第6話晃司side
陽向はモテる。
社内でも、社外の男達にモテていた。
いつも一生懸命で頑張り屋の彼女だ。モテない訳がない。加えて、俺の会社は社内恋愛を禁止していない。当然、陽向目当ての男は多い。
渡したくない。
誰にも……。
最初はただ見ているだけで良かった。
俺の隣で笑っているのを見るだけでも良かった。陽向が笑って、怒って、喜んで……一緒にいるのが楽しかった。そんな時間がずっと続けばと思っていただけだった……が、いつの間にかそれだけでは物足りなくなったようだ。
『ずっと好きだった』
『わ、私もだよ』
想いを打ち明ければそこからは早かった。
俺は陽向に溺れ、妻に対する興味を失った。
結婚している身だというのは分かっていた。だが俺が望んで結婚した訳じゃない。段々と家に帰る日が少なくなった。それを同時に欲が出てきた。
陽向と結婚したい。
夢を見た。
俺と陽向、そして二人の子供。陽向が俺によく似た息子を抱いている。そこには幸せそうに笑い合う家族があった。
夢のままで終わらせたくない。
妻に対して陽向のような感情は何年経とうと感じない。あるのは義務と言う名のナニカだ。妻との結婚で会社は一層発展した。もういいだろう?と囁く俺がいる。
『離婚してくれ』
突然、離婚を切り出されて、妻は目を見開き驚いていた。それでも冷静だったと思う。泣くこともなければ縋り付くこともない。素直に離婚に応じてくれた。正直、拍子抜けした。厄介だったのは両親だ。二人は妻を気に入っていた。それでも最後には説得に応じてくれたのは、五年経っても妻との間に子供が出来なかった事が大きい。病院に通う事はなかったが、原因は妻にあるのだろう。もっとも、それを言うことは無いが……。両親は自分の血筋に会社の跡を託したいという思いがある。それとなしに陽向の兄弟が多い事を告げると「多産か……」と呟いていた。孫の顔見たさで認めてもらった。
提示された慰謝料と賠償金はかなりの痛手だったがそんなものは直ぐに盛り返せる。妻の実家は陽向にも慰謝料を要求したらしいが、そちらは驚くほどの少額だったからな。俺が一緒に支払っておいた。
そうして、俺は漸く最愛の女を手に入れた。
夢の続きが現実になる――そう思っていた。
幸せな家庭を愛する陽向と築いていける。
……だがそれは大きな間違いだったと言う事を俺は後で知る事になる。
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