店長とバイトくん。

なめがたしをみ

第一勤務目 店長とバイトくん

「店長ー! 店長ー!」


「なによ。バイトくん」


「今、電話来て山本さんが熱で休みですって」


「まじかよ」


「どうすんすか、今17時っすよ。うちのファミレスこれから混む時間じゃないっすか。山本さん休んだらゴールデンタイム俺と店長二人だけっすよ」


「山本さん熱なんだっけ?」


「そう言ってましたね」


「山本さん、上京して大学入って一人暮らしだよな」


「そうっすね」


「…お見舞い行かなくていいかな」


「は? 何言ってんすか?」


「いや、お見舞いだよお見舞い。ポカリとか買っていったほうがいいだろう。よーし、今から俺言ってくるわ!」


「いや、店長、店どうするんすか」


「お前一人でどうにかなるだろ」


「無理っすね。はい、無理っす」


「いや、でも、ほら、山本さん。心細いだろうし。ここは店長として大人の包容感を出していかないとさ」


「はー…店長が山本さんをいやらしい目で見てたのは知ってますけど行かせないっすよ?」


「いやいやいや!! 俺個人の考えじゃないよ? 店長として、店員の健康管理を第一に考えて」


「じゃあ俺が行きますよ」


「は? クビにするよ?」


「正直に言わないあんたが悪い」


「…付き合いたい、結婚したい。子供二人作って田舎に家を買って幸せに暮らしたい。あぁ、見える! 山本さんと幸せな家庭を築く未来が目の前にはっきりと見えている!!」


「正直になりすぎっす店長」


「たのむよー。俺のラストチャンスなんだよ。最後にかけてみてぇんだよ」


「つか、店長、山本さん、キッチンの篠田くんと付き合ってますよ?」


「…マジ?」


「知らないの店長だけっすよ」


「ごめん。篠田に電話して」


「はぁ…繋がりましたよ」


「くーび! お前くーび! うるせっ! うるせっ! クビったらクビなんだよ! ばーか! うんち! うんち!!」


「店長…篠田くん、明日朝六時から早番で出勤予定だったんすけど…」


「…篠田なんだよ」


「は?」


「山本さんが俺に気があるって言ってきてたの」


「うわぁ」


「で、俺二人の恋応援しますって言ってくれてたんだよ」


「それは、完全に遊ばれてますね」


「実はさ。昨日、山本さんに渡したのよ手紙」


「まさか」


「ラブレター」


「店長…」


「と、5万」


「店長?」


「と、アイチューンカード3万円分」


「店長!」


「と、」


「まだあんの!?」


「ディズニーのチケット」


「おいおいおいおい」


「で、見てよ。これ」


「なんすかこれ? 山本さん、あれ? 後ろ、ディズニーじゃないすか?」


「うん。今確認した。これ、山本さんの今日のインスタ写真」


「あーズル休みっすね」


「で、これ、今見つけた篠田のtwitter」


「あー、これは顔にモザイクかけてますけど山本さんとのツーショットっすね」


「…俺、ディズニーになるわ」


「は?」


「メニュー全部下げてこい。うちは今日からチュロスしか出さねぇ!」


「落ち着いてください! 今やべぇこと言ってますよ!!」


「うるさぇ! チュロスなんだよ! チュロス売ればいいんだろ! はっはー! 俺がミッキーだ!」


 こうして、うちのファミレスはその日からチュロス専門店になった。数日後、本部から偉い人たちがわんさか来て店長はこっぴどく説教されていた。

 

 ちなみに山本さんと篠田くんからは後日クッキーをもらった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る