第20話
まず、色々と謎と言うかなんというか、説明しなければならないことが多いので、ここいらで説明しよう。誰のための説明かと問われれば、それは後ろのビッチ神官にとでも思っていてくれていい。だが一言で表すならば、ばらばらのパズルピースをかき集めたとでも言っておこう。
まず第一、何故俺達が即座に魔王城に帰還することができたのかだ。これは単純、モモの超速食材調達の力を利用して、魔王城にある牛魔肉をオーダーしたからに他ならない。
牛魔肉は、魔王城付近にて魔王が畜産していた家畜である。そして固有種だ。だからモモに「牛魔肉のステーキ」を注文したことで、魔王城に即座に辿り着けたのである。
第二に、牛魔肉の家畜である牛魔は当然牧場か何かで育てていたのだろうから(竜の背から魔王城付近を見るに、動物を囲う用の檻的なのはあった)、その牧場に辿り着くはずである。しかし、即座に魔王城に辿り着いた。これのわけはと言うと、勇者が魔王城の食料を軒並み奪っていたからだ。アイテムボックスに格納されているであろう牛魔肉をモモは感知し、牧場ではなく勇者の元に向かい、勇者のいる魔王城に来れたというわけだ。
最後に、第三。モモだけが魔王城に来られるのならまだ分かるが、俺、魔王、クスノもそのモモにくっつくことで一緒に航空移動したならば、五体満足に「ウーバーイーツだよ」などと減らず口を叩けないはずである。それは、この俺が身に纏う
その本質は、その内の生命を守る鎧となる。
空を飛ぶ瞬間、俺の中にある魔力を解放するときに、無意識にそう呟いていた。恥ずかしくて顔が蒸気して仕方がなかったが、なんか自動的に出てしまうのだから仕方がない。そんな恥ずかしさと共に、空で黄金の鎧を纏ったのだ。ついでに魔王とクスノを服の内に入れて。ギチギチだったがなんとかなった。
「ってなわけで、こうして魔王城に来れたってわけだ。いやー実家のような安心感だぜ。お客さんが来たらおもてなしするのが日本人の
目の前の男神官、そいつを守る鎧の戦士君と魔法使いをねめつけて、ニシシと笑いそう呟いた。
「いや第四! 俺を蹴る必要全く無かっただろうが!」
横で壁にへばりついている勇者が、瓦礫を振り払ってそう叫んだ。広い魔王城ではよく響く。つーかよく生きてるなこいつ、脳がぐちゃぐちゃになっても仕方がなかった衝撃だぞ。こいつギャグマンガの世界の住人なんじゃないだろうか。
「まぁ確かにベクトル的には若干下半身に飛んでってたんだけどよ、なんかお前の下半身に飛びこむのは気持ち悪そうだったからさ」
「下半身に飛びこむ方が気持ち悪いわ!」
「言われてるぞ?」
「昔の話よ!」
神官の女子はカーーっと顔を蒸気させてぷんすかいっている。ワープさせられて動揺しているのかと思ったらこれだもんな。
「魔王代理、ネタ晴らしもお済みになられたことでしす、そろそろ職務に戻ってもよろしいでしょうか?」
あの超高速移動でもびくともしなかったコック帽をピンクの頭にチョコンと被り、モモは小さな体躯をさらに小さくするように頭を下げた。
「ん? ああそうだな、俺もそろそろこいつらにお茶漬けでも食らわしてやりたかったところなんだ」
「追加注文ですか?」
「いや、ただの皮肉だよ」
「では運動後に合う皮肉、改め肉料理をご用意しておきますね」
そういうと、モモは壁にめり込んだ勇者に向かって体当たり。体当たりというと、なんだか威力40の物理技のような言葉になるので、訂正が必要だろう。これは威力130のロケットずつきだった。
「のわぁっ!」
勇者は突如飛んできたモモを紙一重でかわす。いや、それもおかしいっちゃおかしい。こいつ当然のように避けたな。新幹線並みのスピードは出ていたのに。壁にぶつかったモモは体勢を立て直し、勇者に向かう。避けたと言っても、ドッジボールの軌道を読んでかわした程度。二人の物理的距離は既にスープも冷めやらぬ距離だった。
勇者はその距離にたじろぎつつも、モモに構える。が、しかし、すでに視線の先にモモはいなかった。勇者の目下、すぐ真下に来ていたのだから。
「なっ!?」
勇者のいちいちの反応にも何の感慨も抱かず、モモはただ。
モモはただ、勇者のズボンを脱がした。気持ち悪いブリーフが晒される。
「え?」
勇者は拍子抜けし。
「「「は?」」」
戦士君、魔法使い、そして神官の男子も首を傾げ。
「あ~、そうなるのか」
と俺は一人で納得。後ろからは「あいつちゃんと洗ってないの?」と呆れている。ブリーフにできた染みを見ての感想だろう。
モモの目的は飽くまでも職務。食務と言った方が正確か。勇者のアイテムボックスに格納されている牛魔肉を回収するために勇者に迫ったのだ。そしてそのズボンをちゃんと足から離脱させた(お母さんにお着換えさせられてる少年を見ている気分だ)。周囲の冷たい視線、臨戦態勢からのこの温度差、そしてズボンを脱がされて汚れたパンツを衆目に晒してしまったためか、素肌の膝を固い床についてがっくりとしな垂れている。
モモはズボンのポケットをまさぐり、そこから小さな足を取り出したと思ったら、にゅるっと大きな大きな紫色の牛がにゅるっと出てきた。
歴史も深そうなボロボロの魔王城で、一人はズボンを脱がされ廃人状態、その横では牛肉を捌いて調理を開始しているという、とてもカオスな情景が、そこにあった。
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