ラノベみたいな世界観に育成ゲームキャラスペックを持ち込むな!!

鳩胸な鴨

第1話 神「アホの言うことは真に受けるな」

その者は、神ですら思考をぶん投げる、救いようのない廃人…もといアホであった。

対戦が盛んな育成ゲーム…『ファンタジック・モンスターズ』に、人生のリソースを捧げたアホ。

実況動画によって収入を得るわけでもなく、ただ自身の満足のために人生を生き抜き、心筋梗塞で世を去った。


そんな空虚な人生を哀れに思ったのだろう。

慈悲深い一柱の神が、彼に生産のある第二の人生を歩ませようと、その魂を呼び込んだ。

が。それに対する彼の第一声は…。


「だって、異世界とか、ラノベの世界とかでしょ?ファンモンないじゃん」


これである。

助走をつけて殴り飛ばしてもいいレベルの廃人であった。

だが、そこは慈悲深さをウリにしている神。

脳細胞の全てがゲームに支配された、不敬の塊みたいな阿呆にも、「ラノベみたく転生特典もあるよ」と救いの手を差し伸べた。


「いらんし。こっちの世界で転生させてくんね?新作やりたい」


だめだ。コレは私には救えないものだ。

それを察した神は、慈悲深さも、神としてのプライドも、全てをドブに全力投球して土下座した。


彼女が担当する宇宙は、滅亡の危機を迎えているという。


本来ならば神が出張って対処すべき問題なのだが、その「危機」とやらが神の介入を阻んでおり、それも不可能なのだとか。

彼を哀れに思ったのは本当だが、あわよくば危機を救ってもらおうとも思っていたらしい。

それを聞いた彼は、特に憤慨するでもなく、「俺でなくてもよくね?」と至極真っ当な反論をかました。

神はぐうの音も出なかった。それでいいのだろうか。


かくなる上は、駄々を捏ねるしかない。

そこには、神と呼べる存在はいなかった。

全力でゲーム廃人に向かって駄々を捏ねる女児がいた。

神よ。本当にソレでいいのか。

人らしさの全てを捨て去り、ゲームに取り憑かれた廃人でも、さすがに事案としか思えない絵面に居た堪れなくなったのだろう。

いや、それとも面倒になったのだろうか。

なんにせよ、彼はゲームに支配された残念な頭で、クソみたいな妥協案を出した。


「…神様ならさ、俺のファンモンのデータからモンスター呼べないの?

設定的には世界救えるレベルのバケモンばっかだし、強いのは育成終わってるし」

「それだーーーっ!!!」


悲しきかな。追い詰められた神も阿呆だった。

ファンタジック・モンスターズのウリは、なにも対戦だけではない。

練り込まれたモンスターの「物騒すぎる設定」も、大きな魅力の一つなのだ。

序盤に出会うモンスターならまだ可愛らしいが、終盤になると概念そのものが形になったようなモンスターがいる、といえば、その危険性がどれほどかわかるだろう。

中には、彼女ですら足元にも及ばないほどの上位存在も複数いるわけで。


結果。彼女は絶対に放逐してはいけない怪物たちを、ただでさえ滅亡の危機に瀕した世界に送り込んでしまったのである。


そのことに気づいた時には後の祭り。

とりあえず、目につくモンスターを全てぶち込んでしまっていた。

何を考えていたのだろうか。それとも、何も考えてなかったのだろうか。

なんにせよ、アルマゲドン級のやらかしをかましてしまったことに変わりない。

神は慌てて男を転生させようと、手元から手放した魂を呼び戻そうとした。

が。一歩間に合わず、元凶は現世に赤子として転生してしまっていた。

アホの言うことは真に受けるな。

今回の件で彼女が得た教訓であった。


焦り散らした彼女は考えた。

今直面している危機を乗り越えつつ、バケモノたちを押さえ込むにはどうしたらいいか。

知恵熱にうなされる中で、彼女は一つだけ思い浮かんだ答えに縋った。


あと数人、男が生きた世界出身の転生者をぶち込もうと考えたのである。


ファンタジック・モンスターズは、あの世界において30年も愛された人気コンテンツ。

即ち、彼女が管理する宇宙にぶち込まれたバケモンたちの対処法もわかるはず。

兎に角、失態に次ぐ失態に焦り散らしていた彼女は、手当たり次第に天寿を全うした、または不慮の事故で亡くなった者たちを5名ほど送り込んだ。


ほぼ全員にその知識が全くないことに気づかず。


♦︎♦︎♦︎♦︎


世界は滅亡の危機に瀕していた。

大地は焦げ、海は割れ、空は砕け。

そして、宇宙そのものはゆっくりと、「異世界からの侵略者」に蝕まれていた。


そんな世界に残ったのは、生き残れた生命がなんとか食い繋げる程度の土地と命だけ。

そんな惨憺たる有様の世界の一角にて。

急拵えのテントの中で、1人の人間が話を切り出した。


「各国の被害状況は?」

「…把握しているだけでも、ミィーズ公国、エンセン同盟、ジバイアス帝国の三国は壊滅状態にあります。

我々、ラストリデもどうなることか…」

「滅びたも同然だろう。

なにせ、王族が全滅したのだから」


この星には7つの大国、そして無数の属国が存在していた。

が。現在では実にその7割が壊滅状態。

彼らが属する国家…ラストリデ王国も首都が落とされ、滅亡は秒読みであった。

隊長格の男の発言に対し、ただでさえ重苦しかった空気がより重くなる。

そんな中、1人の女性が諌めるように声を張り上げた。


「頭を失おうとも、国は消えず。

部隊長。国王様の遺言をお忘れですか?」

「………すまん。弱気な発言だった。

まだやり直せる。まだ勝てる。まだ、生きている。

…そのためにも、まずは奴らの弱点を探るべき…」


隊長格の男が言い切るより早く、轟音、続いて悲鳴が響く。

彼らは驚愕に漏れ出そうになる声を抑え、テントの外へと飛び出た。

視界に入ったのは、潰れたテント。

連れていた避難民を休ませていたはずのソレは、骨組みごと破壊されていた。

続いて目についたのは、ぼろぼろの衣服。

先ほどまで人が着ていて、人だけがすっぽり抜けたかのような状態でいくつか靡いている。


その上には、老齢の男性を啜り食らう、蜘蛛に近い怪物がいた。

べったりとした黒塗りの体に、目立つ蛍光色のライン。

それは、世界を侵食する怪物に共通して見られる特徴であった。


「くそっ、もう嗅ぎつけたのか!?」

「ひ、避難民が、全滅…」

「お前たち!早く逃ぃぁがっ!?」

「隊長!?」


その光景に動揺したのがまずかったのか、それとも、既に詰んでいたのか。

隊長格の男の腹から、蜘蛛の足が突き出る。

その背後を見ると、かちかちと牙を鳴らし、餌を吟味するようにこちらを見つめる蜘蛛がいた。


「隊長、隊長ーーーっ!!」

「動揺するな!早く逃げっ」


続いて、目の前にいた蜘蛛が、近場にいた兵士1人に牙を突き立てる。

数秒もしないうちに全身が溶け、啜られた彼を前に、残った兵士が揃ってへたり込んだ。


「あ、あはっ、あははっ、あはっ…」

「ひ、ひひっ」


恐怖でおかしくなってしまったのだろう。

引き攣った笑い声だけを発するだけとなった肉の塊に、二つの脅威が牙を向ける。


と。その時だった。


「ぎがぉおおおおおんっ!!」


狼のような咆哮が轟いたのは。


まさか、また増援が来たのか。

絶体絶命という言葉では言い表せない絶望感に負けた兵士たちが、そちらに顔を向ける。

そこに居たのは、人狼に近い風貌の獣だった。

まるで星々が浮かぶ宇宙を模したような、鮮やかな藍の毛並み。

スマートな下半身に反し、星すら握りつぶせそうな豪腕。

そして、王冠のような角に、星の光のように煌めく瞳。


その風貌を一言で言い表すのであれば、まさしく、光の化身であった。


「しーっ…、しゃーっ…」

「かちかちかちかち」


それを脅威と見做したのだろう。

蜘蛛が口から音を鳴らし、威嚇する。

が。狼はそれを意に介さず、姿勢を低くする。

なにか、まずい。

そう悟った蜘蛛たちは、一斉に糸を放ち、結界を形成した。

下手に動けば真っ二つか、粘着力によって身動きが封じられる罠。

蜘蛛たちは口を開き、その結界から毒の弾幕を展開する。

少なくとも、これで殺せなかった脅威はなかった。

早く片付けて食事の続きに入ろう、などと2匹の蜘蛛が思い描いたのも束の間。


「ぎがっ!!」


狼が吠えた。

ただそれだけで、張った結界も、毒の弾幕も、全てが消し飛んだ。

あまりのことに思考が停止したのだろう。

固まった蜘蛛に迫った狼は、その豪腕を2匹に叩きつけた。

ぐちゃっ、と蜘蛛の残骸が地面に広がる。


「………た、助かった…?」


1人がそう呟いたせいだろうか。

狼の視線が、兵士たちへと向く。

狼は残った人々を見やると、申し訳なさそうな顔を浮かべたのち、踵を返す。

暫くは、ずんっ、ずんっ、とゆっくり歩いていたが、数秒もすると、轟音と共にその場から跳んで行ってしまった。


「なんだったんでしょう、あれ…?」

「神の使いじゃ、ないか…?」

「そ、そうだ…。きっとそうだ!!」


神に感謝する彼らは知らない。

それが、ゲーム廃人に育てられたモンスターであることに。


♦︎♦︎♦︎♦︎


モンスター研究書461ページ

名前:『ギンロード』

学名:ギャラクティックカニスループス

属性:光

弱点:無し


概要及び生態…宇宙のバランスを保っているモンスター。

体毛から星々の光を吸収し、自身のエネルギーへと変換しているため、食事を必要としない。

かつて世界を救った英雄たちの側には必ず、ギンロードの姿があったことがここ10年の研究で判明した。

その両腕から放つ光の奔流は、10億光年先にまでも届く。ギンロードがかつて放った光が、天の川の正体なのではないかと主張する学者もいる。

力を失った状態のギンロードは、ポメラニアンのように小さく丸くなってしまう。

以上、20XX年発売のゲームソフト「ファンタジック・モンスターズ ワールド」、「ファンタジック・モンスターズ コズミック」より抜粋


対戦評価…あまりの無法さに一時期、コイツしか見かけなかった。公式により対戦出禁になった。大体のモンスターに先制してアホ火力を出せる上、相手の光属性耐性を問答無用で一段階下げる専用パッシブスキル「光の王」を持っていたので残念でもないし当然。加減しろコズミックワンちゃん。

以上、20XX年投稿「ファンタジック・モンスターズ対戦wiki」より抜粋。

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