕方がないだろう。
「しょうがないじゃん……。涼のこと大好きなんだもん。前にも言ったけどね、涼にもっと触れてほしいの。それにね、この時が一番涼のこと、わかって幸せなんだもん」
「……というと?」
「えっとね……、涼の優しいところとか、私のこと好きだって思ってくれてることとか、そういうの全部。言葉だけじゃなくてね、全身で感じられる気がするの。涼はそういうの、ない?」
「あー……。わかるかも」
俺もなんとなくそれは感じていた。一度距離をおいた後は特に。遮るものなく触れた肌から、栞の愛情が伝わってくるような、そんなものを。
「でしょ? だからね、私も我慢しないし、涼も我慢しなくていいからね」
「うん、わかった」
ちゃんと俺の想いが伝わっていたのが嬉しくて、もう一度強く栞を抱きしめた。栞も幸せそうにほぅと吐息を漏らす。
と、そこで栞の耳が視界に入り、朝のことを思い出した。仕返し、しようとしてたっけ。なら、今がチャンスなのかもしれない。栞の耳元に口を寄せて、くすぐるように囁く。
「栞……」
「んっ……? りょ、涼……?」
栞の身体がピクリと跳ねるが構わずに続ける。
「栞、好きだよ。愛してる……」
たっぷりと愛情を込めて。
「あっ……、涼……、それっ……」
「ん? どうしたの? 栞からは言ってくれないの?」
「あ、愛してる……。でもっ、それ……」
意地悪なことをしてるのはわかっているけど、止められない。栞が可愛すぎるから。
俺はそのまま、朝にされたように栞の耳に噛みついた。歯を立てないように気を付けて、唇ではむはむと弄ぶ。
「ひゃっん! りょ、涼……! あっ。だ、だめぇっ……」
「栞だって俺にしたじゃん」
「それはっ……、そうだけどっ……」
今度は耳の縁を舌でなぞってみる。ピンク色で可愛らしい形の耳、舐めると甘い味がするような気もしてくる。髪からはシャンプーのいい匂いがして、俺はどんどん夢中になっていった。
「あっ、あうぅ……。だ、ダメだよっ、ち、力抜けちゃ、うっ……」
その言葉通り、栞の身体はしだいにくったりしてきて、俺のすることにピクピクと反応を返すだけになってくる。俺に耳が弱いと言った栞だけど、自分も十分弱いらしい。
これ以上すると怒られそうかなと思ったところで止めると、栞はぐったりとベッドに横になり、ハァハァと肩で息をしていた。
「もう……、涼のばかぁ……。どこでこんなの覚えてきたの……?」
「いや、栞にされたことをしただけなんだけど」
「私、ここまでしてないもん……」
「そうだっけ? でもね、栞。これにこりたら、朝からあんなことしちゃダメだよ? 俺もやられたらやりかえしちゃうからね?」
「別にいいもん……。そしたら私が涼のこと襲っちゃうから……」
いやぁ……、それはどうなんだろう。朝からそんなことしていたら遅刻は免れられないし、母さんが様子を見に来たりしたら……。
「と、とにかく、起こす時は普通にお願いね?」
「わかったよぉ……。でもこれ、ちょっと良かったかもぉ……」
……これはダメかも。またやりそうな気がする。
「ねぇ、涼?」
栞がぐったりしながら俺を見つめる。
「なに?」
「包装、解いてくれるんでしょ……? 私、もう……」
さっきもそうだけど、この言い方はずるい。こんな素敵な贈り物、受け取らないわけにいかないし、それに俺も、もう……。
「うん……、じゃあ」
脱がせてしまうのがもったいない気もするけど、栞にもっと触れたい。なら、この布は今は邪魔になる。
ベビードールに手をかけると、栞も起き上がって脱がせるのを手伝ってくれる。緊張で手が震える。初めてってわけでもないのに、まだまだスマートにとはいかないらしい。
脱がせ終わると、ベビードールとセットだと思われる黒い下着が見えた。白い肌に黒がよく映える。
「栞、綺麗だよ」
「うぅ……、恥ずかしいからそういうのは言わなくていいよぉ……。というか、私だけずるいっ。涼も脱いでよ……」
今度は栞が俺の服を脱がしにかかる。少しずつ脱がせ合って、最後にはお揃いのネックレスを身に着けているだけになった。
何度見ても惚れ惚れする栞の身体。その姿をしっかりと目に焼き付ける。だって、俺へのプレゼントなんだから、中身はちゃんと確認しないと、だよね。
その後はまた固く抱きしめ合って、体温を確かめ合う。キスをして、その肌に触れて。
「ふふ、今日は私がしてあげるからね?」
いつの間にか栞に押し倒されて、妖艶な目付きで見下されていた。これはちょっとヤバいかもしれない。完全に栞のタガが外れている気がする。
「お、お手柔らかに……」
「やーだよっ♪」
結局、前回の在庫は底をつき、母さんが最後にくれたプレゼントに手を付けることになる。
季節的にはもうそろそろ涼しくなってきているはずなのに、この日の夜はとても熱かった。
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