第8話 脱出の実行

日付も変わり2時頃になった。

前世では丑三つ時という時間で、夜が最も深いとされていた。妖怪という怪物が最も活発する時間で脱出時間としては相応しいと思った。

屋敷を透視して見ると、起きて居るのは見回りの執事が何人かと、夜泣き中の腹違いの弟をあやしている乳母らしき使用人だけだった。

敷地内で起きている人も8か所の門の番と見張り台で監視を行っている衛兵の合計29名。仮眠から起きたばかりの衛兵の交代要員が10名、子作りしている使用人夫婦が1組で2名、後は夜泣きの赤ん坊とそれをあやしている女性が2組の4名だけだった。


僕からその情報を聞いたマリア母さんは、決行可能だと判断したようで、僕に抱き着きお願いねといって額と頬にキスをした。


脱出は超能力の力だけで行う予定なので2人は先に脱出する計画になっている。

火魔法でも放火は可能だけど発動者から火線が飛んでいくので使用者の位置がバレてしまう可能性があるのでしない方がいいらしい。

俺の超能力は認識したものに直接働きかけるものなので使用者の位置がバレにくい。僕の力の事を何度も説明しているのでマリア母さんとリサは脱出では足手まといになるという話になったのだ。


砦には何度か出かけて調べていたけれど、奥の方に雨漏りをしない広い部屋が残っていた。そこには少しづつ溜めていた保存食を運び入れてある。2名の時に小屋の中の家具や生活道具も移動させてしまうのでそれを生活しやすい様に配置して貰う方が都合が良いと思った。

地下にも使えそうな部屋があったけれど少し崩れていて外気が漏れてしまう状態だった。だけど熱変化で冷やして冷蔵庫として使えないかと思っている。外気が漏れてしまう壁も土魔法や水を凍らせて埋めるなどすれば良いと思っているのだ。断熱と家内から毎日熱変化で冷やさないといけないけれど、砦に隠れ住んで居る間なら毎日近くに居るし、頻繁に使う事は超能力の鍛錬をしているのと一緒だ。


2人を砦に運んで小屋に戻ったのだけれど長距離の移動だったためか1往復だけなのにお腹が猛烈に空いてしまった。あらかじめ用意していた蜂蜜と果汁と塩を溶かした水を飲んで力が回復するのを待った。


回復したあとマリア母さんが僕の話を聞いてまとめてくれていたリストを参考に運べなかった宝物や書類などを一時的に小屋に移動させてからまとめて砦に移動させた。

短距離移動で荷物をまとめその後遠距離移動をした方が力の消耗が抑えられるからだ。

4回小屋と砦を往復をしたところで予定していた荷物の運び出しは終わった。

透視と千里眼で最終確認したけれど忘れ物は殆どない。


最後の回復をしたあと屋敷の予定ポイントをどんどん着火していった。

最初に着火したのは爆発の首輪の魔力装置がある部屋で、それは確実に破壊していきたかった。

牛脂を温め液体にしたら部屋にばら撒き着火する。


特に恨みひとしおな父親の寝室の近くもきちんと着火していった

全部着火し終わるのに10分程かかってしまったけれど起きている使用人の居る場所から離れた位置から着火していったため着火を終えてから30秒経っても誰も気が付いて居ない様だった

ただ火に照らされたカーテンが揺れていて小さくパチパチと音がする状態が聞こえているだけだった。


まず最初に気が付いたのは見張り台で監視していた衛兵の1人だった。

屋敷の部屋が明るくなった事に気が付きそれが火だと気が付いたようで、鐘をガンガン鳴らして知らせようとしたようだ。

敷地の壁の上にある見張り台で慣らされた鐘は、屋敷より一般人が住む場所の方がよく聞こえるだろうけど、早く異常を周囲に知らせるには一番良い方法だった。

次に見回りの使用人と親父がほぼ同時に気が付いたようで叫んでいた。父親は水魔法を使うか少しだけ躊躇していたけれど、それどころじゃないと考えたみたいで使い始めた。猛烈な勢いで水が吐き出された事で窓が内側から弾け飛び、屋敷の階下にも濁流となって流れて色々なものを破壊していったけれど、焼け死ぬよりはマシだと考えたのだろう。

その後は、気が付いた人が増えていき屋敷全体が騒がしくなっていった。

使用人の住居でも鐘の音に気が付き起きた人が居るようで屋敷の異変に気が付くのも時間の問題という感じだ。


殆どの人の目線が屋敷に注目した事を確認したので、俺は屋敷から離れた倉庫などにも移動しどんどん着火していった。

飼い葉の確保に協力してもらった馬には罪が無いので厩舎には火を付けなかった。。

使用人たちには嫌がらせを受けたという恨みがあったけれど点在しているので脱出を優先して火はつけなかった。

色々持ち出し過ぎていた食料倉庫は証拠隠滅のために完全に燃え尽きるように念入りに焼いた。

氷室はさすがに燃え尽きるのはおかしいので屋根と壁を焼き、内部に保管されている氷を全て温度調節で溶かすだけにした。


気が付いた使用人達は屋敷の消火のためにどんどん屋敷の周囲に集まってきた。

その際に小屋の近くを駆けていく使用人も居たけれど小屋に注目し立ち止まる人は居なかった。

俺は偽装死体を床下から移動させた後で小屋に火を付けた。

元々古びた木造であった事と、脱出前に柱などに油を大量に塗っておいた事もあって、屋敷より早く火が広がってくれた。

マリア母さんとリサの作った計画通りに物事は進んでいると思う。


小屋が燃え上がってもしばらく離れた所から様子を見ていたけれど、1人の使用人が駆けて来たので急いで砦に移動した。


全て終わるのに2時間以上かかってしまった事もあって空は既に少し白み始めていた。

屋敷から奪って来ていたパンを食べながら屋敷の千里眼で見ていたけれど、屋敷は石造りだったため、崩れ落ちる所までには至らなかったようだ。

それでも重要な場所は殆ど焼け落ちるか水で洗い流されかなりの被害が出ていた。


俺たちに同情するような行動を取ったために、爆発の首輪をつけられ自宅で謹慎させられていた使用人が1人居たけれど魔力装置は破壊されたはずなので首輪は動作しなくなっているだろう。

助けてあげる事は出来るけれど、現時点では余計なリスクは抱えれ無いとの事で自分の力で逃げて欲しいと願うという事になっていた。


屋敷の内部を見ると着火ポイントは内装が焼け焦げ炭と瓦礫が散乱するだけにになっていて残っている物も元が何だったら良く分からなくなっていた。

その内焼け残って居なければおかしいものまで無くなっている事に気が付くだろうけど、僕達だとバレなければ、それまでは正体不明の泥棒の仕業という事だし、バレても逃げ切るつもりなので問題無らしい。

父親の領には近寄らないつもりだし、別の拠点を見つけ次第移動する事も出来るので、つかまりはしないと思う。

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