第14話浅田理事長side

 帰った…………か。

 これでもう我が校には来ないだろう。


 あの様子じゃ、本当にこの学園の状況を知らなかったようだ。あれだけ社交界で騒がれていたというのに。だが、知らないのは無理もない。


 鈴木家自体がだからな。


 それも本人達に気付かれないよう巧妙に隠されている。

 恐らく鈴木家は自分達の現状を全く把握していないんだろう。親切に教えるような人もいないだろうしな。


 鈴木晃司の奴はこの数年ずっと海外だしな……。早川がパーティーに来ることは無い。鈴木会長夫妻も仕事関係のパーティーならいざ知らず、プライベートでは招待状すら送られていない筈だ。親しくしていた人達は徐々に離れていっているらしい。



 この学園だけじゃない。

 あいつらのせいで破滅した奴は腐るほどいる。

 もっとも当事者の二人がそれを知っても「自分達には関係ないだろ」と本気で思ってそうだし、実際に言いそうだ。


 関係ない?そんな訳あるか!



「身分違いの恋。シンデレラストーリーが自分達だけだと思っているのならとんだ思い違いだ」


 鈴木家が総力を挙げた情報戦。

 それは間違いなく鈴木家に優位に働いた。

 政略結婚で恋人と仲を裂かれた者同士のハッピーエンド。その過程は綺麗に省かれたものだとしても、だ。伊集院家の令嬢がさも悪役令嬢の如く扱われた内容。そこには一欠けらの真実もなかった。それに気付いたのは大分後だった。俺は伊集院家の令嬢、つまり、鈴木晃司の前妻をあまり知らなかった。当然だな。友人の奥さんだとしても、プライベートで話す事なんてない。その点、早川は学生時代からの友人だ。鈴木も。どちらに思い入れがあるかといえば当然、鈴木と早川になる。それはこの学校の、いや、二人の学生時代を知るOB・OGなら二人を応援するだろうさ。実際、二人の再婚に力を貸した連中は多い。俺だってその一人だ。二人の結婚式場は俺達の後輩の実家だし、二人に関する不適切な事実は放送局に圧力をかけた同級生だっている。そうすることで「シンデレラストーリーに相応しくない」全てのものを揉み消した。それは結果として鈴木家側に立つことを意味していたが、当時はただ、友人を、後輩を、先輩を「ちょっと手助けするだけ」というものだった。


 今にして思えば愚かとしか言いようがない。


 だが、間違いなくそれらが切っ掛けになっただろう。

 二人に続こうとする者が現れた。

 それも俺の親が経営する学校でだ。


 今では関係者の者達皆が知っている。

 あのことは間違いだったと。


 知ったから許されるものではないし、気付いたからといって過去がなかった事にはならない。


 しかもだ。

 俺達が気付いたのは随分と後だ。

 何時だったかな?


 確か十年前にあの一件から露見したんだ。



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