魔法の世界でも超能力があれば余裕かな?

まする555号

第1章 軟禁生活編

第1話 前世の世界

僕には物心ついた時から自分では無い他人の記憶があった。ただ記憶は断片的で整理されておらず、脳内を駆け巡るだけだった。

記憶が整理されていくに従い、人が生まれ成長していく過程に関する知識を赤ん坊でありながら知った。だから大人の記憶がある自身の状態がとてもおかしい事にはすぐに気が付く事が出来た。だからといって周囲の人の言葉はその記憶のものとは全然違うものだったし、発声もまともに出来ない赤ん坊でもあったため、誰かに相談する事が出来る訳もなく、しばらくは自身の記憶と向き合ったり周囲を観察して過ごす事となった。


当初は記憶と精神が乖離しすぎていて、記憶を自身のものと受け入れる事が出来なかった。知識で考えるするべき事と体が欲する事が違うというのは受け入れるのが難しい。ただ記憶と向き合う事で輪廻転生という前世の知識に行き着く事ができ、次第にどちらも自分だと受け入れるようになった。

また持っている知識は慎重に取り扱わないと問題が起きる事にも気がついた。周囲への承認欲求が強すぎて、周囲から注目されたいという衝動に襲われる。そのため母親に全てをぶちまけたくなるのだ。この時言葉が理解出来てきちんと発声出来ていたなら前世の知識を喋らずには居られ無かっただろう。しかし出る杭は打たれるという言葉があるように、下手に知識がある事により起きる周囲の奇異の視線や、トラブルを抱えてしまう恐れがある事に気が付いたため、湧き上がる欲求と思い通りに動かない身体への苛立ちなどを、暴れたり泣き叫ぶ事で解消する日々を過ごす事になった。


ある程度心が落ち着くようになった頃に体が意思の通り動かせるようになり、寝返り、ハイハイ、つかまり立ちを経て、ある程度自由に歩けるようにもなっていた。

周囲をゆっくり観察する余裕も出る事で少しづつ言葉も理解していき、発声もうまくこなす事で、意思疎通も出来るようになっていった。


観察をしていると現世と前世では世界自体の仕組みが違う事に気がついた。

まずこの世界では生きていくうえで魔法は欠かせないものであるが、前世には魔法というもの自体が存在していなかった。その代わり科学技術というものが発達していて魔法が無くても便利で快適に暮らす事ができていた。但し快適に暮らすためには発達した科学技術によってつくられた道具を沢山持っている必要があり、それを購入し維持するために、お金を稼ぎ続けなければならなかった。

幸いなことに前世の僕は裕福な国で生を受ける事が出来ていた。両親はそれなりにお金を稼げる立場にいたようで、小さい頃から周囲と格差を感じない程度は便利な道具が身の回りにある生活をおくれていた。高度な教育を長期間受ける事もできたおかげで、自身が両親の庇護から抜け出す年齢の時には、自身が便利な道具を購入出来るだけ賃金を稼げる仕事につく事ができていた。

しかし両親の庇護から抜け出した時に道具は沢山持っていても、それだけで平穏な生活を送り続けられる訳ではないことに気がつくようになった。

巷には人を陥れる道具も多く存在していたため、安心や安全な生活を送るために、家に様々な監視道具を配置しておかないと危険な目にあう可能性があった。稼ぎが増えていくに従い、他人の侵入を防止するシステムが何重にも組まれている集合住宅に移り住むようになった。さらに出入口にはカメラという監視用の道具も設置されていて他者に恐れを感じているようだった。

同じ集合住宅の住人同士であっても信用出来ないらしく、プライベートスペースの仕切となるドアには何重ものカギをかけていたし、窓には侵入者が来た事を察知する道具が取り付けられていた。誰かが無断で窓を開けようとすると、遠い所に配置した警備員が駆けつけるような契約もしていた。

そういった便利な道具や安心して暮らすための道具を作るためには、周囲の自然環境に障害を発生させるものもあるらしく、それを解決する技術が作られていないのに、道具の無い生活が辞められず、取り返しが付かない自然環境を破壊し続ける社会になっていた。

また裕福では無い国というものが数多く存在していた。そういった国ではまともな手段では便利な道具に囲まれた生活が送れず、壊れた自然環境により発生する影響をまともに受ける生活を送らざるを得ない住民が多数存在していた。最低限の食料や水の確保すら危うかったり、得られても道具を作る過程で生み出された毒に汚染されてしまっていた。そういった状況を解決するために別の国の持つものを奪う事で解決しようと考える人は多く、そのための人を効率良く殺す暴力的な道具もいっぱいあったために、一部の人が裕福な生活を得るために、多数の死者と生活困窮者を量産しているような悲惨な国になってしまっていた。

またボタン1つ押すだけで遠くにある街の1つを破壊し尽くすような高度な技術で作られた道具も作られていたらしく、周辺の国より優位に立つという見得のために、国民を飢えさせてでも開発している国の指導者が複数いた。またそういった国の指導者はやせ細った国民の状態と逆行するように太っている場合が多く、国民に寄り添った指導者が選ぶ道では無いと思いつつも、だからといって便利な道具を手放したり、その国の指導者をどうにかしようと僕は全然考えては居なかった。

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