羽黒の迷い子
晴方米
第1話 迷い子
夏の日差しが眩しく、蝉の声が煩わしいほど耳につく日。
とある小さな神社の境内にひとりの少女の声が響いた。
「早く運命の人に出会えますように〜!!」
少女の名前は沙美。この神社の近くにある高校に通っているどこにでも居る女子高生だ。
「神様ほんとお願いします。私に彼氏を与えてください。友達のほとんど彼氏持ちなんです!!!」女子高生らしい願いを口にながら沙美は必死に手を合わせ拝んでいた。
「参拝も終わったしそろそろ帰るか」沙美は地面に置いていた荷物を肩にかけ、帰路についた。神社の長い石段を降りていると何かが足の間を通った。
「えっ…?」気づいた時には遅く沙美バランスを崩して階段を踏み外し、そのまま落ちてしまった。
「痛っ…何があったの?」沙美が目を覚ますとそこは神社の石段の一番下だった。あの高さから落ちてよく死ななかったな〜と呑気なことを考えながら沙美は服についた砂を払った。
気を取り直して帰ろうと顔を上げると、辺りは普段とは少し違う雰囲気だった。
「なんだろ…なんか気味が悪い」恐る恐る歩き始めると、人影が見えてきた。
「よかった〜〜!」沙美は安堵し、小走りで人影が見える方へ走り始めた。
しかしその足はすぐに止めることになった。「何これ…」沙美は震えた声で小さく呟いた。
沙美が人だと思っていたものは、人とはかけ離れたものだったのだ。
それらは一つ目の者、ツノの生えた者、獣の姿をした者など本で見たことある妖怪と同じ姿をしていた。
「妖怪…?」沙美が固まっていると、妖怪たちはこちらに気付き向かって来た。
「何?!こっち来るの??!!」今だ状況が理解できてない沙美だったが、本能的にやばいと感じ走ってその場を離れた。
しばらく走った沙美は寂れた商店街に入ってしまった。
幸い妖怪はいないようで沙美は安堵し、物陰に隠れて少し休もうと辺りを見渡した。
すると前方に二つの人影が見えた。目を凝らして見ると、どこにでもいる人間の青年のように感じた。「人間だ…!!」今度こそ同じ人間だと思い、沙美は彼らの元へ走った。
「あの助けてください!!」沙美が助けを求めると、二人は立ち止まり、静かに振り返った。
彼らにはツノもなく、一つ目でもなく、獣の顔でもなく、普通の人間と同じ姿をしていた。
一人は無表情で寡黙、もう一人はメガネを掛け和やかな人に感じた。また共通に感じたのは、艶やかな黒髪、俗にいうイケメンのような綺麗な顔、どこか不思議な雰囲気だった。
沙美が二人の顔に見惚れているとメガネの男が「どうしたの?」と優しく尋ねた。
その声で我に返り沙美はこれまでのことを話し始めた。
「私、神社の石段から落ちて目が覚めたら周りの様子がおかしくて…まるで異世界に迷い込んだような……あっ何言ってんだって感じですよね…?!でも何か本当に変で…もう不安でいっぱいで…」沙美は涙目になりながら説明していると、それを遮るように寡黙そうな男が口を開いた。
「なぜここに人間がいる?」男の声は荒々しく、表情は驚きを隠せてなかった。
「え……?」沙美は“人間”という言葉に違和感を覚え再び男たちを見た。
「ごめんね。僕たちは君の仲間じゃないんだよね」メガネの男が笑顔で続けた。
“人間” “仲間じゃない”その言葉が意味するのは、彼らは人間ではない存在ということに沙美は気づいてしまった。
「あなた達、人間じゃないの…?」沙美は冷や汗をかき震えながら恐る恐る尋ねた。
「うん。僕たちは」「妖怪烏天狗だ」二人の男は静かな声で言い、己が妖怪ということを証明するかのように背中から黒く美しい羽を広げた。
沙美はこの残酷な告白に失望しながらも彼らの羽の美しさに目を奪われていた。
羽黒の迷い子 晴方米 @okome-yone29
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