麗しき官吏の憂鬱
道行く人々が、そんな木蓮の姿をちらちら見ながら通りすぎていく。
中には彼の様子を訝しんで
というのも木蓮は、束の間、人々から思考を奪ってしまうほどに美麗な容姿の持ち主なのである。
なめらかな弧を描く
そのすらりとした体躯も相まって、彼は妖艶な雰囲気を纏う青年なのである。
そんな木蓮の麗しき姿を、通行人たちは相も変わらず眺めていたが、彼は今、その視線にも全く気づかぬほど、あることで頭がいっぱいだった。
「何で私がこんなこと……」
彼の頭を悩ませているもの。それは、皇帝より課せられた任務であった。
木蓮は
皇帝はその
「いったい世継ぎを何人つくれば気がすむんだ」
ここが異国であるのをいいことに、木蓮は皇帝への不満をはき出した。
夏后国の現皇帝は齢四十を超え、その
にも関わらず、さらにうら若き乙女を妃に、と所望した皇帝は神官に占いをさせた。
夏后国では皇帝の妃を占いで選ぶのである。これは
しかも
木蓮がなおも溜息を吐きながら馬車乗り場の前で行ったり来たりしていると、御者たちが迷惑そうな目で木蓮を睨みつけていた。
「兄さん、乗らないなら他所に行っとくれよ」
御者たちにとっては営業妨害以外のなにものでもなかった。
(行くしかないか……)
いくら考えたところで、この任から逃れられないことは木蓮も分かっていた。しがない官吏に上司の命令は絶対。それが皇帝のものとなればなおのことだ。
木蓮は並ぶ馬車の一つに乗り込む。
馬車は待ってましたとばかりに勢いよく発車した。
窓から見える景色はすぐに田園風景に変わる。流れゆく緑を眺めがら、木蓮はこれから会う
「後宮入りなどきっと望んではいないだろう」
後宮に入る
そんな不自由を強いられた女たちに、木蓮は昔の自分を重ねていた。
幼い頃、宮廷という魔窟に連れてこられた、自分と――。
ガタタンッ。
馬車の車輪が跳ねた。
ずいぶん道が悪いようである。外の景色も荒涼としてきて、とても人の住みよいところには思えない。
(はてさて、どんな
木蓮は馬車に揺られながら、どうか無事に任を終えられるようにと祈っていた。
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