第46話晃司side
≪≫テレビ
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酒の量が増えた。
最近は眠るために酒を飲んでいる。
一人で酔いつぶれる毎日だ。
虚しい……。
これが日本なら夜の街に繰り出すのだが、ここはニューヨークだ。迂闊に夜歩くのは危険すぎた。テレビを観ながらビールを飲むしかない。
陽向と結婚して以来、友人を失った。
親族からは絶縁されている。
北海道で再会した
この数年、両親とも会っていない。
親達は陽向を何年経っても『嫁』とは認めなかった。
それでも『息子の妻』とは思っているみたいだ。
沖縄の家にいけば、もてなしてくれる。だが依然として陽向への視線は厳しいままだ。必要最低限の会話しかしない。陽向は気付いていないが……。
鈍い女だ。
人の悪意に無頓着な女は最強だ。
嘗ての妻、桃子は陽向とは正反対の性格で仕事を終えて帰宅する度に気遣ってくれた。当時はそれが当たり前だとばかり思っていたが……違ったようだ。現に今の妻である陽向は俺を気遣う様子はない。
グラスをテーブルに置き、ふと、つけっぱなしのテレビに目を向ける。
グルメ番組かなにかだろうか?懐かしい日本料理が紹介されていた。次々と映し出されていく。日本の家庭料理、お弁当などなど。
≪素晴らしい料理の数々ですね。これをいつも一人で作られるのですか?≫
女性の司会者が声をかけた先にいる人物を目にして驚きを隠せなかった。
桃子……?
嘗ての妻が映し出されていた。アナウンサーと共に料理を紹介をする。
これを桃子が作った!?
典型的なお嬢様だろ!?
彼女が料理をする姿など見た事ないぞ!!?
俺の葛藤を余所に番組は続く。
≪いつもは料理長が作ってくださいますわ。ですが、夫の帰宅時間が遅い時は夜食は私が作りますわね。それに娘達のお弁当などは母親の私が作りたいですし≫
インタビューに答える桃子の発言に、俺は息をするのを忘れそうになっていた。
桃子に愛しい娘!?
結婚したのか……?
司会者はセレブママの日常に興味深々に尋ねていた。
そこで分かったのは、桃子の再婚相手が貴族出身の男だという事。二男一女に恵まれている事。結婚後は日本とドイツを行き来していたが、今現在は夫の仕事の都合でドイツ住まいだという。
「は……?貴族?それもハプスブルクに連なる名家出身……?……嘘だろ……?」
俄かには信じられない話だ。
それでもこれは現実なのだと俺に知らしめる。
桃子の新しい旦那も日本人の血を引いているそうだ。ハーフかクォーターだろうか?
桃子は頬染めながら自分の夫の話を嬉しそうにしていた。
あんな顔の彼女を見たのは初めてだった。
同じ歳だというのに、桃子の美しさは健在だ。いや、前よりもその美貌は更に磨きがかかっている。
桃子の話に司会者も相槌を打っていた。そして、彼女の幸せが伝わってくる内容だった。
≪本当に夫と結婚出来て幸せですわ≫
そう告げる彼女はとても美しかった。そして、その発言から察する。再婚相手は良い奴なのだと。ちゃんと桃子を愛してくれている男なのだ。
何故か胸が締め付けられる。
元妻の幸せそうな姿を画面越しで観る事にいたたまれなくなった俺はテレビを消した。
彼女と愛し合った事など一度もない。
義務で結婚した関係だ。それでも彼女との暮らしは充実していた気がする。少なくとも桃子は陽向のように自分本位に行動する女性ではない。
「くそったれ……!」
俺の人生はどこで狂った?
本来、鈴木グループを背負って立つはずだった!
本当なら今頃、父から会長職を譲渡されていただろう。俺は喜んで受け止め、今頃は会社の頂点に立っていたはずだ。
そんな俺がだ。
酒に溺れ自堕落な生活をしているなんて情けない。惨めな気分だ。
陽向に出会わなければこうならなかったのではないのか?
陽向に全てを狂わされたのではないのか?
俺は終わりのない後悔に身を焼かれる思いがした。
そしてそれはこれからも延々と続くのだろうと漠然と思った。
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