第39話陽向side

「いってらっしゃーい!」


 今日も元気に晃司を送り出した。

 

 になって本当にラッキー。物価は安いし、食べ物は美味しいし。冬は寒いし雪も多いって晃司は不満そうだけど、私はそんな事ない。スキーやスケートも結構好きだしね。東京にいた時は「やってみよう」なんて思わなかったけど、こっちにきたら何だろ?「面白そう」って思っちゃう。

 実際、試してみると意外に面白い。

 新しい友達も出来たし。うん!やっぱり北海道に来て正解よ!


 結婚と同時に仕事は辞めちゃったけど、何時かカフェなんか開きたいな。料理は下手だけどお菓子作りには自信があるんだよね。まだまだ先の話になるけど夢を広げるのは大切な事だもん。

 晃司も仕事頑張ってるから、私も頑張らないと!

 もう少し暮らしが落ち着いたら仕事を探すのもいいかも!

 


 それにしても鈴木の義両親と離れられて本当に良かった。

 これが一番嬉しい事かも!

 兎に角、淑女教育は煩かったのよね。



『貴女は学園で何を学んでいたのですか!?』


 これだよ?

 晃司のお義母さんだから反論はしなかった。

 学校では確かに習った。茶道や華道。それに香道、食事の作法、ダンスetc。

 でもさ、あれって何か意味ある?

 高校の時だって「これって何の役に立つの?」って首を傾げながら授業を受けてたんだよ?ハッキリ言って慣れない正座で足は痺れるし痛いし。もう最悪だった!



『鈴木家の嫁として、最低限のマナーは覚えて頂かなければなりません』

 


 要は、勉強しろって事だった。

 新婚だっていうのに、家庭教師を付けられて毎日が勉強三昧。一応、土日は休みだった。それは家庭教師が休日だったから偶々そうなっただけだよね?


 だいたい、いつ使うか分からない勉強したって意味ないと思う。


 寧ろ、それって本当に必要?って聞きたくなった。

 だってさ、こういった勉強が社会で役に立つなんて全然思わない。そういった集まりがあるって聞いたけど、それは出来る人プロが勝手にやっていれば良いだけじゃない?


 私だって、伝統芸能とか大事だと思うよ?


 でもさぁ?


 私がそういった家に生まれて跡を継がないといけない、って訳じゃない。そういう家に生まれてたら「頑張ろう!」ってなってたかも知れないけど、実際、私は一般家庭の家に生まれた訳だし。関係ないんだよね。だから余計に頑張れない。頑張れる要素もないしね。


 そもそも強制されたものだよ?

 学校の成績と違って順位が出る訳でもない。

 会社の業績の成績が出る訳でもない。

 結果が出ないものって、やる気が失せるんだよね。なんだろ?結果が出れば「もっと上を目指そう!」って思えるし、頑張れるってものだよ。



 まあ、だからって勉強を投げ出す訳にもいかない。脱走できないしね。

 私は家庭教師と向き合って、仕方なしに黙々と学ぶだけ。


 家庭教師の先生は優しい。

 晃司の話では鈴木家の遠縁にあたる人みたい。歳の頃は50歳過ぎかな?上品な人。お義母さんより品のある女の人だった。


 でもまぁ、優しい先生=楽しい授業、とは限らない。ぶっちゃけ面白くなかった。

 半年くらい経った頃かな?


 

『私の授業は今日までです。明日からは別の教師が来られますので、その先生に色々と教わってください』



 はっ!?ってなるよね?急に何!?

 別の先生?なら今、目の前にいる先生は辞めちゃうってこと!?え?その場合どうなるの??


 混乱する中、次の日に別の家庭教師が来た。

 前の先生のように優しくない。

 厳しい先生。

 出来なかったら「何故出来ないのですか!」と罵声が飛んでくる。

 なんでこんな人が教師なのかなぁ?と凹むよね。余計にやる気がでなかった。「実践経験が足らないせいです!」とか言われて無理矢理参加させられた催しでも散々な結果。もうどうすればいいか分からない。綺麗な着物を着た綺麗な女の人が「来なくていいです」って言ってくれてラッキーだった。なんか義両親と新しい教師は顔を真っ青にしてたけど、いいよね?私の気持ちにもなってほしいよ。だって本当にお稽古なんて無理なんだもん!



 あの生活から解放されて幸せ~~っ。

 晃司とも新婚生活をやり直しできるし。


 前の家って広すぎて落ち着かなかったんだよね。

 それに家に常に他人がいるって環境になれない。なんかさぁ、見張られてるみたいで嫌なんだよね。だから今が一番!




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